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パパさんのターン。




パパさんのターン。



僕は、セイラと蛍ちゃんを駅まで送って、電車が出発するのを確認して駅をあとにした。


競輪学校へ娘を送り出すと、今日から家に帰っても一人なんだと思うと、何だか寂しい気持ちになった。


だが、僕にはやらなければならない事がある。そのために駅前の花屋に来ていた。


この店の店主はいつきてもワイルドな男でしゃべり方も一癖ある。


まあ、その事は置いといてだ。いつもの花ともうひとつ花束を買って花屋を後にした。


車を運転して15分後。僕は墓前に来ていた。


墓石の横に置いてある缶ケースを濡れないとこに置いた。


缶ケースの中にはセイラが書いた十年分の手紙が入っている。


それから墓石に水をかけてから、持ってきたたわしで磨いてきれいにした。


それから周りの草むしりをして缶を元の場所に戻してから僕は、墓前の前に立ち、きみが好きなアイリスの花をお供えしてから、手を合わせて報告を始めた。


前半は吉報ですが、後半からは違うかもしれません。


今日、娘は静岡の競輪学校に旅立っていきました。これから約一年間練習の日々が続きます。


怪我がないように祈ってます。

きみも天国から見守っていてください。


たぶん、先にセイラから聞いてると思いますが、一応伝えておきます。


脳裏にあの頃のきみの笑顔が浮かび上がる、僕の話を笑顔のまま聞いてくれている。


セイラもきみに似て綺麗な大人に成長しましたよ。


僕はポケットからスマホを取り出した。


この写真を見てやってください。


僕はスマホの画面のセイラを墓前に見せた


なあ、びっくりするぐらいきみにそっくりだろ?


あんなにちいさくて泣き虫さんが、10年も経つと出会った頃のきみと瓜二つだ。


キッチンに立つ姿があの頃のきみとシンクロしてドキッとするときが何度かありました。


その度に僕は憂鬱な気分になったりもしました。


料理のほうも長良家ながらけの味付けを引き継いでいて、セイラと結婚する相手は必ず幸せになると信じている。


僕は知らない間に涙を流していた。


ここに来るといつも泣いちゃうな。



少しの静寂の後、涙も止まり僕は自分の事を報告した。


次は僕の報告だけど面と向かっては言いにくい事ですが……。


実は好きな人が出来ました。


きみがいなくなる前に言っていた意味がいまになって、ようやく分かるようになりました。


『私が死んだら私の事を忘れて、前に歩き始めてください』


いまでもあの時言ったきみの声が聞こえます。


病室でベッドを起こした状態できみの痩せた体を抱きしめた感覚がいまでも残っています。


二人で抱きしめあって、泣きあいながらきみが耳元でささやいた言葉にあのときは、はっとさせられました。


いまでも心の底から愛しています。忘れることなんて僕には無理でした。


ですが、その方に何度も会うたびに同じ感情が芽生えました。


まるで二股ですね。


その好きな人はマリアさんと言って、セイラの高校の恩師で、自転車部の顧問までしていました。


会うたびに僕は段々とひかれていき、気づいたら好きになっていました。


今はもうこの人しかいないという気持ちになっています。


だから今日は、この事を報告したあとマリアさんにプロポーズします。


僕からの一方的な思いなので断られるかもしれません。


それにセイラは怒るかもしれないけど、10年かかりましたが、僕は歩き始めることにします。


さあや、また来ます。


僕は墓前を後にして、家に向かった。



家に帰ると誰もいないし、セイラは帰ってこない。頭では解っているがとても寂しい気分になる。


僕は店のシャッターを開き、いつものように自転車を店の前に並べていった。


夕方から店を開けることなど今まで無かったが、寂しさをまぎらわせるためでもあるが、マリアさんがいつきてもいいようにだ。


今日は電動式自転車1台売れて、パンク修理が3件。空気入れが2本と電話でディスクに使うタイヤ8本の注文を受けた。


僕は仕事をしながらマリアさんがくるのを待っていた。


19時頃、待っていると爆音とともにさっそうと現れて店の前にフェラーリを止めて扉を開けて降りてきた。


いつものマリアさんだ。


マリアさんは開口一番痛いとこをついてくる。


「パパさん今日から寂しくなっちゃいますね」


「そうですね。まあ、5ヶ月経てば1度帰れるようですが」


「じゃあ、あたしが毎日来て慰めてあげるわよ」


僕は今しかないと思いマリアさんの正面に立ち目を見てから、かたひざをついて婚約指輪の箱を開けてバラの花束も左手で握り差し出してからアタックした。


マリアさんは小首を傾げてどうかしたのかなという顔で僕の目を見た。


「僕の心の中には、さあやへの気持ちがあります。それでもマリアさんが好きです。結婚してください」


マリアさんは、唐突に言われた僕のプロポーズに驚いたようだ。


開口一番マリアさんらしい言葉が出てきた。


「マジですか?」


僕はマリアさんに会わせるように


「はい、マジです」


「マジのマジですか?」


「ええ、マジのマジの大マジです」


「あたしみたいな、アラフォー女でも良いのかしら?」


「はい、マリアさんが好きなんです。多分、はじめてあった日から好きになってました」


そう言うと、マリアさんは僕を見て微笑むと指輪を手に取り指にはめると、うっとりとした顔で指にはめた指輪を見つめていた。


「マリアさん僕のプロポーズを受けてくれるんですね?」


「セイラに怒られないかな……」


「僕が護ります!幸せにします!」


マリアさんは僕の手を取り立ち上がらせてから、「ふつつか者ですがよろしくお願いします」と言ってから僕の首に両手を回してキスをした。


それはそれは濃厚なキスで僕の舌をからめてきて最後は吸ってきた。


僕はマリアさんの腰に回した手をきつく抱き寄せた。


もう理性とか効かない状態までに気持ちが高ぶっていた。


店を開けた状態でキスをしたまま自分の部屋まで行き、布団の上にもつれるように倒れこんで、最後までいってしまった。



お互いぐったりとした状態で仰向けのまま顔だけをお互いの方を見つめていた。


「もう後戻りはできないね」


「そうですね。明日入籍しましょう」


僕は店を閉めてからまたマリアさんと抱き合った。



僕はスズメのチュンチュンと鳴いている声で目が覚めた。一緒に寝ていたマリアさんが居ない。


寝ぼけ眼でキッチンに行くとマリアさんが朝食を作っていた。


僕は、あいさつを交わしてからマリアさんが僕の顔を見て言った。


「昨日は最高だったわ」


この一言に昨日のことは本当のことなんだと再認識し、完全に目が覚めた。


「本当に僕なんかで良いんですか?」


確認のためもう一度聞いてみた。


「お互いがやっちゃってるんだから愚問よ」


僕はマリアさんの言葉を聞いて安心した。


マリアさんにテーブルに座ってと言われて座ると味噌汁の良い臭いがした。


いただきますと言ってから味噌汁を啜った。


「マリアさんこの味噌汁、美味しいです」


「本当に?嬉しいわ」


マリアさんは照れ臭そうに答えた。


「あ、それと今日も早朝練習に行くのですか?」


「モチロン。いくわよ」


もっとマリアさんと一緒に居たいと言いたいが、自転車部の朝練があるのでがまんである。


それから朝食を終えて、「あとの片付けば僕に任せて下さい」と言って気持ちを殺してマリアさんを送り出した。



この日の夜にマリアさんの父上と母上と話し合って、結婚式はセイラが競輪学校から帰ってきてからやることになった。



しかしながら、結婚式はセイラと蛍ちゃんが卒業してからしましょうなどと言っていたが、ニヶ月でマリアさんが妊娠してしまったのである。







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