第7話~感心と興味~「“Un bel di, vedremo”《Madama Butterfly》~ある晴れた日に~」
一人称と固有名「一途尾」さんの今日の目的は、
ビスキュイジョコンドを焼ければ完遂される。
固有名「一途尾」さんは、
誠に失礼ながら、一人称の想像を上回る働きを見せてくれたように、視える。
固有名「一途尾」さんとは、森の中で門番をする事になろうと、
その連携は容易いように思われ、俯瞰の中にあれど、
確かな安らぎを覚えたように、視える。
一人称と固有名「一途尾」さんの工程は、
ビスキュイジョコンドを焼き終え、ケーキクーラーの上で荒熱を取るまでに至る。
荒熱が取れたら、パテ抜きを使い、ビスキュイジョコンドを抜き終え、
冷蔵庫で保存するだけに、視える。
「杏莉子♪ さすがだな」
「固有名「一途尾」さんのお力添えがあればこそ、です。
そう一人称は申しました」
「ちぇー、杏莉子は相変わらずわがはいには俯瞰か、わがはい寂しい……」
「一人称も二人称の実力は認めています」
「じゃー、ぬこって呼んでくれよ♪」
「固有名「一途尾」さんは、まだまだ謎の多い方なので、
一人称も見定めるお時間をいただきたい、一人称はそう申しました」
「そか、言わない事はあっても隠すような事はないんだけどな♪」
「一人称は申します、何事にも時間が必要です、と」
「そだな♪ 荒熱取るまでちょっと諭のとこ行ってくるわ♪
おまえと仕事ができて、楽しかったぜ♪」
「一人称も、想像以上に快適であった事は述べておきます。ふふ。
あとは一人称だけでも大丈夫ですよ、そう一人称は申しました」
「おっ♪ 杏莉子笑ってくれたのか? 嬉しいな♪
じゃ、お言葉に甘えっかな。また、明日な」
「ええ、二人称となら是非、そう一人称は申しました」
そうして固有名「一途尾」さんは一人称から離れ、
固有名「誠悟」さんのもとへと向かったように、視える。
そして――……、
「一人称に何かご用でしょうか? そう一人称は申しました」
「ナントいううつくしさ、こんにちは『Aria Bianchi』です」
未熟ゆえ、一人称は戸惑ってしまったように、視える。
英語と中国語は特に有用に覚えるので、理解できますが、
咄嗟にはこちらの陽気さをもって話しかけてきている男性を捌くのに、
一人称は躊躇して、視える。仕方ありません。
「Where do you come from?」
「そうか、チャオ♪ ボクはイタリア人だよ♪
キミがあんまり美しかったから、声を掛けるのをずっと楽しみにしていたんだ♪」
「そうですか、どうも。
と一人称は固有名「アリア・ビアンキ」さんに簡素なお礼を申しました」
「い……、一人称?! キミの日本語はなんだか難しいね……。
だけど奥深くて、キミの綺麗な瞳にすいよせられてしまうよ。罪な女性だね」
一人称はこれだけの情報までで、
一時的な三人称への判断を下したように、視える。
三人称とお話するのはくたびれそう、と。
「一人称は再度お訊ね致します。何かご用でしょうか? と」
「モチロンさ。この世に美しいものに惹かれない男性は居ないからね。
ボクとキミ、これから仲良くなれると思うんだ。
儚げな蝶のように美しいキミを見ていると、
守りたい、そう胸が熱くなるからね」
呆れる、という表現が適切なのでしょう。そう一人称は感じて、視える。
イタリア語にすれば美しい表現なのかもしれませんが、
日本語で聞くと悪寒さえ覚える一人称。
ですが――、そう、
「嬉しくて死ぬかもしれないわ」と、
一人称は限りなく冷たく、
固有名「アリア・ビアンキ」さんに言い放ったように、視える。
その温度差は十分に伝わったようで、
「いや待って、ボクはアメリカ人じゃない!
ボクがキミをそんな目にあわせる訳がないよ!」
思う壺、
「一人称は申します。
二人称は自国の偉大なお父上の作品を、
誇りに思えないような方なのですね、と」
これには固有名「アリア・ビアンキ」さんも絶句して、視える。
や否や――、
三人称は空の両手を握り、自身の喉もとに突き刺し、
しゃがみ込み呻き出し始めたように、視える。
「……誇りをもって生きられないのならば、誇りをもって死ぬよ……。
これでいいかい、蝶々さん? 良かったらキミの名前を教えてくれないかな?」
さて、これには一人称も困ってしまい、
ささやかな可笑しさも込み上げてきたように、視える。
これもまた仕方がないようです。
「申し遅れました、一人称は、歌坂、歌坂 杏莉子です。ピンカートンさん」
しゃがみ込んだままの三人称がスッと手を差し出すものですから、
一人称も渋々その手を掴み取り、三人称を起き上がらせたように、視える。
「マンマミーア! キミはイギリス人だったのか♪」
身振り手振りも大袈裟に、冗談めかした陽気な振る舞い、
固有名「アリア・ビアンキ」さん、おみそれいたしました。
一人称は暫定的にせよ、三人称が、
嫌いにはなれないように、視える。
うつくしいものを
ほんとうにうつくしいとおもえますか?
よろこびとともにあれ
原作 John Luther Long 戯曲 David Belasco
作曲 Giacomo Puccini