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4(月齢)

   *


 月齢カレンダーを見るまでもなく、次の満月は先の先。キリコの考えを頭ごなしにハズレと言うまい。あたしはタオルを水に濡らし、ギュッと絞った。「キリの字。やるよ」

「あいあいさー」

 二度目の襲撃は、けっこう乱暴だった。分担は前回と同じ。キリコに足止めされている吉川先生を後ろから襲って、濡れタオルで口を塞いだ。先生はけっこうバタバタしてたけど、ぐんにゃり倒れた。さぁて、そっくりいただきましょうか。

「で?」とキリコ。

「で?」言われてあたしは頭を抱えた。「しまったー」いったい、これからどうするん?

 ふよふよと、先生の鼻から、白い影が細長く立ち昇った。白い吉川先生は、「もうっ」って怒った。怒られた。

 保健室の池上先生はやさしくなかった。

「なにしてくれちゃったのよ」ぶうぶう言いながら、ジャラジャラと鎖編み手袋をはめ、白い吉川先生を無造作に掴み、グイグイと口の中に押し込んだ。ベッドに寝かせられた吉川先生の身体がユサユサ揺れた。

「この阿呆ゥが」仕事増やすな、面倒増やすな。「校内で問題起こすな!」

 すっごく怒られ、あたしたちは亀みたいに首を縮ませた。

「そこに立って歯ァ食いしばれッ」

 問:鎖手袋で叩かれるとどうなるか。

 解:すンごく痛い。

 池上先生がくれた冷蔵庫の生肉を頬に宛てて帰った。何のお肉か知りたくなかった。

「ブタでもウシでもなかったよ」とキリコ。

 食べたンかい。あたしは恐怖でのけぞった。

「もったいないでしょ?」

 キリの字は、なかなかに恐ろしいヤツだ。そして唐突に、(ニエ)だ、と思った。必要なのは、きっとそれ。


   *


 相変わらず、オトーサンはゆらゆらしている。細い釘を、あれから何本も打ち付けた。なんと居間に針の山! 此処は地獄の何丁目? ウッカリ踏んだらシャレにならん。

 あたしは大事をとってイスを動かし、紐でコの字に囲った。部屋の明かりでオトーサンの影に被らないよう注意した。電気を点けっぱなしにして、光が動かないようにした。昼間も変わらぬよう、空き部屋のカーテンを外し、居間に移した。カーテンにカーテンを重ねて、光が入らないようにした。

 オトーサンはゆらゆらしてる。あたし、がんばった。


   *


 オトーサンは、じりじりと天井に向かっている。じりじりと、手持ちの時間が消えていく。

 月齢カレンダーは晦日月(みそかづき)を指していた。十五夜に何かが起こるのならば、三十日(みそか)も何かが起きていい。それとも一を足して朔を待つ? あたしたちは再び夜の海へ出掛けた。月明かりは無かったけれども、空には星がいっぱい散っていた。手を伸ばせば届きそうなのに、どのひとつにも触れなかった。

「どこ掘るの?」お下げ髪のキリコが訊ねる。

 あたしは物置きから引っ張り出したシャベルを装備していた。お父さんは丸スコって呼んでた。キリコには穴を掘るって説明した。どうしてって訊かれた。全部は持ち帰れないって答えた。

「重くないの?」

 もちろん、重いさ。

「危なくない?」

 もちろん、危ないさ。

 あたしはシャベルを振り上げ、キリコの頭に振り下ろした。キリコはゴロンと転がった。両腕をバンザイにして、手首を紐で縛った。足も揃えてギュッと縛った。キリコは目を覚まさなかった。よしよし。シャツを捲り上げた。星明かりの下で白いお腹が浮かび上がった。ふむふむ。あたしはおヘソに金平糖をひと粒、落とした。ふたつ、みっつ、よっつと落とした。

 金平糖がおヘソの上に積み上がる。早く来ないかと思いながら、砂糖のお城を組み上げる。風も無く、波も静かな夜。重たく湿ったモノが来た。

 金平糖の山が震えて崩れた。白いお腹が闇に落ちた。キリコが目を覚ました。痛い痛いと訴えた。あたしは両手で肩の上から押さえつけた。お下げのゴムがパチンと切れた。お腹をゴリゴリ齧られ、目玉がぐるりと廻った。白目が濡れて光ってた。黒いもやもやが、口から鼻から耳から漏れて出た。そしてキリコは静かになった。

 砂の上に、一組の小さくて細い足跡がついた。黒いもやもやは、もさもさ頭の影法師。

 足跡は途方に暮れたようにうろうろして、それからぺたぺた遠ざかる。ほどなくすっかり夜に隠れる。

 あたしはシャベルを手に取って、部活仲間を埋めて帰った。

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