母の記憶 1
今回マイド達の出番少ないですがご了承ください。あと、そろそろ大きなまとまりとして題名をつけたいなと思っています(独り言のように聞き流してくれてかまいません)
ミルタクの即答。いつものことだ。ただ、今回の言葉はマイドの心に刺さったらしい。「理解不能」この言葉はマイドが一番嫌いな言葉。だがそれは前までの話。今のマイドはミルタクとの生活において精神面がかなり強化されている。だから折れない。
「昔俺の母が言っていたんだ。異世界の学校に通っていたと」
沈黙が走る。ミルタクは何かを考えているように見える。ただ次にミルタクの発する言葉をマイドは予知することが出来た。それは...
「結論。根拠がない。非現実的すぎる。質問。何か根拠があると?そもそも、その異世界というところにどうやって行く?」
やはり、と内心マイドは笑っている。確かにミルタクの意見が間違っているわけではない。実際のところこの話を聞いた時マイドも同じことを言ったのだから。それをマイドの母親は簡単にやってのけた。ここで少し昔の話を出すとしましょう。
~数十年前~
マイドの母エリーは幼いころ研究の為と言い山にこもることを決意した。もちろん、両親に反対された。いくら説得されても折れないエリーに対し両親が折れた。エリーは条件付きで了承をもらった。その条件がこれだ。
①こもるのは我が家が所持・管理している山のうちの一つにすること。
②必ず同行者を5人連れていくこと。
③こもるのは1ヶ月未満にすること。
④絶対に山から出ないこと。
⑤以上を破った場合罰則をうけること。
エリーはこの条件を飲み山へと向かった。同行者はエリーと仲が良い最年少メイドのマリア、何だかんだ言っても面倒見のいい執事のマルセル、家事などが得意でみんなからの信頼が高いエリーの家庭教師のシーパー、主に対する忠誠心は人一倍強い騎士のファン、館内で一番腕のいい魔術師のジェムの5人だ。エリーとその一行は所有している山の中で最も動植物の数と種類の多い山へ向かった。植物の成分や動物の一部は魔術をとりおこなう上ではかなり必要性が高い。
山に着くと5人には役割が振り分けられた。身の回りの世話などが得意なマリア、マルセル、シーパーは山小屋に残り家事などを。騎士という事もあり狩りなどが得意なファンと、普段から植物を取り扱い魔術の実験をしているため植物などに詳しいジェムは、材料兼食料の調達を。皆自分に合った役割を果たしている。これも全てエリーの指示だ。
エリーは3歳の頃魔術学院で習う中でも最も難易度の高い魔術を発動させた。魔術学院の教諭達も最初は信じていなかったが、それに激怒したエリーが賢者ですら再現不可能、使用禁止といわれる書物の中でのみ存在する古代魔法を暗号や未解明の言語含め分単位で解析し発動させたという。そのことが原因なのかは分からないが....いや確実にそれが原因で各国の魔術学院からの特別入学招待状や館(主にエリーの部屋)への侵入者がたくさん押し寄せることとなった。エリーはそれだけでは止まらず新たにいまだ世界で誰も成し遂げられなっかた転移魔法を4歳で実現させた。エリーは転移魔法を駆使し招待状の届いた学院を一つずつ回っていった。そして、どの学院も入学してから三日で卒業という偉業を行った。その後今の年齢(8歳)に至るまでの4年間は館内での魔術研究及び開発をおこなっていた。エリーの研究成果や開発された新魔術はどの国でも話題となったという。
そして今。エリーの研究している魔術は転移魔術の超強化版である魔術。『時空間転移魔法』と『異空間物体召喚魔法』の2つだ。時空間転移魔法は魔法陣の中に入っている人物や物を違う世界、即ち異世界に飛ばすという事だ。異空間物体召喚魔法はこの逆で異世界の指定の場所にいる人物や物をこちら側の世界に召喚するというものだ。エリーは今、時空間転移魔法の構造を考え魔法陣を作成中だ。
山に入ってから1週間半。時空間転移魔法の魔法陣の構図が完成した。完成したのは昼間だったので全員で魔法陣の発動実験へと移った。その夜、かけることなく満ちた月の明かりに照らされながら最期の発動実験を行った。実験は見事成功し、エリーと同行者5人は異世界へと飛ばされた。
「実験、成功....。確認に移る。マリア、マルセル、シーパー、ファン、ジェムここは異世界であっている?」
「はい、マリアはそう思います」
「私もそのようだと推測いたします」
「こんな植物本でも読んだことがありません」
「お嬢様、警戒を怠りませんよう。何があるか分かりませぬので」
「元々、我らが住んでいた世界とは魔力の質が違う。また周囲にある植物は我も見たことがない。半径100㎞以内にある人類と思われる者の生命反応も我らとは別物の様子」
異世界に対する意見をエリーに続き皆言っていく。周りにある植物について観察する者。皆に警戒を呼掛ける者。冷静に辺りの生命反応を探るもの。不思議な感覚はするものの興味がないわけではないようだ。
その時近くで物音が聞こえた。エリーらは瞬時にその場から少し離れ物陰に隠れる。皆音の聞こえた方を向いている。音の正体を探っているようだ。....しばらく経った、が反応がない。音の正体もこちらの様子をうかがっているのだろうか。しばらくして音が止んだ....途端草陰から人が飛び出してきた。
「あれ?おかしいな。人の声が聞こえたんだけどな....聞いたことない言葉だったけど」
異世界の人間の男の子だ。年齢はエリーと同じか少し上くらいだ。彼はエリーたちの会話が少しだけ聞こえたらしい。ただ、異世界という事もあり言葉は通じないようだ。ジェムが何やらボソボソと呟き始める。何をしているのだろうか。地面に淡い光が浮かびあがる。魔法の発動をしているようだ。魔法陣の色、大きさ、形状などを見る限り時間操作魔法のようだ。大きさは今いる山一つ分の効果だろう。
「《我、魔導士ジェム。我が名の元に魔法陣内に存在せし耐性無き者の時を止めんことを我が魔力を捧げして精霊たちに申請いたす》」
魔法陣が一気に広がり山を包むと淡く光っていた光は強くなりやがて消えた。エリーたちの正面に立っていた少年の動きは止まっているが、エリーたちの動きは止まっていない。この魔法に対しての耐性があるのだろう。
「エリー様今のうちに、言語解析魔法を使用ください。我らのことはお気にせずに」
ジェムがそう言うとエリーは魔法を展開した。自分の分だけでなく他の5人の分まで自分の魔力を使用し展開している。言語解析魔法はただでさえ魔力の消費が激しい。そんな物を6人分も展開させれば魔力の過剰使用で倒れる可能性がある。...しかし、エリーはそんなこと気にしていない。なぜなら過去に賢者ですら過剰使用を恐れ使用禁止にした物を今よりも幼いころに発動させている。故に恐れない。
ジェムの発動させていた魔法の効果が切れる。目の前の少年も動きだした。
「こんにちは。私の名はエリーと言います。貴方の名を教えてくれませんか?」
エリーはあまりにも突然に現れ、あまりにも唐突に微笑みながら少年の名を聞いた。マリア達は驚いていた。それもそのはず。初めて会った人に....異世界人に自分の名を名乗り、相手の名を尋ねる。前代未聞だ。だがエリーには分かっていた。
「エリーっていうのか?俺は、秀仁だ、よろしくな」
この少年は悪い人ではない。少年の目が....エリーの心がそう言っているからだ。
今回の話からしばらくは、マイドのお母さんを中心とした話になります。これは、私が過去の話というのを書いてみたかったという好奇心的なあれです。