クリスマス
もうすぐクリスマス、教室では早くもクリスマスの話で持ちきりである。
彼氏と過ごすとか、合コンに誘われたとか、男紹介してあげようかとか、そんな話で盛り上がっていた。
はぁ~あ、彼氏か。
私は学園祭での一件から、イケメンの山田と付き合ってるんじゃないかとクラスで噂が立った
付き合っていないとは言ってるが好きであるとは伝えている。
だが、今の状態は三角関係になっている。山田がセイラを諦めてくれない限りここから進展することは無さそうだ。
この事が原因で、最近の私は練習にも身が入らず、ため息ばかりついている。
前の席のセイラがクラスメイトの女子に合コンに誘われていた。
「クリスマスシーズンは家の手伝いで忙しいから辞めておくわ」
そうだ、お店はクリスマスシーズンで忙しかったんだ。
放課後監督の元へと行った。
私達は監督に手伝いがあるので放課後の練習を休むことを伝えてセイラと一緒に家に帰った。
夕方サイクルショップ長良に行くと、まばらにお客が来ていた。
「おじさん、手伝いに来ました」
「ありがとう、蛍ちゃん」
店の奥に入ると居るのがあたり前のようにマリアが来ていた。
「あれ、何でマリアが居るの。愛と唯と練習するんじゃなかったの」
「同僚にクリスマスイヴの予定を聞かれて、マウントをとるために男と過ごすと言ってきたから、前日に練習なんて出来ないでしょ。それにクリスマスシーズンは書き入れ時だから手伝いに来たのよ。行くところもないし」
同僚の先生にマウントを取るためだけに愛と唯をほったらかしにしてきたのか、最低だ。
マリアはお父さんに連れられてロードバイクを注文する親子を指をくわえながら見ていた。
仲睦まじい親子を見て、顔がほころんでる様に見える。
「なんだかあたしも欲しくなったわ」
マリアも35歳だし、そろそろ子供が欲しい時期なのか。
「パパさん最新のカタログ見せて頂戴」
そう言ってマリアは最新のカタログを見て、めちゃ高いロードバイクを注文した。
「人が買っていると欲しくなるのよ」
子供じゃなくてロードバイクかよ。
当然の事だが、理事長に請求書が行く。
「そうそう、これを着てお店の前で呼び込みをしましょう」
私達はマリアが持ってきた紙袋から、サンタバージョンのバニースーツを取り出した。
「あら、可愛い」
「えええー、こんなの着るんですか。恥ずかしくて嫌ですよ」
「セイラは可愛いって言ってるじゃない。それにいつもお世話になってるパパさんの為に、あたし達が一肌脱ぐよ」
私は渋々バニースーツに着替えることにしたが、セイラとマリアは喜んでいた。
白いウサミミの付いたサンタ帽に、赤の胸元の開いた丈の短いジャケット、赤のレオタードのお尻には白のもふもふの丸い玉、黒の網タイツ、赤のハイヒール。
寒いのにこんな格好させられて、なんだかいかがわしいお店の呼び込みみたいだ。
セイラパパは私達のバニースーツ姿を見るなり鯉の様に口をパクパクさせ て白目をむいていた。
愛娘がこんな格好してたら驚いて声も出せないのも当然か。
私達はいってきますと言ってお店を後にした。
私が先頭で手製の宣伝用のプラカードを持ち、三人でお店の宣伝をしながら街を練り歩いていた。
「宣伝用の広告入りのティッシュを作ってくれば良かったわ」
そんなことをマリアがポツリと呟くと、後ろから呼び止める声がした。
振り向いて見ると青春学園ミスアラフォー三人衆の先生達だった。
「やっぱり、内田先生じゃないですか?そんな格好してなにしてらっしゃるのかしら?」
「えっ、あっ、ええ、この娘の家が火の車で急遽奉仕活動をしてるのよ」
マリアはセイラの肩に手をかけた。
「そうなんですか大変ですね。私達は明日合コンだから、ネイルサロンと美容院に行って来たのよ」
「合コン?」
「内田先生にクリスマスイヴの予定を聞いたら彼氏とデートっておっしゃってたので合コンに誘えなかったから、3対4の合コンになっちゃったのよ。内田先生みたいに私達も男をゲットしてくるわ」
そう言ってミスアラフォー三人衆は消えていった。
「マリア、逆にマウント取られてますが大丈夫ですか」
「キィーーッ、オールドミスがぁぁぁ」
マリアは苦虫を噛み潰した悔しそうな顔で奇声を上げた。
マリアもアラフォーなんだけどね。
マリアは腹を立てて、奉仕活動終わりっと言ってお店に戻ることになった。
お店に戻り暖をとっていると、閉店前のお店に突如山田が現れて、セイラを呼んで外へ連れ出した。
それを見るとマリアはパパさんちょっと出てくるわと言った。
私はマリアに手を引かれセイラと山田の居る近くの路地に隠れた。
私は覗き見る行為が最低なことは知っている。でも山田がどうなるかが気になって、そんな罪悪感も消えてしまった。
「何ボーッとしてるの。今から求愛行動を観察出来るチャンスなのよ。バードウォッチャーのあたし達としては見逃せないわ」
「また、野生の王国ですか。それに私はバードウォッチャーじゃありませんし、セイラはどう見てもウサギなんですが」
「しーーっ!始まるわよ」
山田は白い息を吐きながらセイラの瞳を真剣な眼差しでじっと見つめて、こわばった表情で話し出した。
「クリスマスイヴ一緒に何処かへ行かないか?」
「ごめんなさい。私、ゆうくんとは一緒にクリスマスイヴを過ごせないわ」
「何か先約でもあるのか」
「なにもないけど。前にも断ったけど、ゆうくんの事は兄弟としか見れないの。だからこの先も想い続けても無理だから諦めて」
少しの静寂の中、山田は大きなため息のような息を吐いて話し出した。
「そうか、わかった。予想はしてたが結構きついものがあるな…。まあ、これで諦めがついたよ」
その瞬間空から白いものが降り出した。
雪だ。
山田はセイラにバッサリと断られて、雪の降る空を見上げながら、路地の闇の中へと消えていった
「確認しただけの様な求愛行動でつまらなかったわね」
「でも自分の気持ちを相手に伝えることは凄く勇気がいる事だと思います」
「こうやって大人になっていくのよ」
自分の好きな人が親友に告白して振られて、山田がかわいそうだと思ってしまった。
「次は蛍の番ね」
「勇気を出して告白したのに断られて、傷付いている山田に告白なんて出来ませんよ」
「蛍は本当にお人好しね。弱った獲物を狙うのは野生の世界では当たり前なの」
「また、野生の王国ですか」
「そうよ、それにイケメンの山田を狙ってる女なんて星の数ほどいるわよ。傷付いた山田は誰でもいいから傷ついた心を癒してくる女にすぐ行っちゃう可能性もあるわ」
「自分でもどうして良いのか分からないです」
「だから蛍が山田の心を癒してあげるのよ」
「どうやって傷付いた山田の心を癒せばいいの」
「まずはーー」
路地で喋っていると、マリアを呼ぶ声がした。
「やっぱり、マリアさんじゃないです
か。そんな格好して寒くないですか」
振り向くと私のお父さんだった。
「ほほ、ほ、ほほほたるなのか!?」
私のバニースーツ姿を見るなり、驚きのあまり口をパクパクさせて白目をむいた。
いくら変態のお父さんでも娘がこんな格好してたらこうなるのか。




