メイド少女
前回までの話よりも長くなっているはずです。
相変わらずネーミングセンスがありません、堪忍してください。
マイドは、一刻も早くこの少女に服を着てもらいたかった。服のポケットから通魔石を取り出しこう告げる。
「メイド達に告ぐ。今すぐに身長140cmの女の子用の服を用意しろ。実験は、成功だ。以上」
その通達が終わったとほとんど同時に館が騒がしくなった。おそらく、マイドからの指示が入ったからだろう。自室をあさる者、高速的に作っていく者と様々だ。そして、10分後一人のメイドが服を持ってきた。館の中でも一番年下のメイド、リンネだ。
「あの....わたしの、なんかで..よけ、れば..あり、ます...」
リンネはたまに人見知りもするし、コミュニケーション能力も低いが仕事は丁寧かつ迅速にこなしている。誰の目から見てもかなり評価の高い人材だ。
「えーと、名前は...後でいいか。とにかく今はこの服を着ろ」
「現人類言語解析完了。質問。服とは?また、その服という布をまとう意味を問う」
少女は、永きに渡り封印されていたと考えられる。その間に、人間の扱う言葉は変わる。それを、この短時間で解析した。言語の解析は口の動きを読み自分の頃と照らし合わせたのだろう。そうまるで、天才だ。
「服っていうのは、肌を隠すものだ。そしてそれをまとう意味は今の時代肌を露出して歩いてる人はいない。だから服を着るんだ、分かったか?」
「現人類理解不能。否定。服着たくない」
少女は意地でも服を着たくないようだ。言葉、顔ともに全力で拒否している。顔も全力で拒否....無表情だ。少女は感情を顔に出していない。
「もういい、ただ館の外に出るときくらいは服きろよ」
「了解」
マイドと少女は中庭から西館へと移動する。その途中で何人かのメイドに出会ったがその都度リンネが説明をするので特に何も問題は無い。西館はそれ程広くなくマイド一人が生活するには丁度いい広さだ。西館に入る。西館は主人の居住エリアということもありメイドの数が少ない。メイド曰く「御主人様の居住エリアにメイド風情がズカズカと入れるものではない」と言う事らしく、入れるのはみんなからの信頼性が高く仕事を完璧にこなせる者らしい。無論リンネもその一人だ。
主に使用されている部屋に着く。
「俺とこの娘はしばらく話をする。誰も入るなよ」
「....では、お茶と..お菓子、もって..きま、す...」
丁寧にお辞儀をして一度部屋を立ち去りその後すぐにお茶などを持ってきた彼女のすごさは言わずとも分かるだろう。リンネが出て行ったあと部屋には沈黙が走った。二人とも相手の様子を見ているようだ。どちらが先に話を始めるのかという空気が流れている。
「申請。この館の地図。部屋などの配置を覚える」
先に沈黙を破ったのは少女の方だ。マイドは返事を返さず無言で地図を数枚持ってきた。1枚目館付近のことも記している地図。2枚目館の全体だけを記している地図。3枚目中央館の内部を記している地図。4枚目北館の内部を記している地図。5枚目南館の内部を記している地図。6枚目東館の内部を記している地図。7枚目西館の内部を記している地図。少女は地図をじっと見つめる。数分後少女が地図から目線を外し前を向いた。
「通達。地形、館面積、構造共に認識完了。...確認。マイド・リースフォルンを中心とする団体、固有識別番号30956613、加入。マイド・リースフォルンを主と認める」
やはり機械的な話し方である。しかし、今回のセリフの中には今まで以上に不思議な言葉が入っていた。マイドの本名、なぜ知っている?固有識別番号、機械などにしか付いていないはずのそれが何故付いている?マイドの脳内では様々な情報の嵐が巻き起こっていた。そして、マイドは気づく。最後の「マイド・リースフォルンを主と認める」この一言。理解不能だ。
「質問。主様の情報処理能力低下、思考速度上昇を確認。混乱している?」
少女には全て見透かされている心の奥底まで...。マイドはそんな風に思った。少女には質問すべき点....つまり、謎な部分が多々ある。そのうち一つ一つがとても人間に質問する内容ではないがこの少女には質問しても大丈夫。そんな気がしている。しかし、口を開こうとすると目の前の少女が話始める。
「回答。私の名前、憶えていない。分かるのは固有識別番号。私の存在、謎。私の種族、謎。私の年齢、封印時含め83583歳。封印の理由、謎。謝罪。自分でもわからない事ばかり主様の役にたてていない」
マイドの聞きたかったことを質問されるよりも前に答える。本当に何なんだと不思議を通り越して呆れてしまったと心の中で思う。ここまでになるともうこの少女が普通の人間でないことが分かってくる。この少女固有識別番号30956613は謎だらけの存在。だからこそ解き明かしたいと思う好奇心が強くなる。
「やはり、固有識別番号30956613は呼びづらい。なので名前を付けよう。お前の名前は.....「ミルタク・リースタロット」だ。いいな?」
「了解」
ミルタクは相変わらずの無表情だがほんの少しだけ嬉しそうに笑ったようにもみえた。
ミルタクは館内でメイドの仕事を始めた。マイドは止めたが何かしていないと落ち着かないというので仕事を少しだけ任せることにした。今は洗濯と炊事が出来るようになり、今は掃除を教わっている。ミルタクは物覚えが良い。一度失敗したら同じ失敗は二度としない。それどころか、その先の事も考え洗濯などはより一層効率的にするため新しい方法まで生み出した。一週間も経つ頃には館内の仕事を完璧に覚えメイド達からとても気に入られていた。マイドはいつもミルタクについて歩きその様子を記録した。研究の為以外の理由はない。
ミルタクが水晶の封印から出てきて3ヶ月が経つ。メイドの仕事は完璧にこなしている。しかし、マイドの心には不満に近い感覚がある。それはミルタクの感情についてだ。もう3ヶ月も経つのに感情が芽生えた気配がない。そこでマイドは思い出した。昔、母が通っていたという別の世界『異世界』の学校に。その世界へと行き来するための魔法陣と詠唱なら教えてもらっている。あとは、ミルタクに相談するだけだ。
「ミルタク、異世界の学校にいってみないか?」
「結論。理解不能」
異世界の学校、まあ元々マイドたちの世界が私たちからする異世界なのでマイドの言う異世界は今私たちの住んでいるこの世界の事ですね。