本の歴史
魔術の導 第78巻第172章8節 封印の水晶
また、同じだ。何度この光景を見ただろうか。私は何度やっても失敗し、皆を失ってしまう。もう、こんなことはやめたい、こんなのはもう嫌だ。誰か私をこの世界から消してくれ。
暗闇の中の彼女はそんなことしか考えてい、それしか考えることが出来なかった。何度繰り返されても、彼女の「皆を助けたい」という願いは叶わない。どんなに抗っても、助けることは出来ない。もう、何度失ったかなど彼女すら知りえない。そしてまた、出会っては全て失う。彼女の心はもう、切れかけの紐のようだ。切れかけの紐は、もう自分では直せない。誰かが、もう一度その紐を結び直さないと。今までよりも、強く頑丈に。けれども、今の彼女には心の紐を結び直してくれる人はいない。正確には、たった今その人を失ってしまった。彼女は途方にくれた。色々な国を渡り歩いた。
やがて、ある国についた。彼女はこの国を目指して歩いていたのかもしれない。この国は、チャナールヒィードといい人口の九割が魔術師やエルフの国だ。いうなれば魔術が使えるものとその家族しか住めないというような国。彼女がここへ来たのは、おそらくこの国の者ならば自分を殺せると思ったのだろう。しかし、その小さな希望はある魔術師の一言で消え去った。
「この国の者全員の力を使っても、貴女様を殺すことなどできぬでしょう。」
ついに彼女の心の紐は切れた。そう思った。
「ですが、貴女様を封印することなら可能かもしれませぬ。」
彼女は悩むこともなく、そうしてくれと答えた。またこんな願いもした。
「まず、私の力と記憶を封印しそのうえで私の体を封印してくれ。そうすればもし封印が解かれても、私の力と記憶は封印されたままだ。」
魔術師も快くその願いを受け入れた。彼女の封印は国の者が全員参加した。国の者の協力のおかげで彼女は無事封印された。彼女は、特別な水晶の中で永い眠りについた。
その後その水晶はある貴族の家に預けられたという。
魔術の導には、魔術が誕生してからのことが記されている。そして、魔術師ならば誰もが一度は読んでいるものだ。
「やはり、何度読んでもん謎がうまれるばかりだ。」
彼は、マイドといい森の中の館に父と、数人の使用人と住んでいる。父は、世界中で顔の利く腕のいい魔術師。母は、とても熱心で賢く、優しく、勇敢なことで知られる考古学者。というのも、七年ほど前までの話。母が、仕事で古代遺跡に行った際、謎の遺跡崩壊で逃げ遅れ死んでしまった。それから館の中の雰囲気はガラッと変わってしまった。それまで、とても生き生きしていた父は生きる意味を失ってしまったようになり、使用人たちは次々にいなくなっていき、館に残った者もいるが仕事で失敗ばかりになっていた。皆がみんな、抜け殻のようだ。とても暗い空気になっていた館。マイドは、皆を元気にしようといろいろなことをした。使用人たちの仕事の手伝いをしたり仕事のに後マッサージをしたり、父と外に出かけ一緒に遊んだり。他にも、魔術の勉強をしてそれを手品のようにして披露したり。そうしていくうちに、館の暗い空気も少しずつ晴れていった。今では、使用人たちは今までとさほども変わらない仕事にも、新しい仕事にも一生懸命取り組み、笑顔を絶やさずにいた。父は、長い間休んでいた仕事も再開し研究のためなどと言い、世界中を飛び回るようになった。
マイドは、立派な大人になり魔術を駆使して古代遺跡の謎を解明したりしている。言わば、魔術師でもあり、考古学者でもある。と、いうような感じだ。最近では、魔術の導に自分の求める答えがあるのではないかと思い、何度も読み返している。でも、見つからない。違う方法を考え今の方法を止めよう。そう思ったとき、仕事で使用している通信用魔道鉱石、通称「通魔鉱石」。最近では、一般人でも魔道具を使えるようになった。通魔鉱石もその一つだ。もともと鉱石の中にある魔力を使い使い果たしたら自分の魔力を注ぐ。こんな便利なものを開発したのは、他でもない。マイドの父だ。
マイドは父の事をとても誇らしく思っている。だが、そんな事とは裏腹に少しだけ、嫌悪感も抱いている。マイドの父親は研究の仕方が少々手荒だ。マイドはその事が気になっているらしい。
そして...時は満ちた。
「流石は、期待の新人マイドさんです。古代文字を容易く解読し、古代人が使っていたとされる道具まで見つけるなんて。」
その時は誰も、気がつかなかった。この時発見された古代具が、全ての始まりで終わりだということは。