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10年ぶりにビッグマックを食べた話

作者: 森月真冬

 10年ぶりに、マクドナルドで買ってみようと思った。


 まだ、小学校にも上がっていない幼い頃の僕にとって、マクドナルドは休日の嬉しいイベントのひとつだった。

 両親と一緒に映画館に行き、売店でコーラとチェルシーのバタースカッチを買ってもらい、アニメ映画を鑑賞してから駅前のマクドナルドに行く……そこでビッグマックとフィレオフィッシュ、シェイクのバニラとストロベリー、ポテトのLを買って近所の大きな公園でレジャーシートを敷き、遅めのランチを楽しむのである。

 僕は、フィレオフィッシュが大好きだった。両親はビッグマックをよく食べていた。ピクルスが苦手だった僕には、ビッグマックは大人の食べ物に見えたものだ。一口食べたいと強請っては、ピクルスを抜いた父親のビッグマックを齧っていた。

 そして、飲みきれないシェイクが溶けて温くなると、食べきれない冷めたポテトを持って、手をつないで家路に着くのである。

 その日の晩には、フライドポテトにケチャップとチーズを掛けてオーブンで焼いたオカズが出たのを思い出す。


 小学生のマックの思い出は、ほとんどない。

 その頃の僕は、ケンタッキーにはまっていたからだ。甘いシロップをたっぷりかけた、サクサクのビスケットが大好物だった。

 チキンの骨は、当時飼ってた犬にあげた。鳥の骨は縦に裂けるから犬には危険と言う人もいるが、少なくとも僕の犬は美味しく残さず食べていた。犬は引越しを機に田舎の祖父母に引き取られ、18才まで生きたが、ある晩秋の日に死んでしまった。

 めちゃくちゃ泣いた。5日くらい、ご飯が食べられなかった。

 亡骸は、田舎の庭に埋めたそうだ。目にする事は適わなかったが、もしも目にしてたら僕のことだから、「剥製にする!」とか「冷凍庫で保管する!」とかワガママ言い出して、いつまでもグズってただろうから、これでよかったのかもしれない。

 散歩ヒモと体毛の一部だけは、今も大切にしまってある。


 中学に上がった僕は、近所にできたモスバーガーに夢中だった。

 モスのサウザン野菜バーガーを食べては、「これより美味しいハンバーガーなんて存在するのかなぁ?」と感激していた。

 休みになると図書館で推理小説を借りてモスバーガーに行き、サウザン野菜バーガーとオニポテをつまみながら、二階の隅の席で読み耽るのである……ドリンクは、高かったので飲まなかった。いつも水だった。たまにココアだった。

 デザート類も好きだった。アンコ系の白玉のモチモチ感に陶酔してた。


 高校生になった僕は、またマクドナルドに行くようになった。

 きっと、その頃のマックは安かったんだろう……ハンバーガーが100円とかだったと思う。みんなで集まってダベったり、小腹を満たすには都合のいい価格設定だった。

 ポテトもよく食べてたが、マクドナルドのドリンクは割高感あるので、僕はいつも水だった。ハンバーガーと水。ドリンク追加するくらいなら、ハンバーガーもう一個と水。それかポテト。お腹を満たすには牛丼。そういう時代でした。


 高校卒業後は、マックに近づく事がなくなった。

 たまーに前を通りかかっても、もう買う気が起きなかった。

 その頃になると、コンビニの方で美味しいホットスナックが買えるようになってたし、スタバやドトールが何処にでもポコポコできてたから、一休みするにも「わざわざ、マックに行かなくてもねえ?」と思うようになったからだ。

 なんか、『マクドナルドの原価表』みたいなのがネットに流れて、コーラの原価が5円以下とかってのを見て、ファーストフードでコーラ飲む気が完全に失せたってのもあった。ほらみろ、やっぱり僕の感覚は正しかったのだ、僕ってすごいなーとドヤ顔してた。

 それに、ファミレスに気軽に入れるようになったのも大きい。高校生の僕は、「ひとりでファミレスに入ってドリンクバーだけ頼む」というのが、なんだか気恥ずかしくてできなかった。誰かと一緒じゃないと入れなかった。でも、厳しい受験勉強や徹夜レポートを経て、そのあたりの遠慮は消えたように思う。

 とにかくハタチを超えた僕にとって、もはやマクドナルドは足を踏み入れる場所じゃなくなっていたのだ。


 そんな僕が10年以上のブランクを経て、近所のマクドナルドに入ったわけだ。

 きっかけは……なんだろう?

 とにかく、腹が減ってたのだ。

 マックの看板を見た瞬間、不意に頭の中で昔のマクドナルドのCMがリフレインした。

 飛行機内で、スチュワーデスさんが言うのである。


「お客様の中で、ハンバーガーを3つ以上食べられる方はいらっしゃいませんか?」


 すると、座っていた野球選手がドヤ顔で立ち上がり、手を上げて言うのである。


「はい!」


 そんなCMだ。

 気づくと、導かれるように店へと向かっていた。

 バイトらしき店員さんに、メニューを聞かれる。

 僕の口は、自然に動いた。


「えーっと。ビッグマックのバリューセット……それと、フィレオフィッシュをください。ドリンクはバニラシェイクで」


 子供の頃を思い出す。僕の中では、マックといえばコレなのだ!

 店員さんは、にこやかに言う。


「ご注文は、以上でよろしいでしょうか? 1010円いただきます」


 え、たけえ。

 ……いや、高いよ!?

 その値段なら、ちょっと良いめのランチが食べられるじゃないかっ!

 ランチハウスミトヤの豆腐と肉のタレ焼き定食だって750円だぞ!

 港屋の冷たい肉そばでも850円だ!

 火星カレーの鴨カレーだって1080円だよ!

 オステリア・ピノ・ジョーヴァネのランチだって1200円なのに!


 しかし、もう注文してしまった。そんな事はおくびにも出さず、すまし顔で千円札と十円玉をレジに置く。横に立って待つことしばし、バリューセットの乗ったトレイを持って、僕は席に着く。

 久しぶりに食べたフィレオフィッシュは、衣がまろやかで魚は柔らかくって、相変わらず美味しかった。だが、シェイクで口直ししてから次にかぶりついたビッグマック……こいつが問題だった。


 ……ん? あ、あれえ?

 なんか、ボロボロと具が落ちる……はみ出るぞ、これ!?

 え、うそ……うそうそうそっ。

 どうやっても具が落ちる。

 ……は???

 な、なにこれ。

 どうやって食べるのが正解なの???

 んんっ。これって、僕の食べ方が間違ってるのかなぁ???

 でも、ハンバーガーなんて齧り付く以外に食べ方あるの?

 フィレオフィッシュは普通に食べれたのに……なんか、どうやって食べてもソースがグニグニ漏れてくるし、いくらレタスを押し込んでもキングダムの飛信隊かよってくらい飛び出てくるし、一口ごとに肉が後ろに移動して忍空の風助のベロみたいになってるし……もう、収拾がつかなくなってるぞ!?


 僕は焦った。めちゃくちゃ焦った。手がベトベトだった。

 またこれ、一緒についてくる紙ナプキンが妙に硬くて油を吸い取らなくて、使いにくくてたまらないんだっ!

 トレイの上は、能天気で原色な広告の上に散らばるレタス、クシャクシャになった紙ナプキン、そしてシェイクの雫が垂れて湿ったポテトと、見るも無残な状態になってしまう。


 そしたら、隣の女の人が見かねて「これ、よかったら使ってください」ってオシボリくれた。

 僕は変な笑いを浮かべながら、「あ、ひひっ。ど、どうも……あのうっ、これビッグマック……や、野菜たっぷり、いいですよね?」とか意味わかんない事を口走ってしまった。

 女の人は「え、はあ?」とかいいながら、オシボリのビニールを破いて渡してくれた。

 めっちゃ恥ずかしかった。


 10年ぶりに食べたビッグマックは、パニックになってしまって味もなんだかわからなかったけど、量だけはたっぷりあってお腹一杯で、妙に懐かしくて心に沁みた……でも、次に食べるのはまた10年後かなぁ。

 しばらくは、マックの看板も見たくない。

 くそうっ、恥かかせやがって。

第七回集英社ライトノベル新人賞の金賞を受賞しました。

漂流英雄エコー・ザ・クラスタ、発売しました!


今は、


二次コンでキモオタデブな俺が、異世界で幼女のおっさんとイチャラブする!〜S級チート超レアスキル持ちの英雄ですが、コミュ障なのでハーレムを作れなかった男の退屈な日常が、バラ色の人生に変わるまでの記録〜


というのも連載してます。

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[良い点] 高い!!!!という感想に爆笑しました 高いですよね、マック やすいイメージありますけど、確実に高いと感じてしまう [一言] リアルなエッセイで面白かったです 大学時代はお金がなくて、ポテト…
[良い点] ファーストフードを食べる様子や思い出がリアルで、自然に情景が思い浮かぶ文章で良かったです。 ビッグマックが無性に食べたくなりまして、困りましたが…(笑)! [一言] ビッグマックは上手に…
[一言] 私も マクドナルド 大好きです(笑) 第七回集英社ライトノベル新人賞の 金賞受賞 おめでとうございます。
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