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監督

 


 学校の要請で、指導者が要請されることになった。今日から、来る予定。

 部室でおしゃべりしながら、着替えていた。


「最近、教師やってる時間がだるくて、だるくて」


「教師として、失格ですよ」


「部活してる方が充実した生活を送れてるのよ」


 実質マリアの体は、シャープになり筋肉質になっている。充実した生活の現れだ。


「今日から監督が来ますね」


「どうせ、竹刀片手に持った、けつ顎のゲスなのが来るんでしょ」


「それは、来てみないと解りませんね」


 待ちに待った監督が来る、競輪場での練習もまともに出来ると思うとそれだけで心が踊る。


「それより、このレーサーパンツ見て、よれよれよ」


「マリアそのレーサーパンツそろそろ買い換えたら?」


「そうね、最近休憩してるとアリンコがたかってくるのよね」


「それは、別の問題で、磨耗して刷りきれてるからね」


「終わったら、買いにいくわ」


 これは、マリアが一生懸命練習している証しだ。


 外に出て、部室の前で自転車整備をしていると、ワゴン車が部室の前で停まった。


 中から若い男が降りてきた、マリアの好きそうな顔立ちで、三十歳前後で短髪黒、身長は、百七十五センチメートル位ありそうだ。竹刀も持って無い、ゲス野郎には、ほど遠い好青年なかんじだ。


「こんにちはー、自転車部の方達ですか?」


「はい、そうです」


「こちらに、内田先生は、お見栄になりますか?」


 私達三人は並んで、棒立ちしている。


 マリア好みの男なのになんで返事しないんだと、やきもきしながら待っている。


 五分、十分と経過し、男は口を開く。


「まだ来てないのかなぁ~」と、一人言のように呟く。


 見かねたセイラは、「マリアさんならもう来てます」


 男性は、回りを見渡してセイラの顔を見つめた。


「えっ、どこですか?」


 マリアは、渋った表情で一歩前に出て。


「内田マリアでーす」と、片手を脇に当てて、手を上げた


「え、えっ、ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー」


 のけぞるように驚く男性。

 最高のリアクションだ。


「本当に、内田先生ですか?」


 信じられない顔つきでキョロキョロと、私とセイラを見てくる。


 うなずく私とセイラを見て本当なんだと納得する。


「今日から、自転車部の監督を承りました、水谷修也です、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「あのぅー、内田先生は、なぜ、その格好をされてらっしゃるのですか」


「そうね、強いて言えば青春ですね」


 質問と答えが噛み合っていない。


「で、水谷さんは、何歳なの?」


「えっ、えーっと、僕は二十九歳です」


 マリア口笛をならし、「ビンゴ」と水谷監督に向けて親指をたてた。


 戸惑う水谷監督。


「えーと、内田先生、これからの方針などを話し合いましょう」


「そうね、貴方の事も詳しく知りたいわ」


 ねっとり、誘うような感じで言う。


 そんなどうでもいい話を私は、うつ向き加減で聞いていた。


 前で手を組んで、何となく目のはしで見ていたものが、究極に激ヤバなものだとわかった。


 これは、マリアとって一生にか変わる

 一大事だ!


 マリアのレーサーパンツのデルタゾーンから白い糸のようなものが出ていることに気づき、凝視した。レーサーパンツの色は黒だ、白い糸のようなものが、ゆらゆら揺れているのがくっきりと解る。


 間違いなく陰毛だ!それも白髪の。


 いずれ、水谷監督にもバレてしまうだろう。幸い、今は、マリアが生徒と一緒に練習するなど色々主張して話している。


 マリアに恥をかかせてしまう前に手を打つしかない。どうしたら良いのかとセイラに小声で伝えた。


 今、一瞬水谷監督が毛の方に目を合わせたように見えた。


 ヤバイ気付かれたかもしれない。


 どうしたら良いのか、焦る私とセイラ。

 やきもきしながら時間だけが過ぎていく。


 ここで、セイラが妙案を出してきた。


 その妙案とは、

『マリアさん糸くず着いてますから取りますね』と抜いてしまうことだ。


 もうばれていそうだが、糸くずと声に出すことで、あれは糸くずだったんだなと思わせる事が出来る。


 せっかくのマリア好みの男が監督で現れて、アタックする前にドン引きされて何年契約か知らないが、数年間顔を会わすことになったらと思うとマリアの青春計画がカオス時代になってしまう。すぐに決行に移るしかない。


 どっちがやるかにいたっては、声の性質上滑舌が良い話方のセイラに任せた。


 セイラに目配せし、合図を送った。


 私は、生唾を飲み込み注視して見守った。


「マリアさん、レーサーパンツに糸くずついてます、取りますね」


 セイラは、ゆらゆらと揺れる白い毛を人指し指と親指で摘まんだ。


 順調だ、滑舌も良い、あとは引き抜くだけだ。


「おねがい、取っといて」


 いまだ!


「イタっ」


 いま、イタっと言っちゃたね。


 股を押さえるマリア。


 笑う水谷監督。


 作戦は失敗した…。


「あなたたち、あの男が妻子持ちじゃなかったら、殺されてたわよ」


「ごめんなさい」


「それに、大事に育ててきたホワイティーちゃんを殺してどうしてくれるのよ」


「あれただの、白髪ですよね」


「解ってないわね、人間一本位ホワイティーちゃんがあるものなのよ、それを他人が触ろうとしたり抜こうとするものなら、逆鱗に触れたかのように怒りだすという長い特殊な毛の事よ」


「ごめんなさいマリアさん、そんな大切毛を抜いちゃって…」


「明日から、あたしもつるつるにするから連帯責任で全員つるつるにしてきなさい」


 今日の出来事は、マリアとって忘れられない青春の一ページに刻まれただろう。












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