第二話 勇者一行、王様に会う(二)
「あ、それと一つ。君との会話は私の能力で一秒に抑えておきました。ですので、君がナイフを抜こうとしていたところからになります。では」
「え?え、ちょっと」
少しずつ、時間が戻ってくる。
「何か文句はあるのか?」
「いえ」
王様が不機嫌な様子を感じ、三人に聞いていた。
しかし、文句はあっても何も言えない。
だから、何も無いとしか言えない。
「そこの者、どうした」
王様がそわそわしているエルマを見て、聞いた。
「い、いえ、何でもありません」
「そうか?まぁいい。それよりも君達に渡したい物がある。持ってきてくれ」
エルマは何もなかったの様に誤魔化した。
それを王様には気づかれなかった。
王様は話を変え、命令を言うと部屋の外から男性達が手に物を持ってきた。
「これが代々受け継がれる武器と防具だ」
それは「勇者」の剣と鎧、「魔術師」のローブと杖、「狩人」の軽装備とナイフ二本だった。
それらは通常各国に一つ持っていて、「勇者」が現れると「勇者」の住んでいる国に装備が送られる。
それも秘密裏にだ。
その装備は「勇者」の装備が一番重要でそれから「魔術師」・「狩人」、その後に選ばれるジョブと順番に重要度が低くなる。
そして、「勇者」の装備を持つ国はこの世界で重要度が高いまたは勢力的に高い国が選ばれる。
ちなみにこの国は「魔術師」のローブでそれなりに高く評価されている。
「それと君達は今力があるだけの初心者だ。これから何ヶ月、場合によっては何年かかかるかもしれないが、君達には修行する必要がある。それで君達に指南役が必要だろう。その指南役を一人一人に付けよう」
「勇者」と言ってもそれになった瞬間に力、つまりはステータスが上がるのだが、それでも実力にすれば一兵士と変わらない。
それは「魔術師」と「狩人」についても同じ事だ。
なら、教えるしか無い。
それもマンツーマンで教え、成果を上げて貰う事が大事なのだ。
「まずは「勇者」の指南役にこの国が誇る飛竜騎士団の騎士団長ホーメルン・ライト」
「はい!」
「君には勇者に剣の基礎を教え、出来ればワイバーンの乗り方も教えてやってくれ」
「了解致しました」
この国にはいくつか騎士団が存在する。
飛竜騎士団もその一つだ。
特徴は飛竜であるワイバーンを乗りこなす航空隊の騎士団だ。
その騎士団長は全身鎧で頭も被っていて、顔は見えないが声的に男性だ。
そして、立派な剣が二本持っていた。
「あの飛竜騎士団の騎士団長ですか!?」
「君の思っている通りだ」
飛竜騎士団はあらゆる面で活躍している騎士団だ。
戦争や魔物討伐だけでなく、救助活動も行なっている。
ワイバーンの特徴は飛んでいる事だ。
制空権さえ確保出来れば不利な状況でも覆る事も出来るし、救助活動においても到達困難な場所で事故や遭難が起きた時に瞬時に行動し、空からであれば救助も可能となる。
「次に「魔術師」には宮廷魔術師のマリア・ディグザレム」
「はい、何でしょうか?」
「君には魔法の基礎を教えてやってくれ」
「了解致しましたわ」
宮廷魔術師は別で魔術師の軍団もあるが、この者達は研究の仕事をしている。
それでも魔術師の軍団からなった者もいるため、実力は高い者が多い。
今度は白のローブにフードまで被っていて、こちらは顔があまり見えないが声的に女性だろう。
そして、木の枝の杖だ。
「き、宮廷魔術師!?」
「そうだ」
白のローブは宮廷魔術師としての証。
杖は色々存在するが、木の枝も素材さえ良ければ物凄い武器(近接面でも)になる。
「最後に「狩人」には冒険者ギルドサークングリマ王国支部会会長であり、この王領の支部長さらにこの王都のギルドマスターであるカナエ・ハムルダ」
「何かな?」
「君には「狩人」つまりはサポーターとしての事を教えてやってくれ」
「了解したよ」
冒険者ギルドとはこの世界に存在する組合の様な組織だ。
そこには平民、貴族、王族と身分関係なく、所属している。
その目的には違うが、ある意味フリーの兵士達という事だ。
その冒険者ギルドにはグランドマスターをトップに、国ごとで支部会、領ごとに支部、そして街ごとにギルドが置かれている。
身分的にはグランドマスター→支部会長→支部長→ギルドマスターとなり、支部会長や支部長は兼任する者もいる。
それでその支部会長はシンプルな服装に軽装備、そして剣と短剣を持っていた。
今度は逆に顔を出していて、紫髪のポニーテールの女性だ。
「支部会長ですか……」
「うむ」
エルマは他の2人程驚いた様子はなかった。
対して王様は反応するのが面倒くさいのか、簡単に終わらせた。
「とりあえず、君達は災害レベルを三人で勝てるまで修行をして欲しい」
「明日からですか?」
「あぁ、明日からだ。今日はこの辺で解散する。寝泊まりは今日は王城で寝なさい。明日からは時間短縮の為にそれぞれ指南役の近くに住んで貰う予定だ。では、下がれ」
これで王様との謁見は終了。
三人は謁見の間を出て、召使いに案内された。
三人と王様との会話を最後までイビーデも出る。
(あの指南役三人は王様の配慮だろう。女性に男性を教えさせるのは難しいと思ったのでしょう。セイクとエルマは問題無いとしてミルの指南役になる予定であった宮廷魔術師の中でもトップの宮廷魔術師長は男性だろう)
性別が同じでなければ、嫌々な教育となり、成長はしない。
そこでレベルが下がろうとも同じ性別にしたのは王様の配慮だ。
(これからエルマに会うまでは特に無いだろう)
三人は案内され、客室を使う事になった。
セイク一人とエルマ、ミルの二人で男女に分けてくれた様だ。
普通の魔術師と狩人を分ける為に勇者一行は「」を付ける事にしました。(2019.5.11)