第4話~斬撃と刺突~「トライダーG7のテーマ」
ここが家庭科室か……、
姫、っ、「姫は止して下さい」、で、あったな……。
清夜花さんとの日々を思い出せば、
性格としてもうすでに中にはいらっしゃるであろう。
それがしは一日でも早く清夜花さんの護衛に戻る為、
今日も朝稽古をこなしてきた。
それがしは家庭科室の扉を開き、すぐに清夜花さんを探す。
しかし、思っていた以上に人が多く、
真っ先に清夜花さんを見つけ出す事はできなかった。
なんだこの者達は……?
それがしは一年なので、後輩かもしれぬという覚えだけはないが。
もしかしたら先輩方かもしれぬ……、身を引き締めねばな。
警戒をもって最敬礼をし、清夜花さんの気配も探る。
やはり、もういらっしゃるな……。
身体を戻して、清夜花さんの気配のする方へ向かおうとした瞬間、
「あぁん♥ もしかしてぇ、流天さんですかぁ?」
砂糖菓子の様な甘たるい声で、それがしに近寄ってくる女性が居た。
しかし、その甘たるさとは対照的な間合いに、何らかの兆しを覚える。
眼が彼女の全身を捉えると、その褐色の肌がもっとも印象的だった。
「確かに、それがしは流天家の者ですが、貴女は?」
「ぁたしはぁ、1-Gのぉ『虹架 竜斬』ですぅ 。
今後ともぉ、よろしくお願いぃ、申し上げますぅ」
「虹架さんですか。改めまして、流天 虎頼です。宜しくお願い申し上げます」
率直に、あらゆる意味でこの女性にやりにくさを覚える……、苦手だ。
なるだけ早めに会話を切り上げたい。
そもそもそれがしは女性の応対自体が得意ではない……。
清夜花さんはもうお気付きであろうし、清夜花さんを理由にして、
後々に響かせたくはない。ここは、
「すみませぬがそれがしは、eクラスの者に急ぎの連絡事項が御座居ますので、
これにて、失礼します」
「ぁらぁ? そうですかぁ、これはぁ、お引き止めしてぇしまいましたぁ。
それではぁ、竜斬もぉ、失礼致しますぅ」
口調はともかくとして、会話は通じるようだ。
彼女の褐色の肌は天然のそれに見えるが、
所謂ギャルというものなのだろうか……。
とはいえ、失礼はそれがしにある。
彼女が踵を返し、Gクラスに戻るまでの間くらいは頭を下げ、残心せねば
なっ!!
瞬時に、決着はついた……。
彼女はそれがしに背を向けたかの様に見えたが、その実一回転し、
わずかな助走で即座にそれがしの左脇腹に正確な貫手。
ほぼ同時にそれがしも自然に踏み込み貫手を半身で躱し彼女の左首筋へと、
手刀打ち。
この様な説明に至るのは、試合を終えたからに尽きる。
それがしの持つ木刀・鼎は小刀程の長さしかない。
反撃に転ずるには、それがしも踏み込んでゆく以外難しかった。
彼女の貫手を躱した時点で勝敗は決したかと油断したが……、
彼女の右手は貫手、左掌はそれがしの右手刀をしっかと防いでいた。
彼女は当然の事として、それがしは今ようやく理解した。
「確か、パリーイング・ダガーでしたか……? 虹架さんは西洋剣術を?」
「ぁらぁ? ようやくぁたしにぃ、興味を持っていただけましたぁ?」
彼女の声音は、甘たるさに不敵さが混ざり込む。
実際には互いに刀剣を交えている訳ではないが、
これは剣術の試し合いに相違ない。
当然互いに殺意はない、寸止めは試合の兆しから同意の上だ。
「しかし、貫手とは、日頃の鍛錬の賜物ですね。それがし感服致しました」
「ぅふふぅ、嬉しいわぁ♥ この程度で流天さんが動じなくてぇ」
「森に入れば、それがし程度の者はいくらでもおりますよ」
その言葉に彼女は満足そうに笑んだ。
「ならぁぁたし決ぃ~めたぁ!」
何を? とは追求はせぬ、例え森の事であっても、
入るのも出るのも彼女の自由だ。
家庭科室全体の空気を感じられるようになっても、
それがしらの試合に、眉根を寄せる者達の方がずっと少なかった事に安堵した。
これが普通学園か、心地好く礼を払う。
虹架さんは本当に踵を返してゆかれ、
それがしも歌坂さんと一途尾さんのもとへお礼に向かう。
ふたりはそれがしにできない事ができる。
心配自体おこがましいが、どの様な味であれ、しっかと頂きたく存ずる。
そして、胸中では今でもそれがしの仕える姫、清夜花さんのお傍に近付いた。
「虎頼さん、ずいぶん愉しげにしてらっしゃるのね?」
さすが姫、
「はい! 本日も幸甚の至りと存ずる出会いが御座居ました」
「そう、それはよかったですわね」
ぅん? 清夜花さんの声に何処となく冷ややかさを感じる。
これでは、川瀬先生の「かくれんぼ」以前の状態ではないか……?
何が姫をこれ程濁らせた……。まだ早水さんへの嫉妬が……?
いや……、
霊格を覚えられるのであれば、
清夜花さんと早水さんのその差は顕著なものだ。
これは……、困った。
それがしには全く心当たりが無い。
だんじょに
ゆうじょうなどありえない
それはあなたのせいよ
歌 たいらいさお 作詞 伊藤アキラ 作曲・編曲 茅蔵人