告白
練習が終わり、ワゴン車に自転車を積み終わるとその場で解散となった。
トイレに行き、帰ろうとセイラとマリアを探して居ると、マリアと上半身裸の山田が階段の上りきったとこで、身を屈めて除きこんでいた。
「何してるの?」
マリアと山田は、同時に振り向き、人差し指を口に当てて、シーッとやり、マリアが手招きした。
階段を上がりのぞき込むと、セイラと山田の先輩Aが立っていた。
三対十の合コンに来てた奴だ。
セイラが告白されているように見える。
マリアは、にやにやと嬉しそうにしている。対照的に、山田の顔を伺うと心配そうな顔でセイラを見つめていた。
私から見てセイラと山田は、お似合いだと思うが、セイラと恋愛話をしないから何を考えているかわからない。
「これぞ、まさに青春!」
「マリア静かに!、聞こえちゃう」
セイラと先輩Aは、何か話しているようだが聞こえない。
「あの先輩Aなかなか良い雄かも知れないね」
「なんで、そんなことがわかるの?」
「生で見ないとわからないけど、あの体見てごらん」
先輩Aは、Tシャツにレーサーパンツ姿。確かに、筋肉質で良い体に見える。
でも、今、上半身裸で居る山田も負けていない。
「山田も負けてませんよ」
「そうね、山田君も体格では、良い勝負してると思うわ。でもね、あのもっこりとしたとこ見てごらんなさい」
言われるまえから気になっていたが異様にデカイ。自然と山田のと見比べてしまった。
手で隠す山田。
くそ親父のせいで、自然と見てしまう癖がついてしまっている。
「セイラは、天然系だからそんなとこで選んじゃうかもね」
山田は、苦虫を噛み潰した様な歪んだ顔になっていた。
「セイラとられちゃうよー」
更にあおる、マリア。
「昔やってたテレビ番組なら、ちょっと待った!と、出ていくんだけどね、山田君は、やらないのかな?」
ずっと、黙っていた山田が口を開いた。
「俺、中学のとき告白してフラれてるから、また告白してフラれるのが怖かった。それに、俺が告白して朝の楽しみな一時が無くなるような気がして言い出せなかったっス」
そういうと山田は立ち上がり、レーサーパンツの中に手を入れた。
手を出すと、さっきよりもっこりした部分が大きく見える。
こ、これは、貧乳女性がやる極意、寄せて上げての男性バージョンなのか。
これで、山田も外見的に劣っていない。
「山田君素直な気持ちを伝えてこればいいのよ」
「また散ってこい」と、山田の大きな背中をバシッと叩いて送り出した。
山田の顔は、惚惚するような良い面構えの男になっていた。
先輩Aとセイラを掛けての戦いになる。
私達もきがきでない、見守るしか出来ないのがもどかしい。
山田が、一歩、二歩、三歩と進み。
ちょっと待った!と、駆け寄った。
気合いの入った声は、鳩の群を一瞬で空に飛び立たせた。
百八十センチメートルある山田は、先輩Aを威嚇するように上から睨み付けた。
「先輩、俺も…」と、言いかけた瞬間。
先輩Aは、遮るように
「お前には、まだ早い」と、諭すように言う。
「早くもなんもないっス」
挑発的な口調で言い返す。
修羅場になりそうだ。
「マリア、こんなときに楽しそうにして不謹慎よ」
「当たり前じゃない、二匹の雄が雌を取り合うなんて、野生の王国でしか見たことないからね」
何となくだが言ってる意味が理解できた。
「お前、先輩に向かってなんだ、その態度は!」
「こんなときに先輩も後輩も関係無いっス」
「てめえ、そこに座れや!!」
「いやっス!」
山田と先輩Aは、掴み合いの喧嘩になった。
「マリア、先生なんだから止めに入った方がいいんじゃないの?」
「雄同士の真剣勝負に部外者が口だすもんじゃないの」
山田が地面に叩きつけられ、先輩Aにマウントポジションを取られてしまった。
「あーあ、山田君ボコボコにされそうね」
だが、セイラが止めにかかろうと二人に近づいた。
「お取り込み中すいません、先輩Aさんタイヤ二本で、九千八百円になります」
頭上に???が大量に発生し、何がなんだかわからなくなった。
先輩Aは、馬乗りの状態で興奮ぎみに言い放った。
「インターハイで使うタイヤをセイラちゃんに頼んでおいたんだ、だから、お前にはまだ早いと言っただろう」
ポカーンとした瞬間、山田がこちらを睨み付け、私達は、転がるように階段を降り何事もなかったかのように帰り支度をした。
セイラの絶妙なお金の請求で、山田は、ボコボコにされずにすんだ。
翌日の朝練で、山田は丸坊主になっていた。