ピストバイク
マリアの下着は、ランジェリー物でスケて見える、勝負下着を着けている。本人いわく、いつなんどきもチャンスを逃さないために着けている。最近は、隠さず、いや最近ではなく、初日から平気で着替えている。セイラも同じように、平気で着替えるようになってしまった。いくら女性同士とはいえ、恥じらいはあるだろう。
「部室の壁に鏡が欲しいわね、鍛えた体を見るのには壁を全部鏡にするわ」
そう言うとマリアは、引き締まってきた体を、ケダモノの様に、私とセイラに見せつける。
唐突に不意を突かれた感じで、質問を投げつけてきた。
「最近あなたたち、何か楽しいことでもあった?」
一瞬ドキッとし、じぞってしまった。
だが、いつもと同じように平生を装った。ここで慎重に言葉を選ばないと、朝の楽しみな練習を邪魔されるおそれがある。それに、昼間は教師として、仕事をしているのだから朝はゆっくりしてて欲しい、気持ちもあった。
「楽しいことなんて、何もないよ」
私は、平常心を装い答えた。
「ふーん、そうなんだ」
マリアは、気にするようなことでも無かったみたいな口振りで言う。
だが、嘘をついてしまったのは事実だ。
マリアは教師、朝はゆっくり休んでもらいたいと、勝手な事故解釈によって、
朝の楽しみな一時を優先してしまった。
罪悪感が残った。
話の話題を変えるようにセイラはピストバイクの話を持ち出した。
「マリアさん、ピストバイクで競輪場で練習がしたいです!」
「ピストバイク?」
初めて聞いた言葉にマリアは、首を傾げる。
「トラック競技に使う自転車ですよ」
「必要なものね、それもセイラパパさんのとこで買いに行きましょう」
うつ向いたままの私をセイラが優しく肩を撫でた。
練習が終わり、その足でセイラのお店に出かけた。
私とセイラ、そしてマリアも、身長と股下を計り、フルオーダーメイドで作ることになった。マリアは、自転車にハマったようだ。
「セイラパパさん、他に要るものは無いのですか?」
パパさんは、顎に手をやり少し考える。
「ディスクホイールですかね、千メートルタイムトライアルなら三秒位タイムが伸びますよ」
「そんな、凄いものがあるんだ、じゃあ、それも三つお願いします」
三つと聞き、目が泳ぐセイラパパ。
「オーダーメイドなので、時間が掛かりますが、自分に合ったのが出来るので、楽しみにしててください」
「また、学校の理事長宛に請求書を送って下さい」
百八十万円の爆買い。
理事長との関係が気になってしまう。
今日は、なにも問題なく解散となった。
マリアは、家に帰りあの子達何か隠してることを考えた。生徒を疑って良いのだろうかと悩み、『鬱』になる…。
「あたしって、最低ね」と、呟く。