ローラー練習
一旦止めてかきたしたりなおしたりします。
放課後、水谷監督が、ワゴン車の後ろから、ローラーを降ろして組み立てていた。
ローラーは、二つに折られていて、黒色のゴムが付いている。
ローラーは、三本ついていてそれぞれに溝がある。その溝に黒いゴムを掛けて折り畳まれたローラーを真っ直ぐにする。
前輪に一本、後輪に二本のローラーがバランス良く取り付けてある。
ローラーを横一列に並べて、私とセイラは、ロードバイクをローラーの上に乗せて、簡単に乗って見せた。
「前にも飛び出ること無く、ペダルを回しているけど、どうなっているのよ」
何か、からくりがあるのかという目で、マリアが不思議そうにローラーとロードバイクを見ている。
「横で見てますから、マリア先生は、まず試してみてください」
「いやよ、怖いし」
「そんなこと言わないで、簡単ですから試してください」
「そんな簡単ならやってみるわ」
マリアは、ローラーの上にロードバイクを置き、股がろうとした。ハンドルに体重がかかり、ローラーからロードバイクが後ろに落ちてしまった。
こっち側に倒れて私までも巻き込まれそうなので、マリアにもう少し離れてやってよと言った。マリアは、しぶしぶローラーを引きずって私から少し離した。
マリアは、十回位同じことを繰り返す。
だんだんと上手くなっているがあとは、気持ちの問題だ。だが、マリアにはそれがわからない、仕方なく水谷監督に助け船出した。
「うーん…。水谷監督、コツは無いの?コツは?」
「焦らず、怖がらず、ペダルを回すだけです」
「そんな、簡単に言われてもねぇ」
マリアは、唸りながら
考える像の形になり考えだした。
数分後、沈黙していたマリアが立ち上がり、ロードバイクをローラーの上に乗せた。決心がついたようだ。
ハンドルの上に手を添えて、ローラーの形枠に足を乗せた。体の力みを取るように、深呼吸し、サドルにお尻が付くと同時くらいにペダルも回した。フラフラと前輪が波を打つ。
「マリアさん、もっと回して下さい」と指示が飛ぶ。
マリアは、必死に回し、安定した。
「そのまま、上ハンを持ったまま、慣れるまでそのまま回してください」
「恐いのは、最初だけだったわ」
10分過ぎると、汗が吹き出す様に流れ出る。前にも後ろにも進まないなので風が起きないからだ。
「前方から扇風機をあてて欲しいわ」
マリアが言うのは、それくらい暑いからでおおげさでもなんでもない。
汗でぐっしょりと濡れたTシャツからブラジャーの線がくっきりと透けて見えてきた。セイラから黄色、私は青色、マリアは、赤色と信号機の様に見えている。
水谷監督が立ち上がりそわそわしだした。目のやり場が無いのか、明後日の方向を見ている。
「水谷監督は、これが狙いでローラー練習させたのかな?」
汗を垂らしながらマリアが攻撃する。
「ち、ちがいますよ」
焦る水谷監督。
「ほらほら、蛍もセイラもぐっしょり濡れてるわよ」
「監督見ないで下さい。セクハラで訴えますよ」
「み、見てないよ」
「でも、見てないと監督失格だよね」
うろたえる水谷監督は、額から汗が吹き出して私達の様に汗を流し始めた。
マリアは、ホワイティーの事で笑われたのが悔しいのか、必要以上に攻め立てていた。
六十分過ぎると、顎から滴り落ちた汗がコンクリートの地面を黒く濡らしていた。
「景色が変わらないのは、精神的にも疲れるわ」
マリアは、ぐずぐず文句ばかり垂れている。が、景色が変わらないのは精神的に苦痛でもある。
「はい、降りて下さい」
水谷監督から指示が出て、私とセイラは、足を止めてローラーから降りた。
マリアは、足を緩めようとしたが、どうやって降りるのか解らないようだ。
ひたすらまだ回している。
「降りる時どうすんのよー」
マリアは、次のローラー練習の時から、扇風機とテレビを用意した。