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「ロッシュとスピカちゃんも加わって、パーティの調子も上向きになってることだし、そろそろ、ダンジョンにもぐってみたらどうかしら?」
「………なんというか、予想通りですね」
「ん、なんか言った、アイリス?」
「いえ別に」
ロッシュたちが加わって一月ほど後のこと、雄也たち一行は、あれから何度か、草原でのパーティ戦闘を行い、そこそこの成果をあげていた。
そんななかで、リセラが出した提案は、至極妥当な流れといえる。リセラの言葉に、串焼きの肉を齧りながら、ロッシュが雄也に話を向けた。
「まーた、リセラの嬢ちゃんの冒険癖が出てるな。雄也、お前も大変だな」
「他人事みたいにいうなよ。それにしても、ダンジョンか……ロッシュは、ダンジョンに行った経験はあるのか?」
「ああ、以前のパーティの時にな。もっとも、そのときのパーティならともかく、いまの面子だと、ちょいと厳しいと思うけどな」
と、軽い口調でそんなことを言うロッシュ。その言葉に、リセラはしかめ面になった。
「なによ、ロッシュは反対だって言うの?」
「そこまでは言わないさ。俺としても、ダンジョンに潜ること自体は嫌いじゃない。冒険している気にはなるし、稼ぎも良いからな」
「反対、とは言わないのでしたら、とりあえず近くの異空ダンジョンに行くのはどうですか? 情報屋の人から、私たちでも安心していける場所を聞いてますから」
と、リセラとロッシュの会話に、アイリスが割って入ったのはその時である。その言葉に、リセラは「いくーダンジョン?」と首をかしげ、ロッシュは感心したような表情を見せた。
「ほう、アイリスのお嬢ちゃんは、その辺りまで下調べしてあるのか」
「はい。オルクスの街の東方にある『長行くべき地下道』。適正レベルは5、生息するモンスターも、怖い能力をもつものはいないはずです」
「……ああ、あそこか。まあ、悪くはないんじゃないか?」
「ねえねえ、アイリス。いくーダンジョンって何?」
「ああ、それはですね………」
リセラの質問に、ダンジョンのことを説明するアイリス。そんな様子を見ていたロッシュに、雄也が横合いから声をかけた。
「なあ、ロッシュ。止めなくてよかったのか? 今のパーティだと、厳しいって言っていただろ?」
「ん? ああ……止めるつもりだったんだが、アイリスの嬢ちゃんが下調べもしていたみたいだし、俺の一度いった事がある場所だからな、あそこは。運が悪くてもまあ、死にはしないだろう」
「その台詞だけ聞くと、そこはかとなく不安になるんだが……」
「そうだな。ただまあ、つまづくなら、早い方が良いだろうし」
「――――……まるで、失敗することを前提としてるみたいだな」
雄也の言葉に、ロッシュは無言で肩をすくめる。
「ふーん………それで、そのダンジョンって近いの?」
「はい。この街から数時間歩いた先の、山中にあるらしいです」
「なるほど、それじゃあ準備しないとね。ダンジョンの規模によっては、野営もしなきゃいけないだろうし……」
そんなことをいいながら、アイリスと楽しそうに話しているリセラを、スピカが物言いたそうな目で見てはいたが、口に出しては何も言わなかった。
そうして、雄也たちのパーティにとって、初のダンジョンアタックが始まるのだった。




