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合宿

 

 八月になり、試合に一回も参加せずに四ヶ月が経過した。練習前に合宿は、どこに行くか部室で話し合うことになった。


「部活といったら合宿!」 


 マリアにとっては、合宿も青春イベントの一つか。


「夏といったら海!」


 岐阜県には、海が無い、憧れがある。

 しかし合宿となれば別問題だ。


「海で何するんですか」


「そりゃーナンパに決まってるじゃない」


 なんでそうなるのかねぇ。


「楽しそうですね」


「セイラは黙ってて」


 九月の下旬に新人戦がある。それまでにセイラとの差を縮めておきたい、遊んでる暇はない。


「全く自転車の練習に関係無いですよね」


「今回やけに突っかかってくるわね」


「真面目に練習がしたいからです」


「じゃあ、ほたるは、どこに行きたいの?」


「練習がしっかり出きる山ですね」


「じゃあ、セイラは?」


「楽しいとこなら何処でも良いです」


「仕方がないわね。じゃんけんで決めましょう」


 海か山の勝負。


 負けられない一戦となった。


 じゃんけんをし、あっさり私が勝ってしまった。


 マリアに肩をポンと叩かれ、来年は、海だからと念を押された。


「どこの山に行くかは、あたしが決めるから、用意しておいて」


 明後日から、山で合宿することになり、

 ロードバイクに沢山乗れることが私には、嬉しかった。


 合宿当日の朝。

 荷物があるのでセイラパパのワゴン車にロードバイクとスペアの前輪、後輪、着替えなどのバッグを積み、三人とも学校まで送ってもらいセイラパパを見送った。


 学校に着き、今度は学校所有のワゴン車にロードバイクなどを積み出発した。


 合宿場所は、郡上八幡で吉田川に面した場所にあり、マリアのお父さんの生家らしい。


 外観は、昔ながらの旧家。

 開けっぱなしの玄関から、マリアが大声で「お父さん、お母さん来たよー」と、言い中に入っていく。


 マリアの青春時代を勉強漬けにし、思いでも何も無い青春時代にした人がどんな、父親なのか気になった。


 続いて私達も、お世話になりますと、追随した。


 マリアの後ろを着いてくと、初老のおじさんが浴衣姿で団扇を持って川を眺めている。


 どこかで見た顔だ、思い出せない。

 不意にセイラに肩を叩かれ、耳打ちされて答えが出た。

 あっ!学校の理事長だ。


「紹介するわ。あたしのお父さんこと、青春学園の理事長、内田吉朗うちだよしろう


 何処にでも居そうな、ただのおっさんで怖そうには、到底見えない。


 挨拶が終わり、二階に上がると三十畳程の横長に広い川に面した部屋があり、

 部屋からは吉田川が一望できる。


 流れが早い浅瀬が白波をたてて、ピチャ、ピチャと音をたてて涼しさを醸し出していた。


 避暑地としては贅沢すぎる景観だ。


 荷物を置き練習に行くための準備をした。


 今回の練習メニューは水谷監督が決めた内容でしっかりやれそうだ。


 合宿一日目は、ひるがの高原まで行き、

 もがき練習を疲れるまでやることになった。


 ウォーミングアップがてら現地まで、一列走行で先頭交代を繰り返しながら現地にたどり着く。


 なだらかな坂道の直線が八百メートル程続く。練習には、もってこいな場所だ。

 路面に小石など落ちてないか確認して地獄の猛練習が始まった。


 一人がスタートし、戻ってきたら次の人がスタートする。永遠とそれの繰り返しである。


 もう、何十本やったかさえわからなくなっていた。


 夕暮れになり、やっと練習が終わった。

 だが、帰るのも自力で疲れきった体にむち打ちように帰路についた。

 

 ホームポイントに着くとマリアのお母様が、出迎えてくれてお風呂に入るように進められる。


「えっ?三人で入るの?」


「そうよ、三Pよ」


 ここでは、あえて突っ込まないでおこう。


「お風呂に一緒に入るのは合宿の醍醐味でしょう」


 脱衣所で裸になり、頭と体を洗い湯船に浸かる。

 疲れきった体には、至福の時間だ。


「マリアさんの髪の毛は、地毛なんですか?」


 金髪のウェーブのかかった髪。


「そうよ」


「お父さんもお母様も日本の方に見えたのですが気になったので聞いてみました」


 私は、あれっ?と、思いマリアの下の毛を見る。


 やはり、黒い。


 ただ、染めてるだけだと確信した。

 いつもなら、制裁を加えているのだが疲れているのでそんな気も起きなかった。


 お風呂を上がると夕食も用意してくださっていた。


 郷土料理の蜂の子ご飯と、アユの塩焼き、アユの甘露煮、けいちゃん、名宝ハム、たんぱく質の宝庫だ。


 だが、蜂の子ご飯には、抵抗があったが、一口食べたらそんなことは無く、すぐ忘れるほど美味しく、全部平らげてしまった。


 この日は、全員疲れきっていたので、何事もなく眠りについた。


 合宿ニ日目は、朝の五時からとなった。

 高山まで行って戻ってくる。約ニ百五十キロメートルの超過酷な旅になる。


 三人協力し会わないと、戻ってこれない。


 昨日の疲れを残しつつも、高山一周がスタートした。


 水谷監督のワゴン車が私達の後から、

 ストーカーのようについてくる。

 これは、女子高生のお尻を眺めたりするためでわ無い。ロードバイクのトラブルがあった場合や、落車、急病ですぐに対処できるように着いてきてる。


 順調に先頭を入れ換えつつ目的地に向かう。


 途中水分補給、エネルギー補給のためにロードバイクに乗りながらカロリーメイトや、バナナを食べたりする。

 男だと、ロードバイクに乗りながらおしっこもすることもあるらしい。


 何だかんだでトラブルもなく折り返し地点の高山にたどり着き昼休憩となった。

 昼食は、飛騨牛のステーキを食べる事になり、監督から食べ過ぎに注意と言われていた。


「ふぅ食いすぎた~」


 マリアは、妊婦さんのように膨らんだお腹をさすりなが水谷監督の元に行き妊娠したから責任とってよと、観光客がいる前でしつこく攻め立てていた。

 端から見ると、監督が教え子に手をつけたようになっているが、ただの食い過ぎである。


 マリアが食べすぎたせいもあり、おなかが凹んで動けるようになるまでに四十分ほどかかった。


 折り返し地点からは、下りが多くなり順調に進んでいった。

 途中セイラの後輪がパンク魔に襲われたが、素早くスペアの後輪に切り換えて、すぐに合流した。

 日が陰り、へとへとになりながらもホームポイントに戻ってこれた。


 こんな苦しい道のりを三人で助け合い、ゴール出来たことは、一生忘れないだろう。


 合宿三日目。


 朝六時から掃除をし、荷物もワゴン車に積んでお世話になった、理事長とお母様にあいさつをして練習に向かう。


 ここには、もう戻ってこない。


 初日同様、ひるがの高原まで行き、もがき練習をやり続ける。

 いつ終わるかわからないのが精神的にも疲れを早める。誰一人として無駄な私語は出なかった。


 正午になり、監督がロードバイクをワゴン車に乗せろと指示を出し、やっと一息つけた。


「これから、下呂温泉で一泊して、明日の朝ロードバイクで帰って終わりになります」


 疲れきった体を温泉で癒すなんて何て贅沢な、粋な計らいである。

 メチャクチャ疲れているが青々と繁った景観を眺めつつスマホで、寝てるセイラとマリアを盗撮した。

 思い出の一枚になるだろう。


 下呂温泉に到着し、カバンを手に予約してある部屋へと通される。


 また、三人部屋かぁ。


 夕食前に露天風呂に行き疲れを癒した。

 お風呂の中では色々とあったが、あえて伏せておこう。


 露天風呂から出て、いっそう疲れた感は、あったが、食事の豪華さでそれも吹き飛んだ。


 翌朝、ロードバイクで自宅へと向かう。

 帰るまでが合宿だと、水谷監督に言われ気を緩めること無く自宅にたどり着き、解散となった。


 今回の合宿では、仲間との助け合いや練習に対する心構えが養われたと思う。


 一皮むけた私のタイムをみんなに見てほしくて、明後日からのバンク練習が楽しみになった。




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