家族との話し合いです
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あれから暫くドアの外で音がしていましたが、いつの間にか静かになって、私はそろそろとベッドの下から這い出しました。そうしてベッドの上に座ると、大きな溜息を吐きました。
改めて、自分が置かれた状況を整理します。
私が戻ったのは、10歳のあの時……。婚約誓約書にサインをするその瞬間でした。私が塔から落ちている時に願った時間です。ここに戻ったと言う事は、神様がやり直せとそう、仰っているのでしょうか……?それとも、もう一度あの辛い出来事を繰り返さなければならないと言う事でしょうか?それは幾ら考えても詮無い事です。それならば、あの事を繰り返さない為にも、足掻くしかありません。時が戻ったことは私しか知らない事なので、一人でどれだけやれるのか、私には想像もつきませんが、それでも頑張らなくては……。私だけでは無く、私の大事な家族の為にも……。
私はそう決意しました。
そうして私はその日はそのまま部屋の鍵を開けることも無く、一人で部屋に閉じこもりました。時折マーニャが心配そうに声を掛けますが、それには応えない事にしました。とりあえず、どれだけ私がサインしたくないのかを家族に解って貰わなければなりません。マーニャや家族には申し訳無いのですが、仕方ありません。
翌朝、目を覚ますと、いつの間にかマーニャが部屋に入ってきていました。とても心配そうに私の顔を覗き込んでいます。
「お嬢様、お腹は空いていませんか?昨日はおやつを召し上がったきりでしたから……。すみません、心配で合鍵を使って入ってしまいました……。」
「マーニャ……。」
ごめんなさい……。マーニャは悪くありません、でも、大事な事なのです。
「ありがとう……。昨日はごめんなさい。」
私が答えると、マーニャは安心したように笑って、朝の支度を整えてくれました。
「いつも素直なお嬢様が、あんな事をされるなんて、皆驚いておられました。」
よっぽどサインしたくなかったのですね?とマーニャは私の髪を編みながら説明してくれました。
昨日はあの後、とりあえず保留になったようです。もう一度家族で話し合って、その上で返事をすると、お使いの方には帰って貰ったそうです。
「旦那様も奥様も、とても心配なさって……。今朝も食堂で早くからお待ちです。」
マーニャの言葉に私は頷きました。
お父様、お母様、心配掛けてごめんなさい。でも、私たちの為なのです。いつか話せる日が来るまでは、ごめんなさい……。
心の中で二人に謝ってから、私はマーニャに連れられて食堂に向いました。
「お父様、お母様、おはようございます。昨日はごめんなさい……。」
食堂に入って直ぐに二人に声を掛けると、お父様が、席に座るように目で指示をしました。食事を取りながら話そうと言う意味でしょう。私は大人しく、席に着きました。お母様は心配そうに私を見ています。
「プリシラ……、もう大丈夫なのか?」
お父様の言葉に私は頷きました。お母様は少しほっとしたような顔をされました。
「お父様、お母様、ごめんなさい。」
私は素直に謝ります。お父様とお母様の顔に少し笑顔が戻りました。
「いや、怒ってはいないよ。プリシラ、君は婚約は嫌なのかい?」
お父様が、ストレートに尋ねられました。私はこくんと頷きました。
「私、まだ十歳なので……。婚約とかしたくありません。まだまだお父様やお母様と一緒にいたいです。」
普通の貴族との婚約ならいざ知らず、王子と婚約をすれば、お后教育と称して王城に行き来せねばならず、家族との時間は確実に減ります。特にお父様は宰相のすぐ下の地位にあるので、益々会う時間も無くなる事でしょう。
お父様とお母様が顔を見合わせ、赤くなって口に手を当てプルプルしてますが、私何か変な事を言ったでしょうか?私が不思議そうに見ると、コホンと咳払いをしてから言いました。
「……解った。私から陛下にお話してみよう。」
その言葉に私はホッとしました。とりあえず、婚約は回避出来そうです。
「お父様、ありがとうございます。」
私がニッコリ笑うと、お父様は顔を一瞬ふにゃんと崩して、ゴホンゴホンも咳払いをした後、う……うむ。と答えました。
「お父様、風邪でもひかれましたか?気をつけてくださいね?」
と、私が言うと、お母様が手を口に当てて肩を揺らしていました。
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