zip.22
双剣のレオンハルト、狐巫女のミタマ、リザードマンの魔術師ゲンブ、レンジャーのティスア。ダンジョン内で出会った4名のパーティは、ロッシュと同じパーティとして動いたことはないが、隊商の護衛任務などで、別々のパーティながら、行動を共にしたことのある間柄である。
その実力は折り紙つきであり、レベルという面も、二桁に到達し、中堅どころの冒険者という地位は確立している面々であった。
「……なるほど、最後の帰りで罠を踏んだか。運がないな。それで?」
「ああ。傷は塞いだが、雄也をこのままにしちゃ置けないだろ? だから、街までの護衛を頼みたいんだ」
「報酬は?」
「――――昨日から俺達がダンジョンでモンスターを倒して得た素材全部と、宝箱から出た硬貨と小剣、それに、足りないなら別料金も払う。だから、引き受けちゃくれないか、レオン」
ロッシュの言葉に、レオンハルトはしばらく考えると、わかった、と頷いた。
「正直なところ、ギルドで手ごろなクエストもなくてな。腕が鈍らないようにするのと、小遣い稼ぎのつもりでダンジョンに来たが、まとまった報酬があるなら文句はない」
「よし、そういうことなら、さっそく出発しよう、と言いたいんだが……」
そういって、ロッシュは視線を巡らす。そこには、迷彩色の服を着た長身の女性が、シーフの少女に平手打ちをかましている光景があった。
「………で、なんであんたは、自分が叩かれているのか、分かってるのか?」
「それは、あたしのせいで雄也が怪我して」
「そこじゃないんだよ! あんたの連れに聞いたが、マッピングは他人任せ、あからさまに怪しい宝箱を開ける、言動にも緊張感がない、シーフなのにそこを頑張らなくてどうするんだ!」
そういうと、レンジャーの女、ティスアはリセラの首を締め上げながら怒りの声を上げる。
「レンジャーやシーフ、スカウト系の職業なんてのはな! 戦いになったら戦士や魔術師に一歩も二歩も劣る。お荷物と言ってもいい。あたしらがパーティ内で重宝されるのは、スキルや頭脳があっての事だろうが!」
「っ………」
「そこをわきまえずに、仲間に寄生するだけなら、冒険者を辞めろ! むしろ、迷惑をかけないうちに死ね! 仲間を巻き込んだなんて後悔するくらいなら、最初から巻き込まれないように努力をしろってんだ!」
「――――止めた方がいいのかなあ、あれ。いってることは最もだが、やりすぎな気もするし、あのねーちゃん、俺よりレベル上だし、腕力じゃ止めれる自信ないし」
「……まあ、あれで本人はアドバイスしているつもりだからな。ティスア、そろそろ止めておけ。もう充分だろう」
手出ししようか迷っているロッシュの代わりに、レオンハルトがそう声を掛ける。
レンジャーの女性は、剣呑な目をロッシュたちの方に向け、「ああん?」と、凄みのある声で睨んできた。
「充分ってことはないだろ。これはな、親切でやってんだよ。仲間にかばってもらえた、それは感謝すべきだろうが、少しでも痛みを受けとかなきゃ、この小娘は、また同じことを繰り返すぞ。これでも足りないくらいだ」
「それはそうだろうが、俺たちの領分を越えているとは思わないのか? 他所は他所、そういう割り切りの出来る女だと思っていたんだがな」
「………ちっ。おら、立て!」
ティスアは舌打ちをすると、地面にへたり込んだリセラの首根っこを掴んで、無理やり立たせた。
雄也の治療に当たっていたアイリスは、心配そうな目でその様子を見ていたが、そんな彼女に、やんわりとした言葉がかけられて、彼女をはっとさせた。
「あの~、治療の手が、とまってますよ? 今はこっちに集中してくれませんかなぁ?」
「あ、す、すみません」
「パーティのお仲間ですし、お気になさるのは分かりますけどなぁ、あれはあれで、必要なことだと思いますえ? 今後も、パーティとして頑張られるのでしたらなぁ」
「は、はぁ」
狐のような微笑み――――実際に、狐の耳と尻尾が生えているが――――そう、表現できそうな微笑を浮かべる巫女に、アイリスは戸惑った様子で、生返事を返すことしか出来なかった。そんな風にアイリスが見つめていると、ミタマと呼ばれる少女は、治療の手を止めて、ロッシュとレオンハルトのほうを向いた。
「治療は終わりましたよ? これで担いで街まで戻るのは大丈夫ですね。もっとも、そこから数日は絶対安静ですけどなぁ」
「そうか。では行くとしようか、雇い主殿」
ミタマの言葉に、レオンハルトはロッシュにそう告げた。知り合いとはいえ、仕事は仕事、ということのようである。
「よし、それじゃあ行くとするか雄也は……ゲンブのオッサンが背負ってくれるのか。じゃあ、スピカは俺が背負う。アイリスの嬢ちゃん、リセラの嬢ちゃんに付き添ってくれ」
幽鬼のように立ち尽くすリセラのもとに、アイリスが駆け寄る。
そうして、一行はダンジョンを脱出し、オルクスの街に向かった。
多くの痛みと苦味をのこした、それが、雄也たちのパーティの、初のダンジョンアタックの結果であった。




