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永遠を生きる異形と「運命の申し子」の少女の物語  作者: 相沢龍華
第三章 魔術・世界についてと王国の歴史や現状、三人の選択
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<ディートハルト・ハインリヒ>:ディートハルトの選択

誤字・脱字等あれば、ご報告お願いいたします。読みやすくなるように、修正と整理中です。

 今日はアークメイジから呼び出されたため、学院に来ている。


 そろそろマスター選定の時期だからな。呼ばれたということはそういうことなのだろう。だが……今はまだその時ではない。


 マスター。二つの派閥のトップとも呼べる存在であり、アークメイジと並ぶギルドの顔となる存在。ギルドと呼称してはいるが、魔道士を養成する機関と、魔道士の把握と管理を行う機関が合わさったものだ。

「紫紺の学院」は養成機関の部分のみを指している。かなり昔は紫紺の名の通り派閥がなく紫がギルドの象徴だったようだ。


 だがトップ一人に権力が集まるのはよいことではないということで、蒼と赤の二つの派閥を作り出し、アークメイジと呼ばれる、ギルドの長であり学院の長である階級と、二人のマスターの階級を作ることで権力を分散させる形になったとされている。蒼は保守的な人間が多く属する派閥であり、赤は革新的な人間が多く属する派閥となっている。


 だが、蒼の派閥のマスターには革新的な考えを持つものが選ばれることもあるようだ。

 また中には少数だが派閥に所属しない人間もいて、俺たち三人もそのうちに含まれている。



 色々と面倒だからな。俺は……器の出自により保守派の支持を集めているが、あとの二人は革新派の支持を集めている。なにより二つの派閥は対立する傾向にあるからだ。アルバートは自由人だからそういう派閥のしがらみや権力争いを嫌い、派閥に属するつもりはなかったようだ。俺も同じ考えだったし、ツウェルツは二人が所属しないのなら、私もしないよ、実を言うとああいう空気は苦手なんだ、と苦笑していたな……。



 アークメイジの待つ部屋の扉をノックする。


「どうぞ、入っていらして?」


 扉を開けると、当代のアークメイジであるクラウディアと、現蒼と赤の派閥のマスターが待っていた。アークメイジが口を開く。


「ディートハルト・ハインリヒ。あなたを蒼の派閥のマスターとして支持する声が多いの。引き受けてくれるかしら?」

「……申し訳ありませんが、辞退させていただきます。」


 そう言って俺は頭を下げる。



 かねてから考えていたことだ。今はあの子のために時間を割きたい。



「それはどうしてかしら?」


 顔を上げた俺にアークメイジはそう問いかけてくる。


「……この冬に、王都の下層で死にかけていた幼い子を拾い、俺……私の養女として迎えました。その子は心にかなりの傷を負っているようで、拾ってから一切話すことができないのです。だから私はその子の心の傷を少しでも多くの時間を共に過ごすことで、癒してやりたいと考えています。」

「そんなことが……。そういえばあの日、娘がいると言っていたものね……。その子はきっとつらい目に遭ってきたのでしょうね。」


 彼女は目を閉じ、そう呟いた。どこか悲しげだ。


「……未だ話すことができないのが、何よりの証拠なのでしょう。またその子は、触媒なしでも魔術を使える稀有な子であり、今から魔術を教え込めば、将来この国の役に立つことは間違いないと考えています。捨てられていた子でありながら、物覚えもよく、知識の吸収も速い。そのためしっかりとした教育も施してやりたいのです。」


 俺はそれに対し、こう返答した。


「……そう。決意は、固いのね?」

「はい。決めていたことです。」

「分かったわ。あなたの決断を受け入れましょう。」


 彼女がそう言った後、蒼の派閥のマスターが口を開く。


「そういうことなら、仕方がないな。幼い子を抱えているのに、上級より雑事に追われ、忙しくなるマスターに就かせるわけにもいかない。評議会には、一身上の都合で辞退したと伝えておこう。」

「ありがとうございます。……また、これは相談なのですが、今述べた理由のため、授業の担当から外していただきたいのです。」

「……そうね。あなたの授業は理論的でとても分かりやすいから学生から人気だったのだけれど。そういうことなら仕方ないわね。」


 アークメイジはため息をついて言う。


「ありがとうございます。無茶を言って、申し訳ありません。」


 俺はそう言って謝罪の言葉を述べた後、頭を下げておく。


「いいのよ。それくらいはね。学院は休職扱いにしておくわ。何か用事があれば呼び出されることもあるかもしれないけれど。……ディートハルト。いつか、その子に会わせてもらえるかしら。あなた、険が取れて少し柔らかい雰囲気になったわ。あなたをそんな風に変えた子に会ってみたいの。」


 彼女は優しげにそう声をかけてくれる。


「そう、ですか。……自分では、分からないものですね。あの子に会うまでは……アルバートとツウェルツという二人の天才に挟まれ、彼らに置いていかれないよう、必死になっていたものですから。私は一つの種類の魔術しか使えませんので。」

「……あなたは十分天才よ、ディートハルト。人の記憶を読み取り、展開する魔術を解析し、再構築し、再現性を持たせた。さらに記憶によって複雑に変化する媒体に、さらに複雑な転移術式を組み込むなど、およそ普通の人にはできないことなのよ?」

「……いえ。自分なんて、まだまだです。本当にすごいのは、それを感覚でやってのけたアルバートですよ。」


 一度言葉を切り、思いあぐねるようにしながら、話し出す。


「……私は自分が置いていかれるのを恐れていた。けれど娘を引き取り、娘の世話や仕事でさらに忙しくなった私を、二人の友は何も言わず手伝ってくれました。自分たちも同じように仕事を抱えているというのに。……そして気付いたのです。彼らは決して、自分を置いていったりはしないのだと。そんなことに気付くのに、ずいぶんかかってしまった。」



 ……あの二人は、間違いなく天才だ。比べても仕方がないと思いつつも、比べてしまい、そのたびに苦悩してきた。俺は、天才などではない。あの二人を見ていれば、天才がどういうものであるかが理解できてしまう。彼らは魔術を語るとき本当に楽しそうに語るのだ。俺は……そんな風に魔術を語ることはできない。



「いいえ。自分で気づけたのだから、よかったのではないかしら。……娘さんの名前はなんというの?」

「ヨルと言います。……自分を捨てた親に付けられた名前など嫌だと思い、私が付けました。とてもかわいらしい子ですよ。将来、あの子が幸せになれる嫁ぎ先を考えてやらねばならないというのが悩ましいところですね……。」


 俺はそう言って苦笑いをした後、言葉を続ける。


「ツウェルツは王国に来る際に、長老衆から一族外の嫁を見つけて来いと言われたそうですが、その条件が魔術の才能が有り、魔力も多いことが条件だそうで。……一度会った時に、冗談半分で言ってみたのですが、さすがに歳が離れすぎているから、と断られてしまいました。」


 俺は笑いながらその時のことを話した。



 ……ヨル。どうして俺は、あの子にその名前を付けたのか。……分からない。……もう、思い出せない、顔も覚えていない大切な誰か。その人が……そんな名前であったような気がする。……ああ。どうして、思い出せないのか。最愛の人であったはずなのに。

 そして……その傍らにはもう一人、誰かがいたはずなのに。……俺の記憶には……その二人のことを誰よりも、何よりも深く愛していて、二人のためになら……、自分の三元をなげうってでもいいとさえ思っていたことが、深く刻み込まれている。



「ふふ。あなた、とても満ち足りた表情をしているわ。その子のこと、本当に大切に思っているのね。」



 ……そうなのだろうか。分からない。あの子は……復讐の駒にするためだけに拾った。そしてこれはあくまで、そういう風に演じた方が都合がいいから、というだけのはずだ。



「……そうでしょうか。そう見えるのなら、そうなのかもしれませんね。……私は四年ほど前に、最愛の妻と子を失いました。だから今は、彼女が私が生きていくための支えでもあるのだと、そう思います。」

「……あの時は、本当に申し訳なかったと思っているわ、ディートハルト。」

「済んだことです。あなたが悔やむことではない、クラウディア殿。……では、失礼します。」


 そう告げて、部屋を出る。



 いずれ、この国が滅びることになるとも知らず、愚かなことだな。奴隷の末裔どもが。ルクス・レイの協力がなければ、我らを倒すこともできなかった、弱きものであるくせに。そんな存在が、我が物顔でのうのうと生きている姿は、腹立たしい。

 俺から、すべてを奪い、多くの罪のない人々を焼き殺しておきながら。それだけではなく、我らの後に獣人が支配した国もまたルクス・レイが雪と氷に閉ざし、同じようなことを繰り返した。


 ……神の手によって奪われた、多くの罪のない人々の上に、成り立っている国―――。そんな国が存在することなど、許されない。

彼の抱えているものを、少しでも感じてもらえれば幸いです。そして、彼が主人公であるヨルを通して、どのように変わっていくのかも。

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