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zip.14

「ダンジョンアタックに必要なもの……ですか」

「はい、リセラちゃんのことですし、そろそろ行きたいと言いそうですから、用意はしておきたいと思うのです」

とある日の昼下がり、カウンターの業務の休憩がてら、食堂で昼食をとっていた紅玉のもとをたずねてそう聞いてきたのは、シスターのアイリスである。

この街の教会で働いているアイリスは、日頃からの顔見知りであり、紅玉としてもむげには出来ない相手である。

「もちろん、授業料として、お昼ご飯の代金はこちらで持ちますよ」

「そういうことでしたら、私で教えれることなら何でも教えます」

また、シスターの割には、袖の下や賄賂などにも寛容で堅苦しくない面が、紅玉としては気に行っているところであった。

「まあ、必要なもの、といっても、基本的には護衛などの遠出の時と同じように、食料や水、薬などは最低限そろえておくのは当たり前ですし……後は、向かうダンジョンに関しての情報というところでしょうか」

「情報、ですか?」

「ええ、アイリスさんは、通常のダンジョンと、異空ダンジョンの違いは分かりますか?」

「異空ダンジョン?」

聞きなれない単語に、首をかしげるアイリス。そんな彼女の様子に、紅玉はどのように説明しようか考えながら口をひらく。

「そうですね……まず、普通のダンジョンや迷宮、これらは、自然に出来た洞窟であったり、例えば、人の住むことのなくなった古城などをさします。これらに対しての探索は、例えば、洞窟に住み着いたモンスターの調査だったり、古城に現れる幽霊退治だったりします」

「なるほど」

「通常、そういった場所の探索は、危険度的にはそれほど大であることは少ないです。その分、実入りも少なく、また、一つのパーティが事件を請け負うと、探索の結果が出るまで、他のパーティは関われない、専用クエストのような場所ですね」

そのような場所では、お目当てのモンスター以外に強大な魔物がいることはめったにない。

その為、安心してクエスト報酬を稼げる分、ダンジョンがらみのクエストは競争率も激しく、受けるのもなかなか難しかったりする。

そういう安全な任務を初心者に譲る、などと言う考えなどなく、むしろベテランが、それらのクエストを優先的にこなそうという風潮すらあった。

「そういうわけですから、通常のダンジョン探索は、出来ないものと思った方が良いですよ。むしろ、初心者パーティは異空ダンジョンでの探索がメインとなると思います」

「せんせー、異空ダンジョンとはなんでしょうか」

「はい、基本的なところですね。実は、モンスターの中には、一体で広大なダンジョンという巣を作るものがいます。それを、『ダンジョンメーカー』と呼びます」

ダンジョンメーカーは、その姿は様々で、人型、獣方、不形方……様々の姿を持つものがいる。

それらは、様々な場所にダンジョンを作り、その奥深くにもぐって生活する。

どうしてそのような力があるか、解明には至っていないが、一説には魔王がどのような場所にでも拠点を作り出せるように、創造したのがダンジョンメーカーだと言う説もある。

ダンジョンメーカーが作り出したダンジョンは、その主の趣向にあわせ、さまざまな形、景観を持つ。洞窟内に、砂漠が広がっていたり、海があるなどということは当たり前で、驚くには値しないのである。

「と、変わった場所ですが、それよりも特筆すべきは、異空ダンジョンが、魔物や宝物を『産む』というところですね。産む、というより、どこからともなく現れるというのが正解らしいですが」

異空ダンジョン内には、その中でしか生息できない魔物がいる。それらを倒すと、何故か、小さな素材となるのであった。また、運がよいものの前には、『何故か』宝箱が現れたりする。もっとも、その宝箱の中には、罠が仕掛けられているものもあり、開けるかどうかは、それぞれの判断しだいということになるのであろう。

「異空ダンジョンは、この街の近くにもいくつかありますが、それぞれの難易度、出てくるモンスター、宝箱の罠などは、情報屋などに聞けば分かります。もちろん、ただではありませんが、情報収集はしておかないと、いざという時に対処できないかもしれませんから、知っておいて損はないと思いますよ」

フォークを振りながら紅玉が言うと、うーむ、とアイリスは黙り込む。

情報屋にお金を払うべきか、悩んでいるらしい。強制することでもないので、紅玉は、その件は置いておいて、話を続ける。

「ああ、それと、異空ダンジョンに挑む時の不文律ですが、『ダンジョンメーカーは決して倒さない』でくださいね。もちろん、ダンジョンメーカー自体、とんでもない強さを持っている事が多いのですが」

「倒しては駄目? なぜですか?」

「ダンジョンメーカーは、時空を歪めて、ダンジョンという空間を維持しているとされています。さて、空間を維持している相手が死んだら、ダンジョンはどうなるでしょうか?」

「………わかりません」

「以前、前例がありまして、高名な勇者とその一党が、とあるダンジョンに巣くう、魔王の手先とされるダンジョンメーカーを倒した事があったのですが………ダンジョンもろともに、行方知れずとなったらしいです。そのとき、ダンジョンにもぐっていた他のパーティも同様です」

紅玉の言葉に、アイリスはうわぁ………と呟きを漏らした。

「そんなわけで、ダンジョンの奥で主っぽい相手にあったら、とりあえずは逃げた方が懸命です。そのことは覚えておいた方が良いでしょうね」

「………肝に銘じておきます」

その後、軽くではあるが、近隣の異空ダンジョンの、上辺の情報を、紅玉はアイリスに伝える。詳しい情報は、情報屋の生活を脅かす為、言うことは禁じられているが、どのあたりにあるか、誰が情報を知ってるかくらいは、知らせておいても問題はないのであった。

(それにしても……いつもの事ですが、やはり皆さん行くのですね)

アイリスに話をしながら、紅玉は内心でそんなことを思う。


受付嬢として、長い間ギルドで働くうち、多くの冒険者がダンジョンに挑む姿、成功した姿、挫折した姿を見てきた。

目の雨の少女を含むパーティの冒険の結果も、いずれは紅玉の知るところとなるだろう。

(せめて、ギルドには戻ってきて欲しいところです)

無事に、とは付けれない探索行――――帰ってこなかった冒険者たちを脳裏に浮かべながら、出来ることなら、そういった帰らずの冒険者が増えないことを、紅玉は祈っていたのであった。


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