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永遠を生きる異形と「運命の申し子」の少女の物語  作者: 相沢龍華
第三章 魔術・世界についてと王国の歴史や現状、三人の選択
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魔術訓練

※少しでも読みやすくなるように修正を加えているところです。

 お兄ちゃんに会ってから数日後。今日はまた、イリオス様が来てくれた。父様と一緒に私の魔術を見てくれている。

 手のひらの上に炎を出せるようになった。なんとなく、力を使う感覚がわかってきた気がする。


「お、前に出していた炎より、大きな炎じゃないか。すごいぞー。」


 イリオス様はそう言って、頭を撫でてくれる。



 えへへー。



「まあ、俺がつきっきりで教えたからな、当然だろう。」

「君は炎の魔術については素晴らしいからね。じゃあ、今日は水や氷の魔術について教えてみるよ。」

「頼む。俺は、一つの属性しか使えないから、複数属性の扱いは、よくわからないんだ。」

「任せてくれ。……ヨル、まずは炎を出したままにしておいてくれるか。できるかな?」


 その言葉に頷く。


「では、そのまま、目を閉じて、深く潜っていくんだ。今、使っている炎の力以外に、何か別の力を感じないか?」



 うーん……、うー……んと……。これ、かなあ……?



「それに触れてみるといい。どんな感じがする?」


 言われた通りそれに触れる。



 なんだかちょっと冷たい?



「もしそれが冷たいのであれば、それは氷の力だ。そして、光り輝くような感じがしたら、光の力というわけさ。……手の炎はもう消しても大丈夫だ。もともと、別の力に気付くためのきっかけのようなものだからね。」



 そうなんだ。……すごく分かりやすい説明だと思う。



「さて、氷の力を感じたら、炎の力を引き出した時と同じようにするといい。その時のことを思い出しながら、するんだ。」


 言われたとおりにそれを行う。すると、手のひらの上に何かを感じる。目を開けると小さな氷の塊ができていた。


「すごいじゃないか、ヨル!君も、複数属性を扱える人間だということだよ。しかも、炎と氷の両方を使える人間は、そうそういないんだ。王国の中では、私くらいなんだよ?」



 イリオス様って、そんなにすごい人だったんだ。父様もイリオス様も平然としているから、いまいちすごさが分からないんだよねー。自分にはできて当然っていうか。でも、それを他の人にまでは求めない、というか……。



「炎と水・氷属性は、相反するものだからな。ほとんどの人間は、同時に扱えないんだ。」

「……そうかな?確かに相反するものだけど、氷から水を生み出すには、炎が必要だろう?そして、炎を消すには、水が必要。つまり、両方の属性は切っても切り離せない関係にあるんだ。それに気づかない人が、多いだけじゃないかな。」

「……そうだな、確かにその通りだ。だが……王都では、ほとんど雪が降らず、氷も張ることがない。そして、そんなことがあっても、自然と溶けてしまう。炎で氷を溶かすなど、普通の人間は思いつかないだろう。」


 父様に拾ってもらった日は雪が降っていたけど、そう言われてみれば初めてだった気がする。


「ああ……そういうことか。納得がいったよ。私はよく、氷の精霊が氷を生み出し、炎の精霊がそれを溶かして遊んでいるのを見てきたからね。当然のことだと思っていたんだ。」



 ……精霊?ってなんだろう?イリオス様には、見えているらしいんだけど……。よくわからない。



「……まあ、話はこれくらいにしておこう。ヨル、次は、水の力についてだ。水の力は、炎と氷の力を全く同じ分だけ同時に引き出さなければ、水にはならない。今氷の力を掴んだ君には難しいかもしれないけど、やってみてくれないか。」



 ……あれを、同じだけ、同時に……?じゃあ、あの時イリオス様が平然とあれだけの水の塊を作っていたことって、とんでもないことだったんだ…………。私なんて、小さな氷の塊を作るのでさえ、集中しないとできなかったのに……。



 そのことに気付いて、衝撃を受ける。


「……どうしたのかな?」

「なに、お前が言ったことと、あの時お前が見せた水の魔術についてが結びついて、驚いているのだろうさ。」

「あれくらい、何でもないよ。力を多く引き出すコツと、同じ量を同時に引き出すコツを掴めればすぐさ。」

「お前、アルバートの影響を受けてきていないか……?普通の人間には、それが難しいんだぞ?」

「でも、この子ならできるよ、間違いなくね。」

「それは、お前特有の『感覚』というやつか?」

「はは、よくわかってるじゃないか、ディートハルト。」


 イリオス様は、にこにこと笑っている。



 ……かっこいい。



 とりあえず、やってみることにした。うまくいかなくても、別にいいんだし。


 目を閉じて、集中する。今度は、自分の中に、はっきりと別の力があることに気が付いた。それを、同じだけ引き出そうとしてみる。



 むー…………。



 目を開けると、手のひらの上に、炎があった。


「あー、おしかったね。炎が出てから、氷が出来て、さらに炎より小さいものだったから、炎が残ってしまったんだ。……そうだね、今度は……、さっき引き出した炎の力より少なめに、氷の力は同じくらいの量で引き出してみるといい。そして、炎をさっきより遅いタイミングで出してみるんだ。」



 ……むー。頭が破裂しそう…………。難しいなあ。……あれこれ考えるのはやーめた。自分の感覚のみに頼ってみよう。



 目を閉じて、集中し、自分の感覚のまま、力を引き出してみる。


「お、すごいじゃないか!もうできるなんて、思わなかったよ。」


 そう言われて、目を開けると、小さいものではあるけれど、水の塊ができていた。


「ディートハルト、この子の才能は素晴らしいと思う。この歳で、水の魔術を使えるんだから。ちょうど、私もこれくらいの年齢だったなあ。懐かしいよ。まあ、私はもっと大きな水の球を作り出したのだけどね。」



 ……イリオス様、あなたは本当に人間ですか?



「幼いうちから魔術の才に気付ける環境があるというのは、素晴らしいことなんだなと今更ながら思うぞ……。俺が自分の才に気付いたのは、20を超えてからのことだったからな、魔道士としては遅咲きの部類だ。」

「いや、君の場合は遅咲きでも素晴らしい力を持っているじゃないか。魔術を使えるようになって、まだ四年程度なんだから。それなのに、君の炎の魔術は他に並ぶものがいないくらい強力なものなんだよ?それに感覚のみで行われていた分野の魔術の解析や理論の構築、再定義などについて、君の右に出るものはいないじゃないか。」



 え?父様、そうだったの?……私って、すごい人たちに囲まれてたんだなあ……。



「お前やアルバートと並んでも、見劣りがしないくらいの魔術が使えなければならないから、必死で努力しただけのことだ。俺は、そういう感覚が分からないから、理論を武器にするしかなかったというだけなんだよ。」

「……君はそういう努力は一切表に出さない人間だよね。けれど努力ができることも才能の一つなんだと、私は思うよ。」

「なら、いいんだがな。」


 父様は、しみじみと言う。


「ああ、そうだ、ヨル。すまないが、明日は学院の長である、アークメイジという方から呼び出しを受けていてな、屋敷にいられないんだ。だからこうして魔術について教えてやることができない。」

「え。君もなのか、ディートハルト?私も、アークメイジから呼び出されていてね、だから屋敷に来られないんだ。」



 二人とも、明日はお屋敷にいないのかー……。寂しいな……。



「そんな寂しそうな顔をするな。用事が終わったら、すぐに戻ってくるから。一人にしてすまないな……。」


 そう言って、父様は私の頭を撫でてくれる。



 ……我慢しなくちゃ。わがまま言って、父様を困らせちゃいけない。



 犬の縫いぐるみをぎゅっと抱きしめる。


「そういえば、それどうしたんだい?よく抱きしめているようだけど。」

「ああ、先日、中層に行った時にな、気に入ったようだったから買ってやったんだ。そのあと俺が引き取るまでに一緒に暮らしていたんだという、獣人の少年に出会ってな……。どうやら、この縫いぐるみはその少年と同じ耳と尻尾をしているみたいなんだ。色々、彼から話も聞けた。」


 そして父様はイリオス様にお兄ちゃんが聞いたことを話している。


「……どうやら、あの事件の前からすでに、あまり話さなかったらしい。そして、あの事件の後に、全く話さなくなったと言っていた。その少年、お前とアルバートのことは覚えていてな、お前は男なのにすごく髪が長い奴で、アルバートは包帯ぐるぐる巻きの変な奴だそうだ。」


 父様は笑いながら言う。


「ああ……、実は私の一族の指導者には妙な決まりがあってね……。指導者は髪を切ってはいけないんだ。なぜなら、指導者の頭の先から足の先まですべて、私の一族が信仰している両精霊のものだからというのが理由なんだ。長いのはそのせいなんだよ。」



 指導者って何だろう?一番偉い人、なのかな?……イリオス様、いったいいくつなんだろう……。



 そんなことを考えていると、イリオス様は苦笑しながら言った。


「私は……髪の量も多いうえ、くせ毛だから実を言うと長くしていた方が楽なんだ。短いとあちこちあらぬ方向へ跳ねてしまうから……。子供の頃はそりゃあもうひどかったよ……。伸ばしたことによる重みで、なんとか落ち着いているというわけさ。」

「お前の髪は、結構波打っているからな……。伸ばした状態でそんな風になるなんて、相当じゃないか?」


 そんな風に問いかける父様に対し、イリオス様は言う。


「はは、そうなんだよね。今でもたまに、朝起きると髪があらぬ方向へ飛んでいたりするんだ……。君もそこそこ長いほうだよね、髪を片方に流して留めているわけだし。」


 イリオス様は父様の髪を見ていると、父様は少し頭を掻いて言った。


「こうしていないと、中途半端な長さだからうっとうしくてな。かといって、切ってもどうせ伸びるから、それくらいなら伸びなくなる長さのままの方がいい。アルバートは包帯を巻いているせいか、短髪だよな。」

「うん。彼、多少は跳ねているみたいだけど、髪が短いからこそなんだろうな。うらやましい……。実を言うと、重くて仕方がないんだよね……。一度、纏めようとしたんだけど、あまりの重さに髪を括るひもがちぎれてしまったんだ…………。」


 イリオス様は頭を抱えている。


「なら、俺のように金属のものを使えばいいんじゃないか?」

「いや……、そもそも入らないんだよ……。長すぎてね……。」


 イリオス様はため息をついた。



 髪が長いのって、いろんな苦労があるんだなあ……。それなら、私は短いままの方がいい。



「しかし、アルバートは…………ははっ、ははははは!ひどい言われようだね。」


 イリオス様は、思い出したかのようにお腹を抱えて笑い出した。



 ……イ、イリオス様……?



「そうだろう?それに、あいつのフードを趣味が悪いとまで言っていた。なかなか面白い少年だったよ。自分が売られたことを仕方がない、と割り切っていた。自ら売ってくれるように頼んだそうだ。……そしてそのせいで、家族は全員殺されたともな。」

「その少年は強い子だね……。過去にあったことを仕方がなかったと割り切れる人間はそうはいないから。」


 イリオス様はどこか悲しそうにしている。


「ああ。……いつか、かつての自分と同じように奴隷にされている人たちや、奴隷として売られた人たちを救いたいのだと、そう言っていたよ。それが自分の役割なんだと。国は何もしてくれない、だからそうやって売られている人たちを解放していけば、奴隷商人もいなくなるんじゃないかと彼は考えているようだ。」

「……本来なら……、私たちが何とかしないといけないことなんだけどね……。この国に、深く根付いているものは、なかなか変えられそうにない……。」

「たとえそうだとしても、変えていかねばならないんだ。それを変えられる可能性を持っているのは、俺たちだけなのだから……。」


 父様は少し悲しげに、そう呟く。



 ……お兄ちゃんには、あんまり危ないことをしてほしくないんだけどな。死んでしまったら、ただの■■になってしまうんだから。

 いつか、もっと大きくなったら、会いに行こう。そして、いろんな話をするんだ。……その時までに、話せるようになってたらいいな。

今回の更新は、これで終わりです。次の話は、一まとめで更新したいものだったためです。明日の更新は、ディートハルトと、初となるツウェルツとアルバートの視点で語られます。更新時間は、0:30から遅くても2:00までの間にしています。まだまだ至らないところの多い文章ではありますが、お付き合いいただけると嬉しいです。

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