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廃嘘学  作者: 道端隆
一章
4/8

追われる記憶

少女は、涙目を点にしたまま、しばらく固まったままだったが、

やがて、その青の瞳の焦点が、古都のことを確かめて、

「ーーへっ?」

そう、しゃくり上げるように、息をすることを思い出した

が、

「おいこらっ!」

と浴びせかけられた男の怒号に、少女は再び、びくっと体を縮め込ませる

古都が上り口の方を確認すると、いつの間にか白装束の男たちが戻ってきていた

変に声がくぐもって聞こえたのは、大げさな被り物をしているせいだ

顔面をすっぽり覆う革製のお面の口元に、2つの袋状のものがくっついている

どんな仕組みか知らないが、潮風を嫌って取り付けたのだろうことは、容易に想像できた

当然、海を夢見る少年にとっては、面白くない話である

「……なんなんだよ、お前ら」

意図せず、言葉に棘が混じった

男たちも、そんな古都の反抗的な態度を察したのだろう、

「なんだとはなんだ!」

「こっちの台詞だぞ小僧」

「それは俺たちのキオクだ、返せ!」

そう、口元の袋をぶるぶる震わせながら喚き立てる

まるで、古都の方こそ悪者だといいたげだった

「はぁ?」

と、古都は首をひねる

彼らが指差しているのは、古都の手の中に肩を預けたまま、

俯きがちに、伺い見るように、男たちの方を振り返っている少女だ

キオク?_というのはこの子の名前か?_それにしても

「ーーなんだよ、俺・た・ち・の、って。まるでこの子が、あんたらの物みたいな言い方だな」

古都は、少女の足が、きちんと壁に落ち着いていることを確認しながら、

その肩から手を離し、彼女の前に回り込んだ

少女は、一瞬戸惑いの声を上げたが、そのまま大人しく、古都の後ろに隠れた

それを見た男たちは、ますます興奮して、

「まるでじゃねぇよ。そのまんまの意味だろうが!」

「じゃなきゃなんだってんだよ」

「あ!_まさかお前、 そいつを猫糞するつもりじゃ!?」

人のことを物扱いするなと非難したのに、全く論点のずれた怒号を返してくる

ーーひどい奴らだな

俺だって、この辺りの大人たちに、道具みたいに扱われたことはない

古都もそれで、三人の男たちを完全に「敵」認定して、

「……だーかーら、なにを⁉︎」

と、語気を荒げた

結果として、古都たちのやり取りは、ほぼ喧嘩じみた言い合いに成りかけたのだが、

「いや、違うな。彼はキオクを知らないんだ。普通の人間だと思ってる」

と、不意に冷静な声が割り入って、

そこで初めて、古都は、上り口に一人、人が増えていることに気付いた

「はぁ?_んな馬鹿な、ってうお!_誰だお前!」

それは、他の三人も同じだったようで、急に背後に現れた声の主に、驚き仰け反っている

他の男たちにも比べ、頭一つ分ほど背が高いその人物は、

彼らと同じ白装束に、既に茶色の被り物を身につけていた

お陰でどんな顔をしているかわからなかったが、

声は、低く抑揚の少ない、男性のものだった

彼は、他の男たちの反応に、ぽりぽりと頭を掻きながら

「あぁ、脅かしてすまない。つい3日前に合流したばかりで。後で自己紹介するよ」

そう言って、他の男たちをかき分け、古都たちの方に進み出てくる

同じ格好をしているのだから、彼らは仲間同士なのだろうが、

三人の男たちは、その『のっぽ』を、威嚇するよに見上げている

「おい、どこの派閥のもんかしらねぇが、俺たちが最初に見つけたんだ」

「わかってるよ、横取りはしない」

一方、のっぽの男は、それを意に介していないようで、

ひらひらと右の掌を振って見せてから、

「少年」

と、上り口の手すりから古都たちの方に身を乗り出し、

「その子は、私たち法学にとって、とても大切なのだ。連れてきてくれないか?」

そういって、手を差し出す

他の男たちと打って変わった、柔らかな物言いだ

が、瞬間、わずか背中に触れる少女の体がぴくりと強張ったのを、古都は見逃さない

「ね?」

古都は、男の問いかけを無視し、後ろにいる少女に問いかける

「……っあ。は、い」

応えた彼女は、どこか覚悟を決めているようだった

古都の背に、いつの間にか縋らせていた右手を、自身の小さな胸元へ戻し、

外套をぎゅっと握りこむ

何か勘違いしてるな、古都はその右手を包むように握リ取って、訪ねた

「どうしたい?」

「えっ?」

「追っかけられてるんだろ?_あいつらに」

そういって、大人たちの方に目配せしてみせてから、

「あいつら、こっちに来いって言ってる。でも、君はどうしたいかってこと」

まるで、思いついたばかりの、とっておきの悪戯を共有するような耳打ち

少女は、まさか自分の思いなど求どこめられるとは思っていなかったのか、

ぽかんと口をあけて、

「……ーーあ、行きたくない、です」

と、思わずといった感じの一言をこぼす

それは、それ故に、彼女の偽らざる本音なのだとわかって、古都はにっと笑った

「よしっ、じゃあ逃げよう。降りるぞ」

「はい?」

古都はそう言うと、ひょいっと少女を抱き上げ、

躊躇うことなく、隔壁の斜面を駆け下りた

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