第七話 災害級の発生と仕方ない接触
それは突然起きた。
謁見の間にてある事が報告された。
「西方のバサンカン子爵領の森にてオーガを率いるオーガジェネラルが出没しました。バサンカン子爵は救援の求めています」
オーガは別名鬼人。
見た目は筋骨隆々の男性とそう変わらないが、身長は2メートルを超える。
もし出たら貴族の所有する騎士団なら対処は可能。
しかし、今回はそのオーガの将軍種であるオーガジェネラルが居る。
当然のごとく災害級だ。
魔物というのは集団であっても連携を取らない生物だ。
でも、集団の中に指揮種、つまりは今回の将軍種が居る場合は連携が行われる。
連携されるだけでその戦力は大幅に上がる。
連携する魔物の集団の中で災害級が出没した場合は貴族の所有する騎士団では対処出来ない。
代わりに国から騎士団が派遣される。
だから、被害に遭っている土地の貴族は救援を求めているのだ。
「被害はどうなっている?」
「はい。一人です」
「一人?」
王様は災害級が出没したというのに被害が一人なのは疑問に思った。
「当時、出没したとされる森の付近にあった村ではある少年が行方不明となっており、その少年を村総出で探していたそうです。しかし、その少年は既に死んでいました。森の中で大量の血とその少年が着ていた服の切れ端が見つけました。その時は村人達は涙を流したそうですが、そこにオーガを率いるオーガジェネラルがやって来たそうです」
「よく生き残れたなぁ」
「普通では難しいと思われますが、その村人達は森をよく知っています。森の木々や草花を駆使してどうにか逃げる事に成功し、すぐに村に残っていた村人達を連れて、隣町に避難しました。その際に衛兵にも報告した事で、領主であるバサンカン子爵を経由し、ここにまで報告する事になったそうです」
「報告は以上か?」
「いえ、もう一つございます」
「何だ?」
「どうやら、その村というのが「勇者」とその一行の故郷だと分かりました」
「そうか、それは困ったなぁ」
現状、「勇者」一行は修行を始めたばかりで災害級と戦う事は出来ない。
しかし、自分の村を守る為と行きたいと思うかもしれない。
(「勇者」一行を今は一兵士と位置づけしているが、ここで向かわせては確実に殺されるだろう。どうにか出来ないだろうか)
王様からすればセイク達は単なる村人となる。
しかし、それだけでなく「勇者」とその一行も付いてくると話が変わる。
セイク達自身は王様とって不要な人材だ。
でも、「勇者」とその一行となると人間界全体で考えなればならない。
その「勇者」とその一行は魔族に対抗する為の人材で、何の功績も無い状態のまま死なせるとそれこそ他国から非難される。
ある意味、選択せねばならない事だ。
彼らの意思に応じて行かせるか。
国または人間界の為にここは行かせないか。
それとも第三があるのか。
それは王様が決める事だ。
「この事は「勇者」一行に伝えたか?」
「いえ、報告はしてませんが、流れる可能性もあります」
「報告しないようにしろ!」
「了解しました」
王様はこれで良いと思った。
だけど、良いと思っていない者も居た。
それはイビーデだ。
彼もこの謁見の間に居たのだ。
何故か……もちろん、この報告で出てきた被害に遭った少年だからだ。
その少年が何故ここに居るのか、そもそも何故王都に居たイビーデが故郷の村に居たのか。
それを簡単に言うと、故郷の村には別のイビーデが居て、そのイビーデとは別にもう一人のイビーデが被害に遭ったからだ。
何が言いたいかというと、イビーデは能力を使い、自分と同じ実体を作り出し、故郷である村に居た。
そして、起きたのがオーガを率いるオーガジェネラルの出没。
それを利用し、自分の死んだと思わせる事でセイクを困らせ様としているのだが、王様はそれを言わない様にしている。
「やはり、犠牲者の名は伝えたくありませんか」
王様は分かっている。
言ってしまえば三人は萎縮してしまうのではないかと。
しかし、イビーデはそれでは困る。
だから、少し行動に移す。
「あまり、表に出るのは避けたいのですがね。少し助言を言いましょうかな」
『思考変化・迅速」
これはセイク達が王様と初対面した時にエルマと話す為に使った能力だ。
これは単純に対象の思考を早くする。
それは十倍、百倍と早め、周りは一秒またはそれ以下の時間となり、その間の事はかけた本人とかけられた対象しか知らない。
「王よ、困っている様ですね」
「何者だ!」
イビーデは王様だけに聞こえる様にすると、王様は誰だと怒鳴る。
「どこにいる?我が親衛隊、警戒せよ。……おい、どうした?」
「無駄ですよ。貴方が叫んだところで誰も応答しません」
国一番であり、王様を守る親衛隊に助けを呼ぶが、反応しない。
それが分かると王様自ら腰にある剣を抜き、警戒する。
「怖いですね。貴方に助言しようと思っていたのに」
「助言?その前に名乗れ!」
「分かりました、名乗りましょう。私の名はーーーーーですよ」
「はっ!何故その様な者がここに?」
イビーデはイビーデとは名乗らず、別の名を応えた。
それを聞いた王様は怯える。
「う、嘘を言うでは無い。その様な者がここに居るはずが無い!」
「嘘だと思うならそれでも良いですよ。でも、貴方が私よりも下位者だと言う事を証明致しましょう」
その瞬間、王様の左腕が切断された。
「え?わ、我が左腕が無い?我が左腕がぁぁぁぁ」
最初は左腕が無くなった事に気づけず、気づいた瞬間に痛みが走った。
王様は左肩を抑え、叫んだ。
「下位者として認めますか?」
「ぁぁぁぁぁ」
「認めませんか。では」
王様が応えないので、右腕も切断した。
「ぎぁぁぁぁ」
王様は抑える腕が無くなったので、叫ぶしか無かった。
そこに王様としての威厳など無かった。
「もう一度聞きます。認めますか?」
「分かっ……」
王様が応えようとしたら、気絶してしまった様だ。
「仕方ないですね」
イビーデは姿を現し、王様に近づく。
そして、王様の口を掴み、無理矢理開ける。
そこに真っ赤な液体が入ったビンを持ち、王様の口にその液体を流し込む。
少し飲んだら、イビーデは王様から離れて、消える。
飲まされた王様は…
「かぁぁぁぁぁ」
涙目で、目を目一杯開き、口から火を噴くじゃないかという程に口を開き、舌を出していた。
イビーデが王様に飲ませたのは激辛100%の特殊な液体。
普通なら持っていない物で、あっても100%ではなく、薄くしているのがある。
もちろん、辛いだけで人体に影響は無い。
「再度、聞きます。認めますか?」
「み、認…める」
「よろしい」
王様が何とか応えたので、イビーデは話を戻す事にする。
「まぁ、そんな事は良いとして話を戻しましょう」
実はイビーデにとって上位者とか下位者とかはどうでもいい。
なら、何故やったのかというのと、王様というのは上位者でありたい人が多い。
部下や敵国、更に今回の場合は得体の知れない存在には強気でいきたいのが王様だ。
例外は信仰する者、例えば天界に住む神とか天使にあたる。
イビーデはそれを無くす為にやったのだ。
王様というプライドを。
とりあえず、このままでは王様は話せないだろう。
なので、イビーデは痛覚と辛さを無くす事にする。
『遮断』
イビーデは王様の痛覚と辛さを感じる機関を指定し、遮断した。
「あれ?痛くない?」
「はい、あの状態では話せませんからね」
「ひっ!」
王様は上位者と下位者を分ける階段から転げ落ちる。
しかし、痛覚は遮断しているので痛くは無い。
「王よ、怯えるでは無い。君はこれでもこの国を治める王なのでしょう?そんな事では魔族になんて勝てませんよ」
あんな事をされては怯えるのも仕方ないが、仮にも国のトップである王様がこの様では魔族には勝てはしない。
これでも優しい方だ。
魔族ならもっと酷いし、イビーデだったら更に酷い事が出来るだろう。
「な、何故、貴方はここに……」
「うん?聞きたいんですか?」
「は、はい」
「良いでしょう」
せっかく、姿を消したイビーデだったが、姿を見せた方が面白いと思い、姿を現わす。
そして、玉座に座った。
「貴方があの……」
「えぇ、そうですが、これは仮の姿です」
「お、驚きました。我に姿を見せ下さるとは……」
イビーデはイビーデのまま、王様に姿を見せた。
残念ながら、この姿は仮の姿であり、別の姿がある。
「そ、それで、何様でここに居るのですか?」
「現在、ここに「勇者」、「魔術師」、「狩人」が居ますね」
「な、何故、それを」
「もちろん、観察していますからね」
「か、観察?」
王様は疑問に思った。
イビーデが先程の名前の者ならあり得ないのではないかと。
「別にあの三人をどうにかしようとはしていませんよ。ただ、君との繋がりを持ちたくて、今回君の前に現れました」
「ど、どういう事でしょうか?」
「君、何故あの三人にこの事を話さない?」
「は、話せば戦意を喪失してしまう恐れが……」
「何故そう思うのですか?確かに被害に遭い、犠牲者となった者は居ますが、そこまでに至るのでしょうか?」
報告では犠牲者となった者の名前も素性も知らされていない。
だから、戦意を喪失する理由にはならない。
「それとも、その犠牲者が誰か知っているからでしょうか?」
「!?」
王様がその言葉に反応する。
つまりは犠牲者を知っている。
「何故、王がその事を知っているか言いましょうか」
犠牲者を知っていても王様は知っている理由は言わないだろう。
というか、イビーデは自分が言った方が面白いと思った。
「まず王はその犠牲者を暗殺しようと思った。何故か、それは「勇者」一行の友人だったから、そういう友人関係というのは「勇者」としての役割には必要無い事だと王は判断した。だから、密かに暗殺する事にした」
王様はそれを下を見ながら聞いていた。
「しかし、実際に暗殺に向かった暗殺者は現場に着いた時に丁度良いところにオーガを率いるオーガジェネラルを発見した。そこでそのオーガジェネラルを利用しようと考えた。自分がその標的を殺すのではなく、オーガジェネラルに殺して貰う事で自分と、そして王の命令という証拠すらも無くなる方を選んだ」
暗殺者はなるべく証拠を無くしながら、暗殺するのが仕事だが、自分が殺さなきゃいけない訳で無い。
他人や魔物に殺して貰えば、自分とは一切関係無いが、ちゃんと殺された事自体は確認する必要はある。
それでも自分が殺した事よりも証拠は少ない。
「その暗殺者は見事その標的をオーガジェネラルが殺しました。王もその報告を聞いて納得したんでしょう」
「ど、どうしてそこまで……」
「ずっと見ていました。それもその犠牲者は私ですからね」
「え?」
王様はぽかんとした顔でイビーデを見た。
「王はその少年を「勇者」一行の友人ってだけでそれ以外は何も知りません。あの時、暗殺者に接触し、『暗殺者の仕事を邪魔しようとは思いません。ちゃんと仕事は達成して貰いますよ』と言い、暗殺者に協力を求めました」
イビーデは一度イビーデとして死んだを世間に知らせる為に暗殺者に協力を求めた。
そもそも、暗殺者にイビーデは殺されない。
なら、殺された様に偽装するしかない。
何故偽装するのかというといくつかあるが、一番はセイクを悲しませる事である。
まぁ、どんな反応するのかはイビーデさえ分からない事であるが。
「あの暗殺者は瞬時に私を上位者と判断した様です。王よ、鈍ったのではないですか?」
王様とは文人の人が多い。
逆に武人の人だったら国は安定しない。
王様は即位前は文人として武人として育てられるものの、即位後はそうそう戦争に参加せず、部下に総大将または総司令官に任命する為、武人としての仕事はほとんどない。
どちらかというと文人としての仕事が多くなる。
つまり、何が言いたいかというと修行をしているしていないとか関係なく、実戦での感覚が衰退していく。
いくら自分の護衛が居ようとも結局は自分の命は自分で守らなければならない。
王様とは文人だけが王様ではない。
武人としての能力もあって王様なのだ。
「まぁ、それはいいとして感の良い方がいる様ですね」
謁見の間の外から足音が聞こえてくる。
そして、ドンっと扉が開かれた。
「タジンク、どうかしたか!」
入ってきたのはエルマの指南役に選ばれたカナエだった。
実はイビーデとしての姿はいくつかある実体の一つでしかありません。
なので、真の姿というのは別で存在します。
でも、物語的にはその真の姿を現わすまではイビーデで進行していきます。
それと、第二章の予定している魔界編では魔族に似せた姿で進行します。