はじまり
競輪は、日本発祥のスポーツである。
70年前には、女子競輪が盛んだった。競輪場には、何万人もの観客が脚を運んでいた。
1968年女子競輪は、廃止となる。
約50年の時を越えガールズケイリンとなり復活した。
私のおばあちゃんは、女子競輪選手だったらしい。小さな頃おばあちゃんに聞かされていた女子競輪の話を思い出しながら、いってきますと心のなかで呟き、仏壇のリンをチーンと鳴らした。
私の名前は、七星蛍、15歳。
今日から高校生活が始まる。
玄関の全身境の前で、青髪を二つ結び留め、ツインテールを造る。鏡に映る顔をじっと見つめ、少し色黒の自分を見て、はぁーと、ため息をついた。すこし大きめな白のブレザーと、ピンクのスカートを眺め右に一回転、左に一回転して、スカートの端を払い、いってきまーすと元気よく玄関を飛び出た。
これから三年間、片道25kmの自転車通学が始まる。駐車場の横に置いてある、マウンテンバイクの前カゴにカバンを入れ、バンジーロープで飛び出さないように固定していると清良が来た。
長良 清良は、私の親友で同じ高校に入学した。
《サイクルショップ長良》の娘だ。
腰まである黒髪を白のリボンで留めている。背も高く、清楚な美少女である。
お母さんを早くに無くしているせいもあり、なんでもてきぱきとこなすしっかり屋さんで、自転車の事なら何だって詳しい。欠点を探すなら恋愛に疎いとこ位である。
私達は、中学までロードレースに出ていた。今年から、女子の自転車トラック競技が正式にインターハイ種目に決まったので今年から、自転車部が出来る青春女子学園に入学することにした。
ロードレースからトラック競技に乗り換えて、競輪選手になるのが目標である。
「おはようー蛍」
「おはよう清良」
「今日から、ちょっと遠いけど一緒に頑張って行こう」
「おーう!!」
田舎道を通り、のどかな田園が広がる道を、一例になって速度を上げていく。
スピードを上げていくにつれて、冷たい風が皮膚がむき出しになっている、顔、手、脚に突き刺さる。春になったというのにまだまだ寒い。早くロードバイクで通いたいところだ。
国道に出て、路面がアスファルトに変わる。舗装された綺麗な道路になり、私は嬉しくなり一気にスピードを上げた。
揖斐川の坂をかけあがり、橋の上から横目で川を眺める。夏になったら泳ぎに来よう。そんなことを思いながら橋を渡りきり坂を下る。坂を下るとタイミングが悪く信号が赤になり、停止した。セイラが少し遅れて追い付いた。
「ほたる、速いよーペース考えて」
セイラに肩を掴まれて叱られてしまった。
「ごめん、ごめん」と舌を出して反省した。セイラに改造してもらったマウンテンバイクが余りにも軽く、ペダルも踏みやすくなっていたので、ついついスピードを上げてしまった。
そこに一台の、スポーツカーが止まりウィンドウを開き、サングラスを掛けた女性が姿を見せる。ウェーブのかかった金色の髪が太陽の光を浴び、胸元にまで掛かる髪を一掃輝かしていた。私達に発した、唇は瑞々しく潤い、すごくエロく感じた。
「おはよう」
私達は、慌てて
「「おはようございます」」と、返した。
「こんな遠くから通ってるんだ、すごいな」
「はい、片道25km近くあります」
「25kmもケッタマシーンで走るんだ」
彼女は、驚いた声で感心し頷いた。
私達にとっては、25km位大したこと無いのだが他人からしてみたらすごいと、感じるのか。
「入学式、遅れないように頑張ってね」
そういうと、丁度青信号に変わり、女性は手を振って、爆音と共に走り去った。
「あれって、フェラーリだよね?」
「よくわからないけど、多分そうだと思う。痛車仕様だったけど」
自転車を並走させながら、話は続く。
「それより、あの人綺麗だったね」
「うん、でもセイラの方が上だった」
「あら、ありがとう」
これは、お世辞でも何でもなく、本当に可愛いのだ。中学生の時アンケートで100%の男子が好きな女子に清良を選んだ伝説もある。それに比べて私ときたら背も低く、胸もなく、色黒で能天気。
私に清良の良いとこを1つでもあればなぁと思う。
「あの人、私達のこと知ってるような感じだったね」
「そお?」
清良は、小首を傾げるが私にはあの女性が言った入学式に遅れないでの言葉で何となく学校の関係者だと思った。
「多分、制服を見て青春女子学園だとわかったんだと思う。多分あの人は、学校の関係者だと思うな」
「ほへ、蛍がそう思うなら間違いないかもね」
私達は、一列になり頭を屈めて平坦な道を一気に駆け抜ける。清良が離れず着いてきてるか脇の下から覗き後ろを確認し、今回は大丈夫だと安堵した。
次の上り坂は、根尾川の橋の緩やかな上り坂。私は、ギアを一枚落とし登り切り、下りで一気にスピードを上げてギアを二枚上げた。もう少し行ったら学校だ、樽見鉄道の踏み切りを越えて、同じ制服の女子がちらほらと見えるようになりもうすぐゴールだと解った。学校の門を潜り抜けて、ゴール。ハァ、ハァと息を切らす清良に一喝された。
「ペース配分考えてよ」とまた叱られてしまった。
私達は、門の左手にある駐輪場に自転車を置き、かごからカバンを取りだした。
下駄箱の手前には、人だかりができていて名前とクラスの書いたボードが建て掛けられていた。私達は何クラスか調べ、私と清良は、一年二組で同じクラスになった。
「同じクラスで、良かったね」
清良は、こちらを見てうんうんと頷き、私も良かったと安堵した。もしクラスが違って友達も作れず孤立してたらと思うと恐ろしく思えた。
教室に行くと、もうスマホでメールやラインの交換が始まっていた。教室に女子だけっていうのは、恐ろしく感じた。入学そうそうハブられるのは、嫌なので清良と一緒にその輪の中に入って同じように、みんなと、交換をした。
校内放送で、廊下に並び体育館に向かうように指示を受け、廊下に並び向かった。体育館に入り順序良くパイプ椅子に座り、入学式が始まる。長々と何処かで聞いたような、言葉を理事長が話し続け、入学式は終った。
教室に戻り、席について待っていた。
ガラッと扉が開き、担任の先生が入って来た。教室中に、甘い香水の臭いが漂う。
顔を見た瞬間、声を発しそうになったが寸前の所でこらえた。
朝、車に乗って話しかけて来た人だ。
私は、清良の方を見て、清良も気づいた様だ。サングラスをとった容姿は、童顔で可愛らしく何歳なのか迷うほど、高校生にも見えるが、二十歳位にも見える。他の生徒は、可愛いなどいくつ?などと声に出していた。
「今日から、三年間このクラスを受け持つことになりました、内田マリアでーす。よろぴくね♪」
ペコちゃんの様に舌を出し、頬に人差し指を当ててポーズをとる。
教室は、シーンと静まり返り、何処からともなく、昭和の臭いが立ち込める。
朝あった人とは、まるで別人の用に感じた。サングラスを取るだけで大人から私達と同じ女子高生に見える。
内田先生は、この重苦しい空気を察し
「やってまったかなぁ、テヘペロ」と舌を出した。
クラスメイトが失笑する中、内田先生は、さっきの自己紹介が無かったかのように振舞い、坦々と進めていった。
「何か質問ある人は?」
少し間が空きある勇敢な生徒が、内田先生に気になる質問をした。
「内田先生は、いくつですか?」
内田先生は、可愛くモジモジしながら答えた。
「見た目通りの年齢よ」
生徒側からは、えーなどブーイングが起きたが内田先生は、可愛くポーズを取るだけだった。知られたくないのか、うまい返しかただと私は、頷くしかなかった。
「他に質問は?」
「内田先生の車フェラーリですか?それと、何で痛車何ですか?」
「そう、フェラよ」
なんで、フェラで切るのか…。
「痛車仕様は、男受けが良いからそうしてるだけよん」
そんなことしなくても、フェラーリなら
普通に男受けが良いと思う。逆に痛車だと、一部の趣味の方にしか受けない気がする。
「入部希望用紙渡すから三日以内に提出してね」
内田先生は、器用に希望用紙を列の人数分を最前列に配っていった。
後ろの席まで希望用紙が行き届くと内田先生は、真面目な顔で話し出した。
「勉学に、励むのも良いけど部活に入って、青春を謳歌するのもお勧めするわ、一度しかない青春時代だからね、よく考えて決めなさい」
内田マリア先生は、何処となく悲しげな感じだった。
今日は、これで学校は、終わりとなった。
内田先生は、ユーモアもあり、美しく、
恥ずかしい一面もあったが、三年間が、楽しくなりそうだ。