prologue
プロローグ
あなたに初めて出逢ったのはちょうどこんな夕暮れ時でしたね。
あなたは高台から夕焼けに染まる街をそっと眺めて。
わたしはそんなあなたをうしろから見ていました。
嫌なことがあったとき、あの高台から街を眺めると自分が小さく思えて、また頑張ろうと思えるから。
あの日も学校で嫌なことがあったから、あの高台から見える街を見て勇気をもらいに行きました。
高台へ続く階段を登り、その階段を登りきったとき、知らない背中が見えたんです。
普段から人がいないわけではなく、ちらほらと人はいます。
あの高台の下には公園があって子どもやその親、散歩をするご老人、仕事帰りの大人がいますから高台へ登る人もいるでしょう。
でも、どうしてかわたしが高台に登るときは決まって人はいませんでした。
それが偶然だとはわかっているけれど、これまで誰1人として高台にいたことがなかったから、わたしは自分だけの秘密の場所とでもいいましょうか、所有欲のようなものを抱いていたんです。
あの高台に。
そんなときわたしの高台にわたし以外の、知らない背中が見えたものですから苛立ちのようなものを感じました。
わたしの高台に勝手に登って何をしているのと。
身勝手な怒りだとわかってはいますが、誰にも話したことのない、自分だけの場所としてこれまで思って過ごしてきたわけですから、文句を言ってやろうと残りの階段を駆け上がりました。
わたしの立てた大きな足音が聞こえたでしょうにあなたはこちらを見向きもせず、ずっと夕焼けの赤に染まる街を眺めていました。
その後ろ姿にわたしは自分を重ねていました。
もしかしたら、わたしと一緒で嫌なことがあったからここに癒されに来たのではないかと。
そう思えば文句を言おうだなどと気持ちも消え、あなたに話しかけようかどうしようかとといった気持ちが湧いてきました。
結局わたしは話しかけられず、またあなたもわたしに話しかけることなく、日が落ちるまで2人何を話すこともなく高台にたっているだけ。
ただ帰るときすれ違いざまにわたしに会釈をして去って行きました。
いまにして思えば、あのときわたしがあなたに話しかければきっとあの日の事件は起きなかったでしょう。
何せ時間にしてわたしとあなたがすれ違って10分もしないうちに事は起きたのですから。
その事件を境にわたしの生活も変わっていったのですから、尚のこと話しかければよかったのかなと思います。
けれど考えてみると事件後に関わるのと前に関わるのと違いがさほどないことにも気がつくのです。
なぜなら、あの夕暮れの街を2人で見たとき、わたしは。
きっと、あなたとの出逢いは運命なのだろうと。
感じたのですから。