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ケイリン決勝

 


 大会二日目私達は、昨日と同じ場所に毛布を敷き場所を確保した。


 ケイリン女子決勝は、昼からなので私達は、他の競技を観戦した。三人で走るチームスプリントや四人で走る団体追い抜き、マリアは、あれもやりたい、これもやりたい、もっとやりたい、もっともっとやりたいと目を爛々と輝かせていた。


「来年部員が入ってきたらやれますよ」

 私が言うと、

「今日のケイリンでライバルに勝って、優勝出来たら入部希望いっぱい来るかもね」と、私とセイラにプレッシャーを与える。セイラと顔を見合わせ、ぎこちない顔で笑う。


 ライバルか、たぶん新田理夢には、そんなふうにおもわれていない。だが、私が倒さなければならない相手だ。

 私は、新田理夢をライバルと決めた。


 新田理夢に勝たないと優勝は無い。

 昨日の夜何通りも考えてこれは、イケると思った作戦で行くことにした。


 早めに昼食を取り、マリアにマッサージをしてもらう。


「あたしレベルの高級女なら一晩で50万は、取られるんだからありがたく思いなさい」

 確かに高級女と自らいうだけのことはある。体が凄く気持ち良くて体が軽くなっていく。たまに違うとこをマッサージしてくるが誤爆として目をつぶった。


 そんこんなで、ケイリン女子決勝が始まる。


 ホームストレッチに集まりそれぞれヘルメットに被せるキャップを貰う。

 黒色のキャップを手渡された。


 高鳴る気持ちを抑え、私は、②番車黒のキャップをヘルメットに被せた。セイラは、③番車赤のキャップ、新田理夢は、①番車白のキャップ。


 ペイサーの居るスタートラインに自転車をゆっくり運び支えて貰う。


 スタートラインに選手5人横並びになり体を起こす。新田を横目で見ながら深呼吸をする。新田は、手を広げた後胸元で十字を切る。


 先頭誘導員が通りすぎると同時にピストル音が鳴りスタートした。

 昨日考えた作戦は、一番前から新田の動きを見ながらレースをする。

 スタートダッシュには、自信があった。

 500mTTでの200mのラップタイムは、新田理夢に勝っていたからだ。

 私は、思い道理に先頭を取り、後ろを確認し セイラとのラインが完成した。


 後ろを確認し、並びは、←②③⑤①④

 残り2周になり後ろをチラチラ確認する。まだ動きはない。

 必要以上に後ろを警戒してるから動いてこないのか。そのまま半周が過ぎる。

 残り1周半になりジャンが鳴り響く。

 一瞬ジャンの音にドキっとしたが、後ろを見ながら警戒する。

 ①番車の白のキャップ新田は、立ち漕ぎして自転車を外側に持ち出し、車体を左右に大きく揺らす。

 歯を食い縛り、鋭い眼光で私を睨みつけた。全身からみなぎるオーラが、一気に前に来るように見えた。

 まだ600mあるのに攻めて来たと焦る。

 ジャンの音も気持ちを焦らせていた。

 前を向き、立ち漕ぎして名一杯スピードを上げた。

 私は、このまま新田の仕掛けを潰し、先行逃げ切りだ!と、全力でもがいた。

 残り半周、脚が限界になるがもがき続けた。

 残り100m。

 徐々にスピードが落ちていきーー

 次々と抜かれて行く。


 ゴールしてから気付かされた。

 すべてフェイクだったことに。

 ジャンの音に合わせて新田の見せかけの仕掛けに踊らされていた。

 ジャンの音を利用し、立ち漕ぎし、体を揺らし、顔の表情を作り、鋭い眼光で威圧して仕掛けてきたと錯覚させた。

 完敗だった。


 結果は、最下位。

 新田理夢は、優勝。

 豹欄のメガネっ娘は、2位。

 セイラは、3位。


 私は、悔しくて初めて泣いた。


 悔し泣きして、トイレの鏡で顔を見る。ウサギの様な真っ赤な目。

 手洗い場で蛇口を開き顔を洗い、目を冷やしていた。体を起こし鏡で顔を見る。

 鏡越しから顔が見えた瞬間、右側の彼女を見た。

 隣で手を洗っていたのは、ハンカチをくわえた新田理夢だった。

 私なんか眼中にないのか黙々と手を洗い続けている。

 手を洗い終えて蛇口を閉めると、くわえたハンカチで手を拭きながら、鏡の方を見て話しかけてきた。


「そんなに悔しくて泣けるのならもっと練習してきなさい」


 私の泣く姿を見た、ライバルからの励ましの言葉だった。

 また涙が溢れてくる。


 今度は、新田がこちらを向き、切れ長の目を細め、人差し指で私の頭を指し。

 一呼吸おいてから話し出した。


「ケイリンは、自分の思い描いた展開に自から動き、相手をその展開へと誘導し、勝利を切り開く」


 この二日間の戦いでこの言葉が身に染みるほどわかる。


 新田は、長い腕を後ろで組み照れくさそうな態度をとる。


「これは、師匠の受け売りなの」


 こんな可愛らしい態度をとる新田。

 同じ学年の女子だと忘れていた。

 自分の中で勝手な想像をし強くて怖いイメージを作り上げていた。


「七星ほたるさん、次は、来年のインターハイ予選で会いましょう」


 私は、泣いた声で頷くしかできなかった。そう言うとトイレの外に出ていった。なにも言えなかった。

 名前を覚えてくれていたのに。


 トイレの流れる音が聞こえ、扉が開き中からマリアが出てきた。


「大をしたあと水も流せず出るタイミングがわからなくなって結局最後まで出れなかったわ」


 マリアは、手を洗い私の方を見て話を続けた。


「新田なかなか良いやつじゃん。ほたるのことをライバルまでとは、いかなくとも多少は、気になってるってことかな」


 新田理夢からライバルと言ってもらえるような選手にならなくてはならない。


「野生の王国で例えるなら、木に登ってインパラを食べる女豹を下から見てるチーターの子供ってとこかしら」


 何となくだけど意味がわかった。

 食べたかったら強くなれと。

 私には、そう聞こえた。


 新田理夢という大きな目標が出来たからそこに向かって進むしかない。

 もう、泣いてる暇は無いのだ。

 私は、また顔を洗いタオルで拭い、すがすがしい顔に戻った。



 閉会式が終わり、帰路についた。










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