牛丼と卵
「いらっしゃいませー」
昼時が忙しい牛丼チェーン店。汗を流し、頭を回し、カロリー消費。補うためにも昼飯は大事だ。
…………ホントに、昼飯をとらせてくれませんか(現実)。
昼飯よりコストカットをされている社畜達もいるものだ。
「5卓様、並、卵いっちょー」
「お会計。594円になります。レシートご利用でしょうか?次回から使えるサイドメニューの割引券をどうぞー」
厨房に2人、案内やら片付けやらレジやら3人。計5名でお店の繁忙時を凌いでいる。
あと10数分すれば、一気に客は減って落ち着きをみせる。
そんなときである。
「2卓様、並いっちょー」
「6卓様、並のAセットー」
「割引が入って、会計が683円となります。カードですね」
なんでそーいう人がいるのか分からないが、なんででしょうね?
「おい」
「はい。なんですか?」
バイトの川中が注文を受ける。……と思ったら、牛丼の並で受けている2卓様だった。とはいえ、追加注文だろう。
「卵」
「分かりました。2卓様、卵追加ー」
「違う」
「はい?」
「卵をつけろ」
混んでいるため、空気の変化に周りは気付けていないし。その言葉に卵の追加注文としか分からず、
「分かりました」
そりゃあそうだと。一般的な解釈で話を進めてしまう。
厨房が牛丼を作り、別皿で卵を乗せ、領収書を添え、川中が2卓様に運ぶ。
「お待たせしましたー。並と卵でーす。ごゆっくりどうぞ」
「……おい。なんで卵の料金入ってんだ?」
「え?」
自分が受けたお客様。牛丼の並と追加注文で卵でお間違いない。それは間違いじゃない。
客の言い分は
「そのサイドメニューの割引2枚使うから、料金から消せよ」
「それはお会計の時に致しますので」
「だ・か・ら!!分からねぇの!?2枚使って卵分になるから、これは牛丼並分の料金にしろって言ってんだよ!」
何言ってんだこいつ……。
「後で払う!」
卵一つ100円なのに、なんなんだこいつ。
当たり前だが、そんなことなるわけがない。川中が少々困っていたところに先輩が助け船。
「お会計の時でいいですか?サイドメニューの割引は会計の時に、こちらがご確認しますので」
「ああっ!?」
そう言って男は怒りながら、牛丼と卵にありつく。
割引されているかどうかは会計の時にしかできない。こいつが会計行ったとき、揉めるかもなーって思っていると案の定だ。
「はい」
牛丼の並分しか払わない。
「あの、サイドメニューの割引券は?」
「そこに積まれてるの2枚使う」
「これ次回から使えるんですけど」
「前借りもわかんねぇのかよ!?なぁ!!」
100円ぐらい払えよ。
そう心に思っているところにまた先輩が助け船で、会計を代わる。
「1度の会計に割引券1枚なんで。卵を無料の場合、牛丼の並、3杯分の料金が必要になりますけど?それでも揉めたら……」
先輩が凄んで会計に入って来る。
次の反論は、警察沙汰にするという表情。たかが100円程度のこと。
「ふんっ」
仕方なく、100円を払う男。警察などを呼ばれるのは嫌らしい。
ムカつく態度のまま、男は店を出ていく。
「あ、割引券忘れてる」
「今度は忘れたけど、割引しろとか言ってきそうね」