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zip.6

シスターの少女、アイリスが押しかけるように加入し、三人パーティとなってから数日後。雄也たちはギルドから請け負った次の任務、『バザーの用心棒(出店可)』をこなそうと、街中のバザー開催地に向かった。

今回行われるバザーは、その売り上げを国営の孤児院などの維持費などに当てることになっている。また、出店料を払えば、当日飛び込みで店を開くことも出来る。その出店料も、バザーの売り上げに入っていた。

さて、臨時に開かれるバザーには小規模な祭りのような活気があり、その空気にあてられて、問題を起こすものがいないように、場サーの開催者側としては、冒険者を何名か、トラブル処理ということで雇うのが常であった。

それで、雄也たち三名が名乗りを上げて、用心棒としてバザーの見回りをする………はずだったのだが。

「うー……ああ、もう、納得いかなぁいっ!」

バザーの片隅、飛び込みの出店スペースの一角で、そんな声をあげたのはリセラである。

「そんなに、声を荒げるなよ、リセラ。今回は仕方がないだろう」

「仕方ないって、それで済ましていいものじゃないわよ。仕事の横取りは、信用問題に関わることなのよ!」

「といってもなぁ……開催者側の提示した案に乗っかったのはリセラだろ」

雄也とリセラ、アイリスの3人がバザーの管理者のところに挨拶を行っていると、横から冒険者の3人組が、その仕事を自分たちに任せろと割り込んできたのである。

曰く、そんな貧弱そうな面子より自分たちの方が腕が立つ、という言い分に、開催者の男性は考えると、

「じゃあ、お互いのレベルの高いほうが仕事を請けるってのはどうでしょうか」

「ふっ、その勝負、受けたわ」

などと、自信満々に応じたリセラ。割り込みをかけてきた男達は、全員がレベル4だといい、雄也がレベル6だというと、気まずそうな顔をした。

「ふっ、私がレベル3だけど、アイリスは私よりは強いし、高レベルなのは間違いないわ!」

などと、自信満々にいったリセラであるが、いま現在、バザーの片隅でふてくされていることで、結果はお察しの通りである。

「というか、なんでレベル2なのよ、この暴力系シスターは」

「暴力系とはひどい言い草ですね、教会の仕事の傍らで、冒険者のクエストをこなしてるんですから、実力とレベルが違うなんて事もあるんですよ。というか、レベル3でシスターに腕力で叶わないなんて、さすが盗賊()ですね」

喧々諤々と言い合うリセラとアイリス。まあ、傍から見れば、仲の良い二人がじゃれあっているだけであるが。

「ほらほら、いまさら何言っても今回の仕事は請けれなかったんだし、これも良い授業料だと思って、建設的なことをしようぜ? せっかくのバザーだし、少しは金になれば良いんだが」

そういうと、雄也は眼前に視線を落とす。護衛の仕事は出来なくなったが、代わりに、出店スペースの空いているところを格安で譲ってもらい、簡易的な店を出していたところである。

他の出店者が、地面にゴザなり何なりを敷いて、そこに商品を並べているのに対し、雄也は圧縮しておいた大きな机を出し、その上に、皿やスプーン、フォークなどの食器類を並べた。ちなみに、それらは路傍の石などを、『食器の形に圧縮』して出来たものである。

「それにしても、雄也さんのこのスキルはすごいですね。この机が出てきた時なんて、私の目がおかしくなったかと思いましたよ?」

そういって、バンバンと机を両手で叩くアイリス。

「せっかく奇麗に食器を並べたんだから、揺らさないでくれよ」

「おっとこれは失礼。それはそうと、どらぁえもん、わたし、修道服の上につける防具が欲しいので、作って欲しいのですが」

「だれが、どらえもんだ! ……というか、アイリス、ドラえもんを知ってるのか?」

「はい。万能の青い魔神のことですよね。冒険の神クヨン様の聖典に、たびたび出てきますよ? あと、神託で夢の中に、その姿をみたこともあります。他にも、がんだむぅとかせぇらあむぅんなども有名ですね」

この世界の神様は、いったいどうなっているんだ。アニメオタクなのか冒険の神は、などと雄也は悩むが、この場で答えが出ることもなかった。


それはさておき、出店物の食器類は、そこそこの割合で買い手がついていった。もともとが路傍の石や木片の為、元手はゼロである。値段をかなり安めにしたのも売れ行きの一因であるといえた。最初はふてくされていたリセラも、商品が売れていくにつれて、元気を取り戻していった。

「ありがとっございましたー! またよろしくお願いしまーす!」

元気に接客しているリセラの隣で、机の陰に隠れるようにしゃがんだ雄也は、木箱の中に手を入れる。その木箱には、大小さまざまな石があり、売れた分の商品を圧縮で作っていたのである。

「zip」

「ほうほうなるほど、こうやって作っているのですか」

雄也の手の中で、石が食器に変わるのを、アイリスが興味深そうに見つめる。

あまりじろじろ見られると、やりにくくはあるが、雄也は特に文句を言うこともなく、圧縮作業を続けた。

「ほら、売れた分の補充が出来たぞ。といっても、そろそろ疲れたし、このくらいで商品を出すのは止めても良いかと思うけど」

「えー、まだまだ売れるんじゃないの? 楽しくなってきた頃だし」

「いや、何事も程々が一番だよ。荒稼ぎをしようとすると、目を付けられてろくなことにならないからな」

雄也の言葉に、何か重みのある空気を感じたのか、リセラは首をかしげる。

「そういうものなの?」

「ああ。特に俺のスキルは、かなり特殊だからな。以前、実入りが良いからって、そこらの素材で武器を作って売りまくったら、商人たちの組合に大目玉食らったよ。それで、作った商品は没収されて、罰金も取られた。出るくいは打たれるから、そこそこにしておけって、それで学んだよ」

その言葉を聞きながら、リセラはそれとなく、周囲の様子を観察する。頻繁に売れている雄也たちの商品とちがい、出店した者達のなかには、まったく売れていない店もそこかしこにあった。

そういった者達の中には、やっかみ半分の視線をこちらに向けている者達もいる。

「なるほど、確かに嫌なかんじもしますね。今のところはたいした事もないですが」

「アイリスもそう感じるのね………まあ、バザーの見回りよりは充分に稼げてるし、もうしばらくしたら店じまいしましょうか?」

「ああ」

「そうですね」

リセラの言葉に、雄也とアイリスも同意する。リセラは気を取り直すように、二人に向かって笑みを浮かべた。

「よし、それじゃあ、もうちょっとしたら、お店をたたんで、バザーで買い物しましょうか。バザーのお金はバザーに返すべきだしね」

「そうだな。出来れば大きな鉄なり鉱石が売ってれば良いんだけどな」

そんなことをいいながら、雄也たちはもう少しの間、バザーの出店を続けたのであった。


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