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食事を終えて、焚き火の後始末を終えた後で、雄也とリセラは森を出るべく、出立する。

方角は任せて、というリセラを先頭に、ここから西にあるマルセイ村に向かった。

その途中、森の中のなるべく歩きやすそうな場所を探しながら歩くリセラは、気になっていたことを同行者である少年にたずねることにした。

「そういえば、雄也ってどこから来たの? ここって田舎だから、見知らぬ人が来ればすぐに分かるわけだけど……北のオルクスの街からかしら?」

リセラは、いま歩いている森の東西にある村、マルセイ、ブルークの村を拠点に行動している。周辺には、村の間を遮るように広がる森と、南には長大なバルノン山脈があり、ほとんどの旅人は、北にあるオルクスの街を通ってこの界隈にやってくるのが常である。

だが、その予想は外れ、同行者の少年は木々の隙間から見える空に目をやって答えた。

「いや、聞いた事のない街だな。俺は山道を歩いてたら、この森に出たんだが」

「――――ちょっと待って、雄也、あなたまさか、バルノン山脈を越えてきたとか言わないわよね?」

「ああ、そういえばそんな名前だったかな。険しい山道っていうからには、断崖絶壁も渓谷もなくて拍子抜けしたんだが――――なんだよ、その顔は」

雄也の言葉に、リセラは心底呆れた様子で溜め息をつく。

「雄也、あなたって馬鹿でしょ。たった一人で、けわしい山脈越えをするとか、命がいくつあっても足りないわよ。今回はたまたま運がよかっただけで、そういうときには、仲間を募って行動するのが普通よ」

「なるほど、それが普通なのか」

「なにいってるのよ、冒険者なんだし、パーティを組んで行動するのが普通でしょ?」

リセラの言葉に、雄也は苦笑する。

「あいにく、俺はこっちに来て日が浅くてね。そういうことは良く分からないんだよ」

こちらに来て、という意味をこの近辺という意味に捉えたリセラは、こっちもどっちもないと思うけどね………と呟く。

「そういうリセラの方は、パーティを組んでるのか? 一人で森の中で、熊に追われてたんだが」

「う、それは……いまは募集中なのよ」

雄也の言葉が痛い所をついたのか、リセラは若干、口ごもりながらそう答える。

実際のところをいえば、リセラの方もまともなパーティを組んだ事がなかったのであった。

自称、財宝探検家であり、実際のところ、駆け出しの盗賊であるリセラだが、盗賊に必要な技能や知識は、まだまだ半人前といったところである。

そんな彼女を加えてくれるパーティなど、皆無であり、せいぜい、近場の魔物狩りに荷物もちとして参加した事が数回あるくらいであった。

北にあるオルクスの街の冒険者ギルドに登録してはいるものの、彼女に誘いをかけてくるのは、レベルが低いのを見て、都合よく使おうという下心満々の冒険者くらいであった。

「ま、まあ、雄也が良いなら、パーティを組んであげてもいいのよ? ほら、冒険者の先輩としては、放っておけないし」

などといいつつ、期待するような視線でチラチラと雄也を見るリセラ。

その様子に、なんとなく、目の前の少女も苦労している事を察し、冒険者っていうのも前途多難だな、などと雄也は考えた。

「………まあ、俺としては色々おしえてくれるってのはありがたいし、パーティを組むのは構わないが、先に言うと、迷惑をかけることになると思うぞ」

「大丈夫だって、そういうのをお互いにフォローするのもパーティなんだしさ」

「そうか、そういうものなんだな。なんか楽しそうだ」

雄也の言葉に、リセラの顔がほころぶ。

「それじゃあ改めまして、よろしくね、雄也」

「ああ。ま、よろしくな――――あと、前を注意しろよ」

「ふぎゃっ!?」

ここが森の中ということも忘れ、浮かれた様子で話しながら歩いていたリセラは、木の幹に盛大に衝突し、雄也にやれやれと溜め息をつかせたのであった。


途中で若干のトラブルはあったものの、雄也とリセラの二人は、何とか日が沈む前に、森を抜ける事ができたのであった。

「ここからは、もう大丈夫だと思うけど、最後まで気を抜かないで行きましょ」

そういう、リセラの先導で歩くこと小一時間――――目的のマルセイ村につく頃には、日もとっぷりと暮れ、夜の帳がおり始める頃であった。

「ここが、マルセイ村よ。まあ、何の変哲もない村だし、見どころがあるわけじゃないけど、住み心地はいいかな」

そんなことを言いながら、リセラは雄也を連れて、宵闇に包まれた村を歩く。

ほどなくして、宿屋であろうか、料理と家の看板を下げた家屋が見えてきた。

中からは、人の気配と、穏やかな喧騒が聞こえてくる。

「こんばんわー、女将さん!」

と、リセラが声をあげて屋内に入ると、カウンターに座っていた中年の女性が、気さくな声でリセラに声を掛けてきた。

「あら、いらっしゃい、リセラちゃん。頼まれた配達は、無事に終わったのかい?」

「はいっ。 これ、領収書です。確認してください」

「どれどれ………うん、問題ないね。それじゃあ、これが報酬だよ」

そういって、女将はカウンターテーブルの上に硬貨の入った袋を置くと……リセラの背後で、興味深げに店の中を見渡している、雄也に興味深げな視線を向けた。

「ところで、後ろの男前のお兄ちゃんは、お嬢ちゃんの連れなのかしら?」

「あ、はい。いろいろあって、今日からパーティを組むことになった雄也です。雄也、この人は宿屋の女将さんよ。仕事を斡旋してくれたり、宿代を負けてもらったり、お世話になってるの」

リセラの言葉に、「どうも」と慇懃に頭を下げる雄也。

そんな彼の様子を見てから、女将はリセラに顔を近づけると、囁くように彼女に質問を投げかける。

「今日はもう遅いし、泊まっていくのはいいけど、あのお兄ちゃんはどうするんだい?」

「どう、って?」

「うちは、男女の逢引にするには、部屋の壁は厚くないからねぇ」

からかうように言う女将に、ようやく、どういう意味かを悟ったリセラは、頬を染めて、慌てた様子を見せる。

「ちょっ、女将さん、そういうのじゃないですってば。そんな事言って、どうせ一人で一部屋使わせようって魂胆なんでしょ」

「おや、あたしがそんな業突く張りに見えるかねぇ? まあ、お互い納得しているのなら、何も言わないよ」

と、楽しそうに笑いながら、女将は部屋の番号が書かれた気の板をリセラに差し出した。

憮然とした表情で、それを受け取ると、リセラは背後に立つ雄也に振り返る。

「ん? もう話は終わったのか」

「ええ、終わったわ。それで、今日はここに泊まるんだけど……パーティとして今後、野宿の時もそうだけど、なるべくまとまって行動するべきなのは分かるわよね?」

「ああ、そうだな。確かに」

首肯する雄也に、こほんと一つ咳払いすると、リセラは人指し指を立てながら、言葉を続ける。

「そういうわけで、宿屋に泊まるときも、一緒の部屋に泊まることにしようと思うの。そうすれば、二部屋借りるよりも宿代も浮くし、親睦を深める機会になるからね」

「なるほど、分かった。それじゃあ、部屋にいこうか」

「あ、うん。分かったならいいけど……あの、雄也? 一応あたしも、年頃の女の子なんだけど。そんな女の子と一緒の部屋に泊まるってことに、なんかこう、躊躇とか躊躇いとか、そういうのはないの?」

リセラの言葉に、雄也は僅かに考え込む。

「そうだな、まあ、多少気になることもあるけど、パーティってそういうものなんだろ?」

「………うん」

「それなら、こういう状況にも、慣れて行かないとな。さ、部屋に荷物を置いて、夕食にしないとな。ここって、食堂もあるんだろ?」

ことさらに、軽い口調で言う雄也に対し、リセラは割り切ったように一つ息を吐くと、雄也の胸に軽く拳を当てて、笑みを見せた。

「ええ。ここは宿の他にも、食事を食べることも出来るわ。おすすめの肉料理、教えてあげるわね」

「ああ、それは楽しみだな」

そんなことを言い合いながら、部屋に向かう二人。その二人の背中を宿の女将は微笑ましいものを見る目で見つめていたのだった。


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