zip.32 次へと繋がる はじめの一歩
オルクスの街の外。北へと伸びる街道は、王国の首都ベイクへと続いていく。
旅だつ準備を終えた、レオンハルトたち4人を見送る為、雄也たち一行も、朝早くから街道に出ていたのである。
なお、雄也たちは雄也たちで、今日には『長行くべき地下道』へと向かい、ダンジョンアタックを始める予定であった。
「それでは、壮健でな」
「また、おあいしましょうね」
無愛想なレオンハルトと、愛想のよいミタマは、それぞれ対照的な挨拶をして、路を歩いていった。そのあとを、無言でリザードマンの魔術師が追う。
「いよいよ、実戦だな。負けるなよ、リセラ」
「はい、姐さんも、お元気で!」
最後に、リセラと硬い握手を交わしたティスアが、一行のあとを小走りに追いかけていき、そうして、彼ら4人は街道の先へと遠ざかっていったのだった。
「俺自身はあまり話す機会はなかったけど、何となく寂しいものがあるな」
「なに、また会えるさ。その時は、ちゃんと話をすればいいと思うぞ」
雄也の言葉に、ロッシュはそういうと、肩をぽんと叩いた。
「さて、見送りもすんだし、こっちはこっちで気持ちを切り替えてやらんとな」
レオンハルトたちを見送ったあとで、雄也たち一行はオルクスの街に戻り、一度、それぞれの宿泊場所で準備を整えた一行は、街の東の広場に集合していた。
雄也たちのほかにも、いくつかの冒険者グループがその場におり、どうやら件のダンジョンに入ろうという面々が集まっているようである。
「しかし、結構な数がいるな。ダンジョン内で、もめなきゃいいんだが」
「もめるって、冒険者同士でか?」
「ああ、モンスターも宝も出るが、それの分け前をめぐって争うのは普通にある。ゴブグリンと戦っている時に、無理やり割り込んできて分け前よこせ、とか、ダンジョンでお宝を手に入れたグループを狙って襲う奴もいるらしい」
まあ、大半はそういう悪い奴じゃなくて、俺らみたいなまっとうな冒険者だがな。
そんな風にロッシュは説明し、周囲を見渡す。
「ともあれ、同じ時間にダンジョンに入るのはトラブルの元だし、のんびりといって他の面子に先を譲ることにしようぜ」
「それが妥当でしょうね。雄也の体調も、あたしの修行の成果も懸念材料なんだし、余計なトラブルは避けていきましょう」
ぞろぞろと、移動を始めたほかのグループを眼で追いながら、リセラはそう口にする。
気の急いている様子もなく、落ち着いて現状を把握している様子のリセラを見て、少しはらしくなったかもな、とロッシュは内心でそう考えたのであった。
街の東、山すそに開く異空ダンジョンの入り口。
既に中に入ったのか、他の冒険者たちの姿はなく、雄也たち一行は洞窟の入り口に近づき、中を覗き込んだ。
「さて、それじゃあ行くとしようか。リセラの嬢ちゃんも、しっかりな」
「了解」
短く答えると、何のまじないか、リセラは握った拳で自らの額を軽く小突く。
精神的なスイッチの切り替えなのか、普段はどこか抜けていることもある、リセラの身にまとう気配が、研ぎ澄まされた空気のように、鋭いものに変わる。
「今回は、あたしが先導するわ。サポートをお願い」
そういって、リセラは先頭に立ち、洞窟の中へと足を踏み入れる。
光る苔が照らすダンジョンで、雄也たちの再挑戦が始まったのであった――――。
なお、洞窟探検は――――さしたる見所のないまま、無難な成果をあげて、無事に終わったことをここに記しておく。
つづきは
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