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「そろそろいいと思うのよね」
とあるクエストを終えて、報酬を受け取ってから、冒険者ギルドの食堂で夕食をとっていた雄也たち。その席で、リセラが何かを決意したように、仲間たちを見渡しながら口を開いた。
「何がですか? リセラちゃん」
「次のステップよ。あたしたち、装備も新調したし、クエストもここのところ順調にこなせてるわ。だからこのあたりで、一つ大きなクエストを受けてみても良いと思うの!」
どうかしら、と希望に満ちた目で雄也とアイリスを見るリセラ。
「クエストといっても、迷子のペット探しとか、街中の掃除とか、そういうのばかりだったと思うけどな」
と、肉料理をナイフとフォークで切り分けながら雄也が言う。雄也にしてみれば、またリセラの張り切り癖が始まった、という程度の認識のようであった。
「それでもクエストはクエスト、実績は実績なのよ! なんの実績もなかった前と、今のあたしたちでは、卵とヒヨコぐらいの違いはあるはずだわ」
「あー、自分をヒヨコだっていう自覚はあったみたいですね」
「と・も・か・く! あたしはもっと凄いことをしたいの! 冒険といえばモンスター退治やダンジョンの探検でしょう? そういった事をしたいのよ!」
テーブルをドンと叩きながら、そんなことを言うリセラであるが、要するに――――雑用は飽きた。もっと派手な事がしたい。
ということらしい。
「まあ、向上心があると考えれば、悪いことじゃないけどな。けど、クエストは無理だろ。ついさっきも、紅玉さんに聞いたら討伐クエストも、ダンジョン攻略もまだまだレベルが足りないって言われたばかりじゃないか」
「う……」
雄也の言葉に、リセラは口ごもる。それに追随するように、アイリスも柔らかな口調で友人をいさめた。
「そうですよ、リセラちゃん。今のレベルで高難易度のクエストに参加したら、モンスターにヤられるか、ダンジョンのトラップにヤられるかのどっちかしか、想像がつきませんからね。あ、高レベルの冒険者にイタズラされるって未来もありそうですか」
柔らかな口調だが、言っていることは結構ひどいアイリス。とはいえ、そう的外れという予想でもない為、リセラは反論できずに顔をしかめた。
そんな彼女の様子を見ていた雄也だが、ナイフとフォークを一度置いて、ポツリとリセラに言葉を投げかけた。
「――――そんなにいうなら、やってみるか? モンスター狩り」
「……へ?」
「雄也さん?」
「もちろん、依頼が出るような強いモンスターとかじゃないぞ。街の外の草原にいる比較的弱そうな奴を相手にして、腕を磨いたらどうかって事だな」
まあ、そのあたりなら大怪我をする事もないだろうし。という雄也の言葉に、リセラは顔を輝かせ、アイリスは難しそうな表情をする。
「それ、それよ! 草原のモンスターを倒してレベルアップするのよ! 冒険者っぽくて良いじゃない!」
「……私としては、リセラちゃんが怪我をするのは嫌なのですがね。何でこんな提案したんですか、雄也さん」
喜ぶリセラとは対照的に、雄也に不満げな視線を向けるアイリス。そんなアイリスに、雄也は苦笑して頬に手を当てた。
「とはいってもな、この様子だと、遅かれ早かれ、モンスター退治を強行しそうだったからな。だったら、手ごろな条件を提示した方がましだろ」
「………それは、そうなんですが」
「まあ、リセラが怪我しないように、注意するさ。そのためのパーティなんだし」
「そうしてくださいね。ついでに、私も守ってくれると、ありがたいのですが」
などと言うが、言葉の内容とは裏腹に『自分の身は自分で守りますけどねー』、と表情に出して言うアイリス。そんな彼女の様子に雄也は苦笑を浮かべて、分かった、努力するよ、と返事をしたのであった。
「よーし、明日は張り切っちゃうぞー!」
いよいよ、待ちに待ったモンスター退治ということもあり、その後は終始、ニコニコとしていたリセラであった。




