第六話 修行開始(二)
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エルマは国が所有する闘技場に居た。
「お忙しいところ、ありがとうございます」
「いいの、いいの。私以外にも優秀な職員はいるから」
冒険者ギルドは依頼を貰い、発注する。
そして、冒険者を管理する場所でもある為、闘技場や修練場などは持たないので、特別に貸して貰っている。
「故郷が村だったと思うけど、森に行く事あった?」
「ありました。親や村の人と一緒に行く事が多かったですが」
「そう。なら、感覚だけならありそうね」
エルマは「狩人」の軽装備を着て、短剣を二本持っていた。
エルマの基礎情報はこの様になっている。
名:エルマ
レベル:2
称号:「狩人」
能力:「探索」…探索に必要な事をマスターした者。
ついでに「狩人」の軽装備と短剣二本は
名:「狩人」の軽装備
能力:俊敏超上昇、防御力上昇、収納、全耐性、質量減少、形状変化、不壊、「狩人」専用装備
名:「狩人」の短剣(二本)
能力:攻撃力上昇、多種性能、質量減少、形状変化、不壊、「狩人」専用装備
基本的に「狩人」は戦闘用ではなく、どの様な事でも出来る多才なジョブになる。
他の「勇者」や「魔術師」とは違い、装備よりも能力の方が強いのかもしれない。
この「狩人」の能力である「探索」は五感強化や罠発見、罠処理に察知と探索する時に必要な能力を持つ。
それは他のジョブでは無い能力となっている。
「それでも貴女は「狩人」によってそれなりに出来るだろうから、知識面を教え、経験を積んで貰う感じだろうね」
魔法の詠唱を覚えている「魔術師」のミルとは違い、「狩人」はサポーターとしての能力はあっても実戦においてどの様に使うのは分からない。
そこら辺を教えようとしている。
「貴女に冒険者になって貰うのも良い手かもしれないね」
「冒険者にですか?」
「他の「勇者」や「魔術師」は魔物と戦うのを経験するけど、「狩人」は実際に森へ行き、感覚を覚える。ついでに金儲けも出来るしね」
他の「勇者」や「魔術師」は戦うのを経験するのが大事だが、「狩人」は戦うだけでなく、サポーターとして仕事を覚える必要があり、やる事は多い。
「とりあえず、今日はサポーターとしての心得と手合わせ、そして午後に冒険者登録しましょうか」
「分かりました」
他の二人は今日から始めるが、エルマは事前説明の様な感じの事を今日はやる事になった。
「冒険者をやっている時、カナエさんはいつも居ますか?」
「うん?そうだね〜。ほとんど居たいと思うけど、難しい時は職員の中で戦闘向きの方にお願いするから。一人になる事はないよ」
「そうですか」
本来、初心者冒険者はギルマスや職員の者、または先輩冒険者からパーティを組まされる事は無い。
エルマは勇者一行の「狩人」だからこそギルドは過保護する訳である。
ちなみにカナエが言う戦闘向きの職員というのは攻撃型や防御型、もちろんサポーター型の者にもお願いをするつもりだ。
「戦闘については魔物と戦っていれば自然と身につくから。対人戦闘においてはちゃんと教えるけどね」
戦闘の方は他の二人と同様に対人戦闘も教えられる。
しかし、「狩人」のエルマは冒険者として魔物との戦闘が多いだろう。
「ちなみに聞きますけど、カナエさんは人を殺害した事はありますか?」
「すごい事聞くねぇ。本当に十二歳?」
エルマは聞きにくい事を普通に質問するが、これから対人戦というのはセイクもミルもエルマもやっていく事だ。
場合によっては殺す事もある。
魔族というのも人と判断するならば、当然の様に殺す事にもなるだろう。
だから、エルマは聞いてみたかったのだ。
「あるよ。騎士団や魔法兵団よりかはそういう機会は多いからね。盗賊だけでなく、冒険者同士でもあるし、戦争だって駆り出された事もある。でも、良い気分では無いね。それが国の為、自分や他人の為だったとしても、それは仕方ない事であって、殺したい訳では無い」
魔物は嫌とか良いとかは無いけど、人相手になると嫌になる。
それは同種だからなのか分からない。
しかし、そこに悪感情、つまりは恨みや妬み、憎みが生まれると殺したいという感情が強くなる場合もある。
人間と魔族との間にはこの恨みや妬み、憎みがあるのだろう。
それが個人ではなく種族的にあるという事だ。
「貴女の場合はそういう機会はこれから多分多くなるだろうね。だから、殺気を図り、判断しな。この世には偽りの殺気と真実の殺気がある。偽りの殺気は惑わす為の殺気、真実の殺気は本気で殺しにくる殺気。それが分からなかったら、貴女達は…死ぬよ」
それは人生の先輩であり、戦闘の先輩からのアドバイスと忠告だ。
魔物相手ではほとんど真実の殺気しか無い。
しかし、人相手となれば変わる。
特に魔族相手の場合は更に面倒くさい事になる。
魔族とはセイクの時にも言ったが、怪しげな術や卑怯な手も使う種族だ。
殺気だって一つとは限らない。
殺気の中には真実の殺気だけでなく、偽りの殺気が多数感じるかもしれない。
そもそも、真実の殺気すらも無いかもしれない。
そこを判断出来なければ、負けてしまう。
「あの中では貴女が特に冷静な判断が出来そうだから、貴女があの二人を支えてやって」
たとえ、三人が勇者とその一行だろうと、中身はただの村人だ。
人間社会を全て知っている訳では無い。
他の街に行く事もあまり無かったろうし。
騙そうとするのは魔族だけで無い。
人間だって同じ事だ。
盗賊などの悪の一味だけでなく、商人、貴族、王族と普通に騙そうとする者は山ほど居る。
だからこそ、三人のうち一人が冷静な判断が出来る必要があるのだ。
その一人が落ち着きのあるエルマで、あとの二人はセイクが話の中心人物、ミルがその相槌、と話す事自体は良くする方だが、冷静に保てる方では無い。
エルマだからだし、消去法でもエルマになるだろう。
まあ、イビーデが居たら、イビーデになっていただろう。
「いつもはあの「勇者」の子に任せればいいから。危ないと思ったら、サポートしてやったらいいよ」
「分かりました。誠心誠意頑張らせて頂きます」
「あまり、堅くならない様にね」
これからエルマは戦闘、サポーターとしての役割、精神面、そして殺気を分けられる様に頑張っていく。
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修行編はバッサリカットします。
次話はその修行開始から数週間後にある事が起き、その事により、「勇者」であるセイクは変わり出す事になります。