学祭
試合から1ヶ月が過ぎ、まだまだ暑いと言うのに制服が夏服から冬服へと変わた。
放課後、部室で私は、セイラと二人で、待機していた。なぜかというとマリアが相談があるからと朝練の終わりに言っていたからである。
「開けてー」と部室のドア越しからマリアの声がした。私は、手が塞がってるのかなと思い、素早く部室のドアを開けた。
マリアの両手には、ディスクホイールを入れる青い円形のバッグを2つぶら下げていた。
「二人にお土産よ。こっちは、ほたる。こっちは、セイラ」とマリアに手渡された。どっちも同じものじゃないのと思うが、マリアは、楽しそうにしている。
「あたしだけ目立ってるのも申し訳ないから」
「開けてみて」と、にやにやして言う。
私は、これには何かあるなと思い、恐る恐るバッグのチャックを広げた。
中には、魔法少女のプリントされたディスクホイールが入っていて、片面に変身前、裏側には、変身後のキャラクターがプリントされている。同様にセイラの方にも違うキャラクターがプリントされていた。私は、痛車と違うんだからディスクホイールにこんなことしてほしくなかった。それにR指定に引っ掛かりそうな露出度の高い絵柄だ。
「これ警察に捕まりませんか?」
心配なのでマリアに聞くと。
「大丈夫よ、回ってれば見えないから。それにギリセーフだから」
ギリセーフに安堵したが、回ってれば見えないからって教師の言う言葉では、無い……。
「これで三キャラ揃ったから無敵よ!」
マリアは、決め顔でそういうが、何が無敵なのか謎だ。このキャラクターは、小学生の時見てて好きだったアニメだが、これをロードバイクの後輪に着けるとなると人前で、アニメオタクだと公言しているようなものなので着けるには、抵抗がある。
「話し変わるけど、学園祭の自転車部の出し物考えてきたわ」と真面目な顔で言うマリア。
3人しか居ない自転車部なのに何するのだろう。それに考えるのは生徒の役目。
「自転車部は、何するんですか?」
と私は、問うとマリアは、考えてきたことを話し出した。
「ケッタマシーンを使って、自家発電と迷ったんだけど、どうしてもあたしの後継者になる逸材を見つけたいと思ってこっちにしたのよ」
後継者ってなんなんだろう。
マリアは、どや顔で「名づけて、シコリンピック!」と、言い放つ。
私は、何処かで、聞きしたような言葉だったが思い出せない。セイラを見ると恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「なんなんです、それは?」
「ちょっとロードバイク持ってきて」
マリアに言われるまま、部室にロードバイクを持ってきた。マリアは、持ってきたロードバイクのハンドル中央に取り付けてあるスピードメーターのボタンをいじくっている。何するんだろうと黙って見ていた。
マリアは、ロードバイクのハンドルを持ち前輪を10cmほど浮かせて説明しだした。「このスピードメータあるでしょ、前輪のフォークとスポークに取り付けられたセンサーが、タイヤが一周した速さでスピードが解る。これを利用してシコリパワーを計測し、ナンバーワンを決めようと思うの。どうかしら?」
「マリアさん流石です。自転車を使った出し物が出来るなんて」
セイラは、胸元で小さく拍手をしている。
「で、シコリパワーって何ですか?」
私は、シコリパワーがわからないので聞くと、「女に必要なものよ、速ければ速いほど、良い女の条件」
「ちょっと恥ずかしいけど、楽しそうですね」
セイラは、何だかわかってるみたいだ。
「あと、盛り上がるのに必要なものは、景品と大スクリーン。ローラー練習で使ってるモニターで良さそうね」
マリアが全て決めて納得した顔で頷いていた。なんだかんだで、自転車部の出し物が決まり、準備に取りかかった。
学園祭当日、すがすがしい秋晴れの中、シコリンピックが行われた。
自転車部の部室前では、シコリンピックというゴロが良いのか、景品の勝負下着引換券目当てなのか、大勢の女子高生
達が足を運んでいた。
ロードバイクを動かないように、固定ローラーで後輪を固定して、前輪を浮かせるために紐をS字フックに結びハンドルに引っ掛けて10cmほど宙に浮かせた。
スマホを使いモニターにスピードメーターが写し出されるようにし、シコリンピックが始まる。
ルールは、三十秒やり続けて最高速度の人が暫定一位となる。
デモンストレーションで、セイラが測定をする。
これには、コツかあり、センサーとセンサーを小刻みに感知させるために、前輪を片手でつかみストロークを少なくして、上、下、上、下と小刻みに動かすことだ。ゲームの隠しコマンドでは無い。
スピードメーターは、モニターに映し出されている。セイラは、前輪のセンサーを、フォークに付いたスピードメーターのセンサーに合わせる。
私の「かまえて」の合図で、セイラは、腰をかがめ、前輪を握る。
「スタート!!」
セイラは、手を小刻みに上下運動をさせていく。ぐんぐんと、速度を積み重ねていった。観客からは、凄い声援の嵐だ。
握力が無くなっていくのが目に見えてわかる。体力もしかり。上下運動が遅くなっていく。こうなるとセイラでも握ってられなくなる。
「もうらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー」
断末魔を放ち、全力を尽くしうずくまるセイラ。
計測結果が出た。
「只今の記録は142キロメートルでした」
私は、自分で言った言葉が鳥人間コンテストの様だと笑ってしまう。
セイラの記録にみんなが、拍手をする。
テレビに写ることによって、みんなが、一喜一憂でき、盛り上る。
だが、私には、ハードなプレイだとはわかるが何がすごいのかが解らない。
セイラのタイムが暫定1位となり、理事長室から持ってきた高級な椅子と演劇部の小道具の王冠をかぶり、照れくさそうにセイラが座る。
腕に自信のある女子が、次々とチャレンジし、記録を塗り替えていった。
マリアは、興奮しながら、
「これぞ弱肉強食!野生の王国の世界だわ」と目を爛々と輝かせていた。
今の暫定チャンピオンは、199キロメートルを叩き出した三年生の手越さんだ。
髪をピンクに染め、短いスカートを履き、遊んでそうなビッチ臭のするギャル。堂々とした態度で王冠をかぶり椅子に座る。長い足を組み直す度、シャリが見え隠れする。今のところ、この女が最高の良い女らしい。
「他に、挑戦者居ないですか?」
辺りを見渡し、挑戦者が居なくなると、マリアが登場した。
「手越さん、ラストは、あたしが相手になるわ!」
「かかってきなさい!」
手越さんは、顎を少しあげて挑発する。
まるで、ボクシングの会見のようにビッグマウスが飛び交い、観客のボルテージもマックスになる。
熱狂の中、私のかまえて合図でシーンと静まり返り、マリアが足を開き腰を屈めて前輪を握る。
「スタート!!」
スタートの合図でマリアの握った手が、残像を残すかのようにいくつも見える。
訳が解らないが凄さは、伝わってくる。
観客は、マリアの凄さに声もでないようだ。スピードが上がっていき、あっさりと手越さんの199キロメートルを越えていった。230、240と上がっていき255キロメートルを叩き出しす。手越さんは、あまりの凄さに椅子から転げ落ち短いスカートが仇となり、羞恥部分をさらす。
優勝を決めたマリアに、観客からピストンマリアコールが鳴り響き、ついでにピストンマリアの称号も手に入れた。
「まだまだ、あたしの後継者は、見当たらないようね、また来年お会いしましょう」
マリアは、教師なので景品の高級下着引換券は、手越さんがゲットした。
私は、最初から最後まで意味もわからないまま終わりを向かえたが、来年もやるの?
シコリンピックは、大盛況で幕を閉じたが、後で苦情が来て、マリアは、理事長に、呼び出しを喰らった。