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インターハイ2

 


 インターハイ2日目。

 私はケイリン2回戦も1着で勝ち抜いた。しかしセイラは金髪ポニーテールの吉岡翼と戦い負けてしまった。


 吉岡翼は、皆が先行したがらないバンクをあえてジャン先行して、そのまま逃げ切ってしまったのだ。


 その強弱をつけた走りに2コーナーから捲ったセイラが合わされてしまい不発となってしまった。


 キャップを返して宿舎に戻ると愛と唯が

 神妙な顔をしていた。


「蛍先輩、おめでとうございます」


「ありがとう」


 声を聞いても、いたって普通だが顔の表情と比べると凄い違和感を感じる。


「何かあったの」


「あの~蛍先輩、セイラ先輩にどんな言葉をかけたら良いのか解らないです」


 セイラのことかと


「私ならそっとしておくかな」


  「セイラ先輩が泣いてたりしてたらどうしたらいいですかね」


 セイラは泣かない。あの日から涙が枯れた事を私は知っている。


「セイラは大丈夫だからそっとしておこう」


 私は愛と唯にいらない気を使わなくて良いと伝えた。



 午後からは準決勝になる。

 ケイリン準決勝は午後の15時からで、時間が空くのでスプリント1/8決勝まで勝ち進んだ栗井の試合を見に行くことにした。


「愛、唯。栗井の試合見に行こう」


 セイラはそっとしておくことにして、

 愛と唯を連れてバンクの外側から金網越しにスプリントの試合を見学に行った。


 愛は栗井に優勝したらチョメチョメの約束をしている。愛の今の心境が知りたかったので、応援してる愛を観察しようと思った。私は栗井を見つつ愛も見ていた。


 アナウンスで栗井と対戦相手の名前が呼ばれてスタートした。


 1本目は栗井が勝ったが2本目、3本目と連続で負けてしまい栗井一茶は1/8決勝で敗退となってしまった。


 この間、愛を観察していたが本当に捧げるつもりだったことが解った。愛の握った拳からは親指が突きだしていた。


「栗井がもし優勝して、愛とチョメチョメしてたらこれ以上強くなれないわ。あたしにとっても愛にとってもここが一番のおとしどころ」


 知らない間に後ろに居たマリアが説法みたいに負けて良かったかのように言った。マリアの顔を見るとまるで仏さまのように穏やかで清々しい顔だった。でも握った拳からは愛と同様に親指が突きだしていた。



 ケイリン女子準々決勝は走る前から戦いが始まっていた。

 1組の私は隣の2組の吉岡翼とその他5人を見ていた。


「今年の三年はホントよえーな。アクビしてても勝てるわ」


 吉岡翼は三年生の目の前で大きなアクビの仕草をした。わざと怒らせるような事を言っている。


 相手を怒らせてペースを乱す作戦なのか、それとも別に何らかの策があるのか私には解らないが怒らせた相手に暗黙のなか共闘されたら一貫の終わりだ。

 メリットの方が少ないのは誰だって解りそうだ。


 2組が揉めてるなか、1組目が呼ばれて私はスタートについた。

 誘導員が通り過ぎスタートした。

 私は一気に誘導員の後ろを取った。

 1周、2周と進んでいき、ジャンが鳴ると私は仕掛けてきた人の後ろを取り後ろを警戒しながら、ゴール前でかわして1着でゴールした。


 よし、これで決勝だ。


 私はすぐに自転車を降りて2組目の競争を見ることにした。


 吉岡翼はスタート後ゆっくりと最後尾に着いた。多分囲まれないようにするためだ。残り2周になると吉岡翼はゆっくりと前に進んでいきジャンが鳴る。


 吉岡翼は一気に先頭の選手に襲いかかり先行争いを征した。後は1周逃げ切り1位でゴールをした。


 1回戦から先行逃げ切りで勝っている。

 こんな人に勝てるんだろうかと弱い気持ちが出てしまった。



 部屋に戻り4人からおめでとうを言われて着替えをした。


「ねぇ、吉岡翼に勝つにはどうしたら良いと思う」


 4人は石化したように固まった。


「先行逃げ切りで全部勝ってるから先行争いして前に出さないようにした方が良いのかな」


 1人が石化が解けて動き出した。

 吉岡翼と戦ったセイラだ。


「蛍なら先行争いしても吉岡翼には勝てると思うけど前に出たあとゴールまで持つか微妙なとこね」


 2人目が石化から解けて動き出した。

 制服ニーソのマリアだ。


「吉岡翼が先行争いと見せかけて蛍先輩の番手に入る可能性もあるわね」


 3人目と4人目が同時に動き出した。

 双子キャラの愛と唯。


「性格悪くてビッグマウスなら勝つためにならなんだってしてきますよ。多分」


 愛は小さな声で最後に多分を付け加えた。


「そうね、勝つためにならなんだってするその気持ちは解るわ。見るためになら黒塗りされたとこも指紋がなくなるほど擦ったり、バターを塗ったり、削ったり

 最終的には妄想して黒塗りが見えたわ」


 マリアが言うと唯が、


「私達の世代では簡単に見ることができますが昔は間近で見るか妄想して見るしかなかったんですね」


「そうだ唯、茶髪とはどうなったの」


 マリアが聞くと唯は、


「健全なお付き合いをさせて貰ってます」



 真剣な話をしてたのだが、いつのまにか脱線して下ネタ話になっていた。



 明日は決勝戦、早く寝よう。



 翌日インターハイ最後の日。


 ケイリンの決勝はトラック競技の最後に行われる。

 そのひとつ前に1000mTTが行われる。

 山田勇也が出場する。

 私達5人は見学しに行った。


「1000mTTは観客が多いな」


「やりちんの山田はまだなの」


「山田君は結構速い方なので終盤に出て来ると思います」


 セイラが教えてくれた。

 選手がスタートするたびに力が入る。

 これは多分、自転車乗りの性なんだろう。


「やりちんが出てきた」


 私達は、黄色い声援を送り回りからの山田への敵対心を上げた。


 山田は3位と大健闘した。


 優勝は、変わった性癖を持つ犬高のモッコリイケメンだった。



 ケイリン女子決勝戦メンバーは以下の6人である。


 1番車、七星蛍 岐阜県

 2番車、吉岡翼 福岡県

 3番車、本田胡桃 岡山県

 4番車、海田和子 三重県

 5番車、 金古雅子 福島県

 6番車、山本マヤ 京都府



 インターハイケイリン女子決勝戦が始まる。



「蛍先輩、頑張ってください」


 愛と唯からパワーをもらった。


「吉岡翼の先行は仕掛けどころに合わせて踏んだり流したりして潰してくるから先行させないか、惑わされず一気に仕掛けろ。仕掛けたら絶対躊躇するな」


 水谷監督からアドバイスをもらった。


「蛍が優勝すれば学園も有名になって新入部員がわんさか入ってくるから頑張りなさい」


 マリアからはプレッシャーをもらった。


 セイラと目を合わせた。

 セイラは今から自分が試合に出るような真剣な顔をして、胸を2回叩き私に向けて親指を立てた。私はセイラを見て頷いた。


 セイラは勇気をもらった。


 5人から色々もらい、よし決勝戦だとバンクへ向かった。



 整列して間横に居る吉岡翼から視線を感じる。見てはいけないと思ったが余りにも凄いガン見なのでチラリと見てしまった。


 目が合うと吉岡翼はすぐさま攻撃的な口調で話してきた。


「なに見てんだ。お前がアイツが言ってた小さいけど大きな壁か?マジでちいせえな」


 見てたのはあなたでしょうと言いたいが

 言ったら殴られそうで怖い。


 まあ、背も高いし上から目線は仕方ないとして玲夢のことと態度が気にくわなかった。


 だが、私は口からでかけった言葉を噛み殺し、セイラと玲夢の仇はバンクで果たそうと心に誓った。



 それぞれ6人のペイサーの元へ行きサドルを持ってもらい待機する。


 吉岡翼が前をとるのか後ろを取るのかスタートで見極めなければならない。

 それは、私が前で受けるのがあまり好きではなかったからだ。


 誘導員が通り過ぎピストル音が鳴った。


 前だ!


 よし!と、心のなかで思いゆっくりと自転車を進めた。


 私は並びを確認して頭に入れた。

 並びは以下のようになった。


 ←誘導員②③④⑥①⑤



 私は後ろから2番目を取った。

 動くとしたら⑤もしくは⑥かな。


 残り2周になりゆっくりと車間を開けた。


 私は残り1周半になりジャンが鳴ると同時に後ろを警戒して、何度も見てくる吉岡翼に顔の表情も変えて、自転車を外側に持ち出して追い出しをかけた。


 かからない。


 即、内側に行き車間を詰めながらスピードを上げた。


 しかし吉岡翼は私が見えなくなったのを見て先行体制に入っていた。


 私は躊躇せず強引に吉岡翼へと詰め寄っり、並走状態になった。


 残り1周と少し、並走しながら4コーナーを出て直線に入っても先行争いは続いた。


 吉岡翼は、腕をくの字に曲げて、私の肩に当てた。その瞬間肩に当てている肘を後ろに押し出すように閉じて私の前に出た。


 そこまでやるのか。


 私はこの事に怯むことなく監督に言われた通り躊躇せず前へと踏んだ。


 残り1周、もうすぐ直線が終わる。


 1コーナーに入りカントのある場所では肘掛けは出来ないと踏んで私はヘルメットをハンドルに当たるまで頭を下げた。


 私は並走しながら2コーナーへと進んだ。吉岡翼は並走されてるのが嫌なのか外側に膨らみ私を外側に追いやった。


 しかしこれが悪手となった。


 私は外側に膨らんだ瞬間おもいっきり踏んだ。それは最高のタイミングだった。

 2コーナーの出口から下りを利用し一気に前に出た。


 抜いていくさなか、吉岡翼の苦痛とも言える表情と声が聞こえた。


 私は2コーナーでのスピードを維持しながら残り半周逃げ切ってゴールを迎えた。


 私は目立つような態度を取る人間ではないと解っているが、この瞬間だけはやってしまった。

 人差し指を立てて、天に掲げた。


 私はみんなに祝福され涙を流した。

 この時見てしまった、セイラが涙を取り戻したことを。


 表彰式が始まり私の名前が呼ばれて賞状を貰い、また泣いてしまった。


 私は、帰る準備をするため部屋に戻り着替えをした。


「絶対に戻ってこよう」


「うん、絶対にね」


 私とセイラは名残惜しく宿舎を後にした。






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