プロローグ
「ようこそいらっしゃいました、勇者の血をひくものよ」
天地が逆さまに、遥かな頭上には大地が広がり、足元には星の海がきらめいている。
そんな不思議空間に、綺堂雄也はたっていた。
気がついたときには、いつも間にかここの空間にいて、目の前には明らかに女神っぽい何かが、笑顔で雄也に語りかけてきている。
「私は、女神リリー。ここに呼び出したのは、あなたに頭上に見える世界、セカンドリアを救ってもらおうと――――」
「あの、ちょっといいですか」
「はい、なんでしょうか?」
笑顔のまま、小首を傾げる、女神リリー。
それに対して、雄也は面白くも無さそうに頭をかきながら、ぽつりと言葉を発した。
「その勇者の血をひくっての、俺じゃなくて隣に住む奴のことじゃないんですかね」
「えっ?」
「えっ」
ちょっと驚いた様子で固まった女神の反応に、鸚鵡返しに言葉を返す雄也。
「あの、あなたの名前はコドウ=アカリさんでは……?」
「それは、俺んちの隣に住む奴の名前です。まあ、常日頃から勇者とか自称している頭の痛い女なんで、そうかと思ったんですけどね」
雄也がそう答えると、女神は僅かに沈黙し………
「それはそれとして、話を続けますね。ええと、あなたにはこの上にある大陸セカンドリアに住み着いた、邪悪な魔王とその一党を倒してもらおうかと」
「いや、自分はその勇者とか関係ないんですよね? もろに人違いなんでし、うちに帰してくれませんか」
「もちろん、今までの世界で戦いの仕方を知らないというのは不安でしょう。なので、あなた――――ええと、お名前は?」
「………綺堂雄也」
「はい、ユウヤさんには、私、リリーの加護を与えます。これであなたは、モンスターを倒してレベルアップできるし、最初からサービスで、あなたが使える必殺技を授けちゃったりもしますよ」
「いや、そんなのいらんから、帰してよ」
心底迷惑そうに言う雄也だが、女神は聞く耳を持たないという風に、ニコニコとするだけである。
「大丈夫ですよ。そもそも勇者なんて、ルーツを辿れば一般家庭の人も山ほどいるものですし。やってみれば何とかなるものです。それにこちらとしても、あちらに送り込む手ごm――――未来の勇者様は多い方がいいですから」
「いま手駒っていっただろ、あんた」
「もう、うるさいですねえ。あまり聞き分けがないと、何の加護もつけないまま、向こうの世界に放りだしちゃいますよ」
むー、と、頬を膨らませる女神だが、言ってることは暴君そのものである。
「……帰してくれないんですかね?」
「駄目です★」
憮然とした雄也に、女神は楽しそうな顔で両手をむける。
その手には、白々と光が宿っており、その光は徐々に強くなっていった。
「それでは、名残惜しいですが、そろそろ、あちらに飛ばしますね? 頑張って魔王とその一党を倒してくださいねー」
光は一気に膨れ上がり、雄也はそれに飲み込まれた。
光に飲み込まれて意識が失う直前、女神の呟きを、彼は耳にした。
「ふぅ、これで証拠隠滅完了ね。まちがった召喚もごまかせて戦力増強。さすが私ね」
その言葉を理不尽だ。と思うものの、雄也が文句を言う暇もなく、真っ白な光が全てを飲み込んだのであった。




