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「それにしても、もう少し愛想を良くしといてもよかったんじゃないか?」
雄也とリセラが宿泊している宿から出て、街路を歩きながら、ロッシュは傍らの少女に視線を向ける。小柄ながら出るところは出ている魔術師の少女は、ロッシュの言葉に返事はせず、手を伸ばしてロッシュの服の腰辺りを掴んだ。
「………まあ、原因がうちの親にあるからなぁ。スピカなりに今後も頑張ってくれればいいさ」
人付き合いが極端に苦手なスピカを気遣ってか、ロッシュの口調は優しい。ロッシュが手を伸ばしてスピカの頭をなでると、少女は嬉しそうに目を細めた。
そんな風にして、街の通りを歩いていた時である。道の先でざわめきとトラブルの気配を感じて、ロッシュは足を止めて、そちらのほうを向いた。
そこには、レオンハルトを取り囲むように、6名の男女が立ち並び、声を掛けている場面であった。
「だからよ、お前もおれたちの仲間になれって言ってるんだ。サブリーダーの地位もやるし、悪い話じゃないだろう?」
「興味はないな」
「そういうなって、双剣のレオン。せっかくの二つ名を持つ剣士なのに、小さな寄り合い所帯のリーダーなんてやってたら、大きな仕事は出来ないぜ」
「………」
リーダーであろう戦士の言葉に、レオンハルトは無言。だが、良い気分はしていないようである。その事に気づかず、リーダー格の男は更に言葉を続けた。
「トカゲの親玉や獣臭い女より、おれたちの方がよっぽど―――」
そこで、言葉を止めたのは、曲がりなりにも冒険者をやっていた危機感知の力だろうか。剣を抜かないものの、あきらかにさっきを出したレオンに、取り囲んでいた男女はそれぞれ数歩退いた。
「お前たちの方が、何だというんだ?」
「くっ………」
余計なことを言えば、攻撃されると分かったのだろう、男は言葉に詰まり――――
「よう、レオンじゃないか。どうしたんだ、こんなところで」
「……ロッシュか」
そのとき、その場の空気に割って入ってきたのは、ロッシュ一人である。スピカは、離れているように言われて、物陰に隠れていた。
レオンハルトの意識がそちらに向くと、この場にいづらくなった冒険者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「お、おい、おまえら! まて、俺を置いてくな!」
そういいながら、リーダー格の男が最後に、背を向けて逃げ去った。
それを目で追いながら、ロッシュは苦笑してレオンハルトに歩み寄った。
「命拾いしたなー、あいつら」
「……余計なことをする。俺が怪我でもすると思ったのか」
「いや、そんなことはまるっきり。だが、今騒ぎを起こしたら、街にはいづらくなるだろ? リセラの嬢ちゃんを鍛えてるのに、それが中断するのは惜しいからな」
ロッシュの言葉に、レオンハルトは頭が冷えたのか、たしかに、そうだな。と身に纏った殺気を雲散させる。
「まあ、いずれは本拠地に帰るわけだし、今後は適当にあしらうことにするか」
「そうしとけよ。それにしても、お前さんらの本拠地――――王国の首都ベイクか………あっちの方が仕事はあるんだろうな」
レオンハルトたちの本拠地は、この国の首都であり、そこには彼らよりも上の実力の冒険者も、数多くいる。華やかな都の様子を想像しながらロッシュが問うと、レオンハルトは皮肉げに唇をゆがめた。
「それと同等のトラブルもな。だが、あちらには獣人やリザードマンも数多くいる。さっきのようにふざけたことを言う輩はいない」
「……あまり殺気立つなよ、どうだ、気分を変えるためにも、一杯やらないか」
「そうだな、そうするとするか」
ロッシュの提案に、レオンハルトは視線をめぐらせてそう答える。
物陰から、こちらを心配そうに見ている魔術師の少女の視線に、これ以上、神経をささくれ立たせるのも良くないと判断したようであった。
話は付いたと、ロッシュが手招きすると、スピカは物陰からでて、ロッシュのもとに走りよったのであった。




