第28話「Heaven's Kitchen」
2016年四月二十五日月曜日先負。
今日の日記、あたし、早水 捧華記述。
野球とサッカーをやり終えての感想です。
いやいや、
先ずドライヴを使わないと、
あたしはほとんど何の役にも立てない事が解りました。
野球は控え投手のまま出れませんでしたし、
打者になっていたとしても、
とてもmクラスのピッチャー青兎くんの剛速球を打ち返す事はできません。
その球を受けるGクラス、バッハくんの身体能力にも驚愕です。
せーこーも、
「あれ少なくとも160キロは出てんだろ……、
あいつの身体どうなってんだよ……!?」
とこぼされてました。あたしは見た瞬間打てねー、と覚りました。
結果は、12対2であたし達eとEクラスのコールド負け……。
先発投手のえぼしーの時はまだ拮抗していましたが、
怪我を負わないという絶対順守の為、
天休さんと神咲くんにバッテリー交代後、ボコボコに打たれました。
こちらの2点の要は神守森くん。
ちなみに神守森くんと青兎くんは全打席ホームランでした。
「あいつら世界がどう見えてんだよ……、ったくへこむわ……」
とは、えぼしーの言葉。
一途尾くんは今日は女の子でしたので凡退。
女性陣は全て凡退でした。
出場はせずともあたしにはスコアラーという役割がありました。
ドライヴが無くてもこのくらいなら楽勝です。
困ったのはボコボコに打たれまくった天休さんへのみんなのフォロー。
天休さん、涙目でよく投げ切ってくれました。
せーこーがめっちゃ天休さんに感謝してました。
そして、試合後の礼を終えて一番笑っていたのもせーこーです。
あたしは、せーこーはこれで良かったのかな?
そう不安にもなりましたが、今まで見たせーこーの笑顔の中で、
一途尾くんのように告げるなら、とびっきりなものでした。
サッカーは結果としては0対0の引き分け。
その理由も神守森くんと青兎くん、ふたりがキーパーだったからです。
「俺要らねぇな。今度はラインを作れるようにすりゃ良さそうだ」
えぼしーはそう言って笑ってました。
あたしは予定通り左サイドバックで出れましたが、
大抵は神守森くんへのバックパス。
前方へのロングパスは脚力が圧倒的に足らず、
インサイドキック重視でセコセコとワンタッチプレーしていました。
ですが、えぼしーは、「早水いいぞ♪」となにやらご満悦。
あたしは基準がフィールドのみんなしかいませんので、
えぼしーが褒めてくれた事の真意がぼんやりとしか解りませんでした。
だって、他の女性陣の動きの方があたしには輝いて見えましたから。
特に際立っていたのは杏莉子と虹架さんでした。
男性陣ではえぼしーとせーこー、
スクワイアさん、バッハさん、ビアンキさんが目立ってました。
し……、しかし、あたしはサッカーだけしかしてないので大丈夫ですが、
両方出てる人たちは肩で息をする人もいました。
あたし達eとEの影の切り札、誠悟くんは野球とサッカーで、
「あんな球予想できても先ず打てないし、
サッカーはベンチに居て声掛けに専念した方が役に立てそうだね。
とはいえ、野球もサッカーも最たる支配者は青兎くんだろう。
彼の思念も今までに聴いた事のない類だよ」と。
青兎 遥……、今日はその強烈な存在感をまたも刻み付けられました。
だけど、本当に大切なのはそんな事ではありません。
サッカーが終わった後、えぼしーも笑ってくれてました。
野球もサッカーも男性陣と女性陣の能力に差があり過ぎて、
名勝負とはとても呼べないまだまだチグハグとしたものでしたが、
あたしの大切は、せーこーとえぼしーの笑顔で完遂されました。
それから、試合には出場されませんでしたが、
場を全て取り仕切って下さったのは、銭形 匁さんです。
学園側から審判用のラプラスの魔を借りてもきて下さって、
さらにその計らいで、
親睦会という名目で夕方は、
レストラン、ヘブンズキッチンで軽食を頂きました。
こちらのレストランも解輪の時のようにあたし達の貸し切り。
昨日の今日でどのようにこの場を抑えられたのか、
銭形さんの手腕にも驚くべきものがありました。
あたし達学園の28名とあたしのお父さんお母さんの合計30名にて、
それぞれのお席に分かれて、親睦を深めあいました。
お母さんは、昨日四角荘のあたしのお部屋に泊まり、
祷、杏莉子、麻とご機嫌なお話に花が咲きました。
お母さんも安心してくれたみたいです。
ようやく確かめられたのは森の門番の危険性です。
両親曰く、和歌市の有志の皆様も大勢いらっしゃるし、
とりあえず安心、
でもあたしが門番になる前にあと何回か入るよ、そう言ってくれました。
両親は交通機関ではなく、慶元令で来たそうです。
それであたしは確信した、瑞希図書館で調べた和歌市の場所、
ここは、日本の地図上には存在しないという事。
あとは、両親から野球とサッカーを観戦した感想で、
「どうやら捧華の能力を存分に発揮しても良い場所みたいですね」
と、改めてフルドライヴの許しをもらえました。
お父さんはそれから、
「それにしてもヘブンズキッチンとは、
なんだか感慨深いものがありますね」
うん? 「お父さん、何が?」
お父さんは苦笑しながら、
「嗚呼、昔ね、そういう歌曲をコピーしていた時期があったんだよ」
「なんだ心也君? まだバンドに未練でもあるのか?」とお母さん。
「全く無いとは言い切れませんが、
僕の居場所には、いつも倖子君が居てくれなきゃ、もう生きていけません。
それが例え、彼岸の蜃気楼だとしても。
僕の残りの人生は、倖子君と子供たちのものです。
ごめん倖子君、嫌な想いをさせたね?」
「バカ! 貴方に謝られたら私の立つ瀬がないじゃない」
あたしは両親の空気にちょっと慌ててしまい、
場の空気を変えようとしました。
「でもさ、学園のみんなが凄過ぎて、あたしへこんでばっかりだよ……。
普通の普通は解るけどさ、
やっぱり天才とか、歴然とした才能って言葉にうんざりしちゃう」
「捧華?
インディアンのスクァミッシュ族にはこんな格言がありますよ。
“大いなる神秘は誰もに美しさを見る。烏が鷲になる必要はない”ってね。
僕の心身がどれ程醜くても、変わらず地球は美しいですよ」
そう言ったお父さんの表情は、
あたしの知ってる少しだけ困った表情で、
多分お父さん自身にも言い聞かせているんだと覚えました。
ヘブンズキッチンには一時間余りの親睦でお開き。
みんな門限がありますから仕方ありません。
あたしは両親以外とはお話できませんでしたが、
他のみんなは思いおもいに語り合ったみたいです。
お父さんお母さんは、
「少し安心したよ。また来るね」
そう言って菜楽荘へと帰って行きました。
あたしは四角荘に戻ってから、夕食を四人で頂きまして、
お風呂に入り、就寝前のストレッチを初めてしました。
きっと今日はよく眠れそうです。
あたしはベッドの中でしばし今日の事を思い返す。
せーこーとえぼしーのやっと年齢に適ったふたりの笑顔が見れた。
お父さんがコピーしていたヘブンズキッチンという歌曲への想い。
そして、そんな天国の台所での時間、
お父さんにとってそれはお母さんの居る場所。
コンお兄ちゃんにとってはポップお姉ちゃん。
では、あたしのヘブンズキッチンは……何処に……?
嗚呼、いまだその答えは出せぬまま……。
しかして思う事……、今のあたしに相応しいヘブンズキッチン、
安息の場所は――……、
ベッドの中のぬくもりだけが知っている。
あつさにたえられないなら
キッチンからでればいい
いいいみでね
歌・作詞・作曲 BONNIE PINK




