報告会
私はバンクを裸足で歩いてた。あれ、何でバンクに居るんだろう。
少し歩くと山田勇也が上半身裸で立っていた。
勇也は甘いマスクで笑いかけてきた。
私は、勇也が好きだったんだ。
勇也に気持ちを伝えないといけない。
「私、勇也の事が好き」
「俺もだよ蛍」
勇也は私の腰に手を回し、抱き寄せるようにして、瞳を見つめてキスをした。
「恥ずかしい…」
「俺もだよ蛍」
何回もキスしたあと冠闘門前で私は、勇也にお姫さま抱っこされて体がフワリと宙に浮いたと思った次の瞬間、バンクに叩きつけられた。
「痛い!」
痛みで目が覚めると抱き枕を抱えたままベッドの下に落ちていた。
なんだ夢かそれにしてもリアルな夢だったな。昨日あんなことがあったから意識して見てしまったのだろうか。今日、山田と会ったときどんな顔をすればいいのだろうかと悩ませた。
よし、行くかと気持ちを切り替えた。
私は、起き上がり、早朝練習に行く準備をした。
いつものように家を出てセイラの家の前に行くとセイラとマリアがいた。
いつもは一人で早く行ってしまうマリアだが今日は私達と一緒に行くようだ。
多分、昨日の事を聞くために偶然を装い待ち伏せしてたに違いない。
「おはよう」
互いに挨拶をしていつものようにコンビニに向かった。店に入りおにぎりと飲み物を手に取りレジに向かい、マリアが先に並んでいたのでその後ろに並んだ。
マリアは、男の店員に向かってとんでもない言葉を発した。
「あの~、肉棒2本ください」
ちょ、ちょい、なにいってるんだとマリアの頭にチョップを入れて、振り向きざまに正拳突きを顎に叩き込んだ。
「痛いわね。何するのよ」
私は、この場で話すと恥ずかしいので黙っていた。だが、しかし店員は普通にフランクフルトを2本袋につめていた。
肉棒で通じるのかよ!!
そんな衝撃的事実を知り、さっき悩んでいた山田に対する不安などすっかり消えてしまった。
練習場所の橋に着くとみんな来ていた。
「おはよう」
「オッス」
いつもと変わらなくあいさつして練習が始まった。
五本目のラスト一本が終わり、最終組のマリアと愛と唯が戻ってこない。
それにしても遅い何かあったのかと心配になってきた。
「あ、マリアが降りてくる」
マサイ族並みの視力を持つ山田勇也が言ったが、私には誰なのか確認できない。
マリアだけが降りてきて橋にロードバイクを立て掛けた。
心配してマリアに聞いた。
「愛と唯遅いけど何かあったの」
「ふぅー、愛がパンク魔に襲われて、パンク直せないから、ゆっくりと降りてきてるわ」
「マリアが直してあげればよかったのに」
「手が汚れちゃうから嫌よ」
いつも助け合いやチームワークは、青春の醍醐味とか言ってるのに、こんなときだけ自己厨全開になる。
しゃべっていると、ブレーキをかけながらゆっくりと下ってくる二人が見えた。愛の前輪がパンクしたようだ。
タイヤの種類はおおまかにいって、2種類ある。中のチューブを交換するタイプとリムに直接ボンドでタイヤを貼り付けるタイプのものがある。
栗井が愛のロードバイクを持ち、愛の方へ向くと「俺が直してやるよ」と前輪を外して手を汚しながらチューブを代えて、携帯用の空気入れでシャカシャカと空気を入れていった。その間、愛はずっと栗井の作業を見つめていた。
「はい、出来上がり」
この間3分弱、栗井の手際のよさに愛は、見とれていたようだ。
「ありがとう。一茶」
一茶!?
愛が栗井の事を下の名前で呼んだのだ。
これにはみんなが驚きの表情を浮かべた。昨日なにかあったのは間違いない。
ま、まさかとは思うが、大人の階段を登ってしまったのか。でも、学校の教室では、ヤった話は毎日のように耳に入ってくる。これが当たり前なのかもしれない。
マリアは鋭い眼光で愛を見つめてダイレクトに聞いた。
「あなた達ヤったのね」
私は、男子がいる前でエッチな話をするのが恥ずかしい。聞いてるだけで耳が赤く熱を持ってるのが触らなくてもわかった。
「勢いでヤりました」
ヤっちゃったのかと思うだけで顔も赤くなっているのがわかる。
無表情のマリアは、愛のロードバイクを両手で持ち上げて橋から落とそうとしている。マリアの常軌を逸した行動に、栗井は慌てて訂正した。
「キ、キスですよ」
愛が親指を人差し指と中指の間に挟んで握りマリアに突きつけた。
「これはまだヤってません」
あれと勘違いしたマリアは、愛のロードバイクをもとの位置に戻した。
「冗談よ、冗談」
冗談と言ってるが内面は穏やかでは無いだろう。私も少し嫉妬のようなものを感じたからだ。
みんながいつもの定位置に座り朝食を取り出した。
マリアは、定位置に着くなりメモ帳とペンを膝の上に置いて、左手にはフランクフルトを持ち昨日の事を順に聞いていった。
「唯、茶髪とはどうだった」
マリアがフランクフルトを食べながら聞いた。
「愛ちゃんと同じでキスしましたよ、これはヤってません」
そう宣言すると唯は、親指を挟んだ拳をマリアに突きつけた。
「なるほろ」
マリアは、フランクフルトを食べながらメモを取る。
「セイラとモッコリイケメンはどうだった?」
「私は階段を上り、凄く疲れました」
「ヤったって事ね」
山田のバナナを食べてた口が止まった。
「いえ違います。階段を上がる場面が多くてモッコリさんは後ろから着いてくるパターンばかりで疲れました」
安堵の表情を浮かべた山田の口が動き出した。やっぱりまだセイラの事が好きなのかと私は少しガッカリした。
「パンチラを見てたって事ね」
「あのモッコリイケメン先輩がそんな性癖があるとは驚きッス」
「蛍と山田は聞いてもしょうがないか」
マリアは、興味無さげに言うと山田が流暢に話し出した。
「普通にデートしましたよ、大垣城行って写真を撮ったり、水着を買って最後は久しぶりに蛍の部屋に行きました」
「蛍が部屋に入れたって事はヤったのね」
「ヤってませんよ」
私は、とっさに否定した。その瞬間、顔から火が吹いた様にカッと熱くなり汗が出てきた。
「蛍はすぐに顔に出るから、ヤったかヤってないかなんて聞かなくてもわかるわ。それに男を部屋に入れて、お持ち帰りしといて、ヤってませんってありえないからね」
私は山田の方を見ると、否定もせずもくもくとバナナを食べていた。
「じゃ、マリアとチャラ男はどうだったのよ」
私は、キレぎみに言った。
マリアは、さっとゴミを片付けてロードバイクに乗ってそそくさと一人で学校方面へと向かった。




