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「博士、お話があります」
神妙な面持ちで立野くんが研究室に入ってきました。
「何かね?」
「実は、大学院を受けて受かったんです」
「ここを辞めるのかね?」
「いいえ。むしろ、研究助手から研究所職員になりたいと思っていてそれで、そのために受けました」
「うーん。まぁいいじゃろ」
「ありがとうございます」
立野くんはホッとしました。
「1つ条件をつけよう」
「えっ?!」
「こちらへきたまえ」
実験室の一つに案内されました。
「こんにちは!」
「こんにち…わあっ!?」
なぜか売れっ子歌手のミドリちゃんがいました。場違い過ぎて立野くんはびっくりしたのです。
「なんでこんなとこにミドリちゃんがいるんですか?」
「AIロボットじゃよ」
「なにも有名人そっくりに作らなくても…」
「昨今、規制が厳しくなってな、人間と見分けがつくように左上腕にロットナンバーが入っとる」
「いやん、博士のえっち!」
博士がミドリちゃんの袖をまくろうとしたら、ミドリちゃんが色っぽい声で言いました。
「こんなの作ってどうするんですか?」
「大量生産して売る」
「ひどいわ!」
「ひどいです!」
味方したので、ミドリちゃんは立野くんに好意を持ちました。
「どんだけ精巧に作ってあるんですかっ!?」
「そこじゃ!」
「えっ?どこ?」
「加減がわからんのじゃ。立野くん、この娘を連れて帰ってしばらく一緒に暮らして気づいたことを報告してくれたまえ」
「えええっ!?」
「料理洗濯掃除なんでもやってくれるぞ。リクエストしたら歌ってもくれる」
「えーと、でもお」
「これが交換条件じゃ。大学院、行きたいんじゃろ?」
「…はい」
立野くんは博士にこうして押し切られてしまいました。