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zip.20

ダンジョンにもぐってから、かなりの時間が経過した。

「………なあ、そろそろ、野営の準備をしないか?」

雄也が皆にそう言ったのは、自分自身がいささか疲れが溜まってきたのと、時間の感覚があいまいになったからである。

「そうだな………俺はまだ余裕があるが、そういうときにこそ休むべきだろうな」

「そうね。なんだかんだで結構歩いたし、正直今がどのくらいの時刻か分かんないから、休める時に休みましょ」

雄也の言葉に、ロッシュとリセラが同意の声を上げる。アイリスとスピカも反対の声をあげなかったので、一同はそのまま、通路の真ん中で野営をすることにした。

野宿の時と違い、全方位を警戒する必要もなく、通路の前後だけ注意を払えばよい分、今回の野営は楽なほうといえた。

「しかし、野営といっても、これだけ楽なのは珍しいな。地面に敷くものも持ち運べる雄也のおかげだけど、これに慣れるのは良いんだろうか?」

ダンジョン探索のために、さまざまな用意をする。それは当然なのだが、実際の所はその中から、かさばるものや壊れやすいものは除外されるのが普通である。

人数用の寝具を(さすがにベッドなどは持ってこなかったが)小さな状態から解凍する雄也の手並みを見ながら、ロッシュは自問するように言葉を放つ。

「いいんじゃないの? わざわざ、不便な状況を作る必要もないんだし、あたしはずっと、雄也とパーティを組むつもりだしね」

「まあ、リセラの嬢ちゃんたちはそれで良いんだろうけどな」

何か思うところがあるのか、言葉を濁すロッシュ。少々怪訝そうな顔をしたものの、リセラは特に言及することもなく、毛布に包まって横になったのだった。


持ち回りで見張りをしつつ、各自で睡眠をとって休憩した一行は、一度、出入り口に戻ることにした。

ダンジョンにもぐる際、1週間ほどの食料は用意はしたものの、雄也たちもいきなり最深部を踏破するつもりはなく、また、地味で過酷な行軍に、根を上げる者も出てきたからである。

「つかれたー……雄也ぁ。汗でベトベトで気持ち悪い……お風呂出してよぉ」

「あー、はいはい、街に戻ったらな」

「リセラちゃん、げんなりするのは良いですけど、ちゃんと警戒は続けてくださいね」

調子の良い性格であるリセラは、ダンジョン探索を誰よりも楽しみにしていた分、張った気持ちが抜けるのも早かった。

また、それとは別に、パーティ内では一番体力のないスピカが、少々足元がおぼつかなくなっており、ロッシュに背負われて来た道を戻っているところである。

さいわい、出てくるモンスターは、その状態のパーティでも問題なく対処できる程度の相手であったため、ゆっくりと一行は、ダンジョンの入り口への道を進んでいった。


「あれ?」

戻りの道も、四分の一程度を進んだ頃であろうか、通路の先を見ていたリセラが、怪訝そうな声をあげた。

「どうしたんだ、リセラ? モンスターか?」

「ううん、そうじゃないわ。なんか道の真ん中に……箱? があるけど。来る時はなかったわよね」

雄也が聞くと、リセラは首をかしげつつ、そんなことをいう。

しばらく進むと、リセラのいうとおり、通路の真ん中に、一抱えもありそうな金属の箱が鎮座していた。しっかりとした作りの、上部を開けるタイプのそれは――――

「これってあれじゃない? もしかして、宝箱?」

「みたいだな。俺もはじめて見たけど、そういえは、ごくごく稀に、異空ダンジョンが宝箱を生むってきいたことがあったな」

「どれどれ? 鍵は開いてないみたいね、それじゃあ、よっ、と」

リセラは懐から、鍵開け道具を取り出すと、楽しそうに解錠に掛かった。

試行錯誤の数分の後、カチリ、と宝箱のふたが開き、その中には一振りの小剣といくばくかの硬貨が入っていた。鉄製の剣は、なかなかの値打ち物のようである。

「わー、人生初のお宝ゲット! これぞ冒険者ってかんじよね!」

そんなことをいいながら、宝箱から剣と硬貨をリセラが取り出すと、役目を終えたのか、宝箱はモンスターと同じで黒い塵になって消え去った。

「宝箱は消えたのに………この剣と硬貨は消えませんね。消えられるのも困りものですが」

「ちょ、不吉なことをいわないでよ、アイリス。せっかくのお宝なのに」

そんなことをいいながら、リセラは自らの財布に硬貨をつめ、小剣のほうは雄也に手渡した。

「とりあえず、硬貨はあたしが預かるわ。雄也は剣を持ってて。後で換金するなり、取り分はどうするかは、戻ってから決めましょ」

「そうするとしようか。しかし、アイリスの言葉で引っかかったけど、この剣とか、硬貨ってのはダンジョンが生み出したのかな」

「いや、たぶん違うな」

と、雄也の言葉に異論を唱えたのはロッシュである。

「この異空ダンジョンもそうだが、割と行方不明になる冒険者は多いのに、その荷物とか装備品が見つかることは少ないって聞いてる。死体も含めて、どこにいったか。で、思うんだが……宝箱から出てきた小剣も硬貨も、そういうやつらの遺留品じゃないかってな」

「それは、あまり愉快な話じゃないな」

「まあな。それに、今のは俺の勝手な予想だから、真に受けない方が良いかもしれんぞ。ひょっとしたら、もっと突拍子もない事実があるかもしれないしな」

ロッシュはそういって、自らの口にした考えを否定した。雄也は手元にある小剣を見る。

使い込まれた鉄の小剣は、当然ながら物をいうこともなく、鈍い光を放つだけであった。

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