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zip.21

「ふんふんふーん」

「やれやれ、さっきまで不満そうだったのが嘘みたいだな」

足取り軽く帰路をいくリセラを、呆れたように見るロッシュ。

「まあ、元気になったんだからよい事じゃないですかね。雄也さんもそう思うでしょ?」

「そうだな。不機嫌よりはましだろうな」

アイリスの言葉に、雄也はそういって頷く。

入り口までの道程も、あと半分を切っており、もう少しで地上に出られるということもあり、皆の足取りも軽い。といっても、まだあと数時間は徒歩で移動しなければならないのだが。

宝箱から宝を得てからも、帰り道ではモンスターに遭遇していたが、数も散発的なものであり、ロッシュがスピカを背負ったままでも十分対応できていた。

そんな道すがら、前方を見ていたリセラが喝采の声を上げる。

「あ! 見てみて、すごい、また宝箱よ!」

ヒカリゴケの照らすダンジョンの通路の先、道の真ん中に先ほどと同じ形の宝箱が、鎮座していた。ただ、

「……なあ、なんかあの宝箱、赤く光ってるように見えるんだが」

地面に置かれた宝箱は、それ自体が赤い光を放っている。

何となく嫌な予感を覚えたのか、ロッシュはスピカを背負いなおすと、仲間達を見渡す。

「あれは、なんかヤバイだろうし、ほっといた方が良いんじゃないかと俺は思うんだが」

「そうだな。俺もロッシュの意見に賛成だ。リセラも、あれには触らない様に――――」

と、雄也が口を開くが、リセラの姿を探して、身体を硬直させた。

雄也たちが話している間に、リセラはさっさと宝箱のもとに行って、鍵を開けようとしていたのである。

「あいつ………!」

雄也は、リセラのもとに駆け寄ろうとする。そのときちょうど、リセラは宝箱の鍵を開けて、蓋を開けようとしていた。

「さあ、どんなお宝が――――え?」

宝箱の中には、闇色の何かが入っていた。そしてそれはすぐ、宝箱から外にゆらりと出てくる。それは、大きな鎌を持った、長身の骸骨であった。

感情のこもらない窪んだ眼窩で、骸骨はリセラの方を向くと、持っていた鎌を一閃させ――――

「リセラ!」

その直前、駆け寄った雄也は、リセラの身体を突き飛ばしていた。

小柄な少女の身体が刃から逃れるが、骸骨は、続けざまに鎌を振り、雄也の首筋にたたきつけたのである。


雄也の首から、鮮血が舞った。


「………! あの馬鹿!」

「輝け(レイ)!」

一瞬、呆然としたものの、ロッシュはスピカを背負ったまま骸骨に向かって駆け出し、魔術師の少女は、ゆらりと立つ骸骨に向かって魔法を炸裂させる。

骸骨を中心に、光が炸裂し………それが消えた頃には、骸骨の姿も見えなくなっていた。倒せたのかどうか、それを確認する時間も惜しく、ロッシュはスピカを地面に下ろしながら、地面に倒れた雄也のもとに駆け寄った。

死神の鎌によって切りつけられた首もとからは血があふれて、地面を赤く染めつつある。

幸いと言うべきか、首を両断されることはなかったものの、一刻を争う容態であることは明白だった。

「ゆう……や…?」

「アイリスの嬢ちゃん、包帯でも何でも良い、まずは止血だ!急げ!」

「っ! は、はいっ! クヨン様、どうか傷つき倒れたこの子等に救いの手を……」

わずかに遅れてきたアイリスは、手早く包帯を雄也の首に巻きつけ、治癒を行うが、そうしている間にも、包帯は赤くにじみ、雄也の身体から命が抜け出ていくのがありありと分かった。

「くそっ、血が止まらねえ、どうすれば、どうすればいい……」

「どいて」

と、傍で様子を見ていたスピカが、倒れた雄也のそばにかがむと、その首に手をかざした。

氷結(アイシクル)

呪文と共に、雄也の首もとが凍りつき、一時的に血が止まった。


「雄也! スピカちゃん、雄也は大丈夫なの!?」

「……血を止めただけ」

リセラの問いに、スピカはそれだけ言ってそっぽを向く。

不用意に宝箱を開けたリセラに対し、良い感情を持っていないようであった。だが、当の本人はそれどころではなく、半ば半狂乱に近い様子で、地面に寝かされた雄也にすがり付いて声を掛けていた。

「雄也、雄也しっかりして! お医者さんに連れて行くから……!」

(そうしたいのは山々だが……どうする?)

リセラの声を聞きながら、ロッシュは考え込む。

一時的な処置で患部を凍らせたとはいえ、雄也を部屋に動かせば、命にかかわりそうである。かといって、このままで雄也が回復するとも思えなかった。

雄也の傍で治癒の力を放っているアイリスの表情を見ても、楽観してよい状況ではないのは分かっていた。


だが、そうして悩んでいたときである。

彼等の進んでいた、ダンジョンの入り口方面から、複数のゴブグリンが駆け寄ってきたのである。

「だーっ! こんな時に……」

と、半ばやけくそ気味に、メンバーを庇うように敵の前に出ようとしたロッシュだが、その直後、ゴブグリン達の後を追って現れた青年とその仲間たちが、瞬く間にゴブグリン達を一掃したのである。


「誰かと思えば、ロッシュじゃないか。どうしたんだ、こんなところで」

ロッシュに声を掛けたのは、両手に剣を持った青年である。

どうやら、ロッシュとの知己なのか、他の面々も警戒を解き、雄也たちの方を見る。

「レオンか! すまないが、力を貸してくれ! 一人死に掛けてる奴がいるんだ!」

「そうか。ミタマ! 手伝ってやれ」

「ハイな、だんな様」

青年の言葉に、雄也たちのもとに歩み寄ったのは、きつねの耳と尻尾をもった少女である。彼女は、アイリスの手に重ねるように自らの手を置き、安心させるように微笑を見せた。

「それじゃ、やりましょか? だいじょうぶです。うちの力も加えれば、もちなおしますからねぇ」

その言葉は偽りではなかったようで、それからしばらくの後、雄也の首もとの傷口はふさがり、ひとまずは命の危機から脱する事ができたのであった。


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