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永遠を生きる異形と「運命の申し子」の少女の物語  作者: 相沢龍華
第三章 魔術・世界についてと王国の歴史や現状、三人の選択
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<ディートハルト・ハインリヒ>:友人二人の屋敷への招待

誤字・脱字等あれば、ご報告お願いいたします。読みやすくなるように、修正・整理中です。

 アークメイジに呼ばれて、一週間ほど経った。

 その間に、アルバートには、自分は蒼の派閥のマスターを辞退したこと、そして学院を休職扱いにしてもらったことを話しておいた。



 ツウェルツはすでに知っていたからな……。



 それを聞いて、アルバートは何か考え込んでいる風だった。

 今日は、共同で使用する仕事部屋に三人で集まり、話をしている。


「……あー……、やっと仕事がひと段落しそうだ…………。マスターになったら、もっと忙しくなるんだろうけど、とりあえず休めそうだよ……。」


 ツウェルツは、ぐったりしながらも言う。


「我も、ただひたすら惰眠を貪りたいぞ…………。」


 アルバートも、それに同調するように言う。


「お疲れ様。二人とも、休みをもらえたんだろう、よかったじゃないか。」

「うむ。少しはゆっくりできそうぞ……。ディー……、お前はいいよな……。休職扱いにしてもらえて。まあ、娘の教育という、もっと責任のあることをしないといけないが…………。」

「まあ、そうだな……。大変だが、あの子は教えがいのある子だぞ?もう、簡単な魔術の構文であれば、自ら作ることもできるようになった。」

「ほう、それはすごいことではないか。まだ、幼いのであろう?……えー、歳はいくつだったか?」


 彼は、頭を掻きながら、そう尋ねてきた。


「……困ったことにな、分からないんだ。見た目では、5、6歳くらいなんだが、前に聞いてみたら紙にもっとお姉さんだもん!と怒ったように書かれてな……。頬を膨らませてむくれていたよ。ただ、本人も年齢に関してはよくわかっていないようなんだ。精神も、幼い感じがするしな。」

「……あの子は……、体中に痣があったというから、親に虐待を受けていたんだろうね。そして、捨てられたことで十分な栄養を得られずに体の成長も止まってしまっていたんだろう。親に虐待を受けた子は、見た目より精神が幼くなると聞くから。」


 そんな俺に、ツウェルツはそう教えてくれた。



 ……ツウェルツは、意外にそのあたりのことにも博識だ。まあ、ギルドで保護した子供たちのところへ、暇を見つけては遊んでやりに行っているようだしな。その時に、その子供たちを担当している人物に色々と聞いたんだろう。魔術を使えるせいで、親に虐待された子もいると聞く。



「……あの子を拾って、少し経つが、よく表情を表に出すようになってきた。嬉しそうなときは本当にニコニコとしているんだ。ただ、悲しいときもはっきりと表情に出るから、そんな時はどうしていいか分からずにうろたえてしまうんだよな……。悩ましいことだ。」

「はは、珍しいね、君がそんな風に振り回されるなんて。」

「まあ、それも悪くはないがな。」



 …………きっと、俺はあの子に、あの日に焼き殺された子供の姿をどこか重ねているのだろう。大人になるまで、育ててやれなかった、幼い我が子を。名前も、顔も、そして性別すらも思い出せなくなってしまったが、それでも、子供がいた、ということだけは記憶の片隅に刻まれている。


 そして、なにより、狂気に取りつかれそうになる俺を、正気にとどめてくれているのは、あの子の存在が大きいのだろう。



「ディー……、幸せそうだな。あの頃のお前からは、考えられないぞ。」

「うん。いつも何かにピリピリして、どうしようもない苛立ちを抱えていたのは、伝わってきていたからね。あの子に会って、それが小さくなって、優しくて柔らかい雰囲気になったよ。」

「…………あの頃の、俺は……、お前らに置いていかれるんじゃないかと、それが怖くて、な。お前らは、そんなことをする人間じゃないと、分かっているはずなのに…………。」


 俺はゆっくりと首を横に振りながら言う。


「君は、私たちと違って、理論派だからね…………。でもね、私だってそんな風に感じていたことがあるんだよ?だから、私も君と同じさ。……置いていかれないと気付いたのは、いつのことだったか…………。」


 ツウェルツは、昔を懐かしむように言う。



 ……彼も、だったのか。気づかなかったな……。



「そう、だったのか…………。意外だな……。」


 俺は、しみじみと、そう呟く。しばらく沈黙がおりた。そんな中、アルバートは、何かを考えこんだあと、意を決したように、言う。


「……二人に、話しておくことがあるのだ。我は、蒼の派閥のマスターを引き受けることにした。」

「……やはり君も、候補に選ばれていたんだね。ディートハルトが辞退したから、君に回ってくるんじゃないかと、私はそう考えていたけどね……。」

「しかし、お前が引き受けるとは、珍しいな。お前、そういうことは嫌いだろう?」


 彼にそう問いかけた。


「……評議会は、未だに根強い差別が残るところよ。ディーがマスターになるのであれば、別に我がマスターにならずとも、陰ながら支えればよいのだがな。ディーが辞退して、もし我がマスターにならなければ、保守派の人間がマスターになることになろう?我は……、そんな差別の残る場所に、ツウェルツ……、お前をただ一人送り込んで、自分だけ黙って見ていることなど、できぬのだ……。」


 その問いに対し、彼は目を閉じ、深く息を吐いてそう言った。



 ……アルバート……。俺が、辞退したからな……。お前だって、差別を受ける側であることは、変わりないというのに…………。

 この国は、出自の分からない人間を嫌う。疎む。ないがしろにする。俺が保守派からの支持を集めるのも、この「器」が王国の最上位の貴族である公爵位であり、王とは祖父が兄弟だからというものが大きいのだろう。


 全く、くだらないな……。「人間」はどうして、そのような肩書に振り回されるのだろうな。力のあるものが正義。それが、普遍的な事実だろう。



「……ありがとう。君だって、出自の分からない人間だ、そんな存在が保守派の多い蒼の派閥のマスターに就くとなると、私なんかよりずっと苦労することになるだろうに…………。」

「何、苦労などこの見た目のせいでし続けてきた。何も変わらんさ。ただ、それが少し増えるだけのことよ。」


 アルバートは、笑いながらそう言う。



 こいつは……、そんなことを、どうして笑いながら言えるんだ。



「……二人とも、すまないな…………。」

「別に、構わぬさ。……それにな、マスターになればすべての書物も閲覧できるであろう?禁書指定のものでもな。楽しみだぞ、あれすべてを堂々と読むことができるなど、夢のようだ。」

「全く、君という人は…………。」


 そんなことを言うアルバートに対し、ツウェルツは苦笑している。



 ああそうだ。二人には言わないといけないことがあるのだった。



「……しばらく、休みを貰えたんだろう?二人とも、俺の屋敷に泊まりに来い。じっくり疲れを癒して、英気を養っておけ。休みが終わったら、さらに忙しくなるんだからな。」

「ありがとう、ディートハルト。君の好意に甘えさせてもらうよ。」

「その提案は、ありがたいのだが……。……ディー。お前、娘を我に会わせたくないとか言っておらなんだか?」


 俺の提案に対し、アルバートはそう返してくる。俺はそれに苦笑しながら言う。


「本当は会わせたくないんだが……、仕方がない。お前にしか教えられないこともあるからな……。あの子の髪と、瞳の理由。お前は、それを知っているのだろう?」

「…………。あの子には、まだ、理解できぬことよ。そうだな……、十年後くらいか。その時に、また会わせてくれるというのであれば……、考えておこう。」


 アルバートは、目を閉じ、考え込むようにして言う。



 やはり、知っていたのか。……そして、こいつは、おそらくアルマが同じ髪と瞳である理由も、知っているのだろう。ツウェルツが、あの子とこいつが「同じ」存在だと感じる、ということと、何か関係があるのだろうか。



「……分かった、いいだろう。俺たちがいると話しにくいというのであれば、二人で話させてやる。」

「……すまぬな、ありがとう、ディー…………。」


 アルバートは、そう呟く。


「……まあ、屋敷にいる間は、俺がしっかり監視しているからな。……妙なことを吹き込むなよ?」

「はは、分かっている。あとは……、使えるかどうかは分からぬが、我が教えられる魔術については、一通り教えてやりたいと思っていたところだ。あの子がもし……、『そう』であるなら……、使えるはずなのだからな……。」



 風と、地の魔術をか?あの子が?


 ……あの子は王国人だ。風の精霊であるアエラ、地の精霊であるテッラは、ルクスが二つの国を滅ぼした際に手を貸した、炎の精霊イグニスと、水と氷の精霊アクアの行為に立腹し、ルクスの力を借りた存在の末裔である王国人には決して力を貸さない。

 だから、いくら魂と心と魔力を移し替えようと、この「器」が王国人である限りは、俺は風と地の魔術を使うことができない。あの子も、使えるはずがないのだ。



「ま、とりあえず、共に屋敷に帰ろう。特に支度はいらないぞ、着替えとかは全部こちらで用意してやるからな。支度をしていれば、時間がかかるし、荷物になるしな。……特にアルバート。お前、そんなことをしたら、貯まった服を洗わずに放置するだろう?」

「…………。」


 アルバートは黙っている。


「そうだね、行こうか。……ヨルは、一人で待っているわけだし、ね。」

「ああ。きっと、喜んでくれるだろう。」

「……我の姿を見て、怯えたりせぬだろうか……。不安だ。」


 アルバートはどこか不安そうに呟いた。


「はは、大丈夫だよ。同じ髪と瞳の色だし、君とヨルは似た雰囲気を持っているから。」

「ああ。あの子は、見た目に関しての偏見はないだろうさ。王都の下層で暮らしていたのだからな。」


 三人で、そんなことを話しながら、屋敷への道を歩いていく。



 まあ、こういうのも、悪くはないな…………。



 ふっと、そんなことが浮かんで、消えていった。

今回の更新は、これで終わりです。前回4編投稿したのと、次編が今回より長いので、これくらいにしておこうかなと。たくさん更新しすぎると、読むのが大変だと思うので。

初めて作品を作り、投稿しているので、投稿ペースを毎日にすると一度にどれくらい更新すれば分からなくて右往左往しております…。さくっと気軽に読める分量がいいのかな、とは思うんですが…。早く登場させたいキャラもいるので、思案中です。

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