恐怖感
「ん~いまいちだな。次、行こうか!!」
携帯をいじりながら、菊山は面白くなさそうに話しました。
しばしの沈黙の後に
「近くの大和泉海岸で良くね?」
ここでも千葉がボソッとつぶやく。
大和泉海岸は松林が海岸沿いに広がっており、砂浜に繋がる200㍍位の一本道以外は薄暗く気味が悪い所です。
噂によると、その松林の中にはロープが垂れ下がった木が多数あるとの事で、地元のヤンキーは自分の根性を見せるために、垂れ下がったロープを切り取ってくるという馬鹿げた事をしているらしいのです。
「じゃー行きますか!!」
私は、面白くなさそうにしている菊山を気にしながらも
「ドゥンドゥンドゥンドドドゥンドゥンドゥン」
オーディオの低音を響かせ、俺らはカッコいいんだ!!と意気揚々と車を走らせました。
10分弱で大和泉海岸に到着し駐車場へ入ると、数本の街灯の明かりがあるだけで松林の方は漆黒の闇でした。
その松林を200㍍も歩いて砂浜に出るのか?そう考えるだけで寒気がしました。
「うわぁ~ヤベーな。これ、ダメパターンじゃね………帰るかぁ」
菊山が急に弱音をはきました。
「はぁ?なんで?」
私がキレ気味で話すと
「じゃ~郁!一人で砂浜に行ってこいよ。俺ら車で待ってるから」
菊山のヘタレ宣言と無茶ブリのダブルパンチ
「バカじゃねぇの?俺一人かい!?」
私の発言に三人は、冷たい目線と沈黙。
「行けばイイんだべ!!あー言ってやるさ!!!そのかわり車の鍵は俺が持っていくからな!」
私は車の鍵を抜き、「バンッ!!」ドアを勢い良く閉めると足早に松林へ向かって行きました。
「クッソクッソクッソクッソクッソクッソ!!」
怒りだけが私の足を動かします。
「後から仕返ししねぇーとダメだ!菊山家の玄関前に糞してやる!!」
そんな事ばかり考えて歩いていると、あっという間に松林の前まできました。
「なんだよ。全然余裕じゃね~の?」
私は調子に乗っていました。
しかし松林に足を踏み入れた瞬間、私は経験したことのない恐怖感と寒気が襲ってきました。
その寒気は心臓が苦しくなる。
まるで心臓を握り潰されるような感覚で
「んっ!?うっ?おぉえっっ!!」
突然の吐き気とゾワっと音が聞こえそうな位の鳥肌が立つ。
「これはダメパターンだ。きっとこれ以上は進めない。無理だ。」
私は、よろめきながらも何とか車へ戻って行きました。
その姿を車で見ていた3人は、戻ってきた私に
「素晴らしい演技だな!!AV男優になれるぞ!!!」
最初は笑いながら話をしていましたが、私の表情と顔色・何よりも治まらない鳥肌を見て普通じゃない事に気付きました。