番外編 『11月11日はあの日』
11月11日の日の特別SS
本編との繋がりはありません。
夕食を求めてコンビニに立ち寄ると、カウンターの正面、菓子棚のディスプレイがいつもと違った。
新商品やイベント、季節に合わせて変わるものだが、それとは様子が少し違う。
ありふれたイベント仕様といえばそうなのだろうけれど、圧倒される光景に、一箱手に取ってかごに入れた。
冷蔵棚から350のビールと、チルド棚から弁当を選ぶ。
かごの中身は缶と弁当と菓子の箱。
「つまみになるかなぁ」
11月11日、某大手製菓メーカーの「1」と形状が似ているあの商品だ。
「今日って、あの日じゃない? じゃーん、買っちゃった」
帰ってくるなり蝦名さんが袋の中身をテーブルにぶちまけた。
言葉通り、袋をひっくり返して一気に落とした。絶対何本か割れてる。
見事にあの菓子しかない。
でも種類が違う。
チョコレートがコーティングされているものが4種類。
シンプルなものが5種類。
9箱も食べるのだろうか。
口癖のように、ダイエット、やら、カロリーやら言っているのに。
「実はおれも買ったんですよ」
オーソドックスな緑の箱を取り出す。うん、被ってる。
「買っちゃうよね〜。いっくんはサラダが好きなの?」
「この中では。普段はポテチばっかっスよ。めっちゃ久しぶりに買いました」
「わかる。この日になると店頭にいっぱい並ぶし、ポップも目立つからついつい手が伸びちゃうのよね」
「そうなのか?」
黙々と弁当を食べていた金子先輩がチョコスティックの赤い箱を手に取る。昔からあるロングセラー商品だ。
甘いものが苦手な金子先輩でも食べたことくらいあるだろう。
「甘いのか?」
「ウソでしょ!?」
「こっちはあります。美味いですよね」
緑の箱を指差す。
チョコってだけで嫌厭していたようだ。
「すごい甘いってわけじゃないですよ」
「前はビターチョコのがあったわよね。最近見ないけど」
「そういえば」
ものは試し、スタンダードチョコスティック菓子の封を切る。
今は当たり前だけど、昔は1箱に1袋纏めて入っていたな。
「はいどうぞ」
「全部は無理だぞ」
「おれたちが食べますから」
「……いただきます」
金子先輩はおそるおそる1本取り出して口に運ぶ。
持ち手側にチョコが付いていないので、必然的にチョコ付きの方からだ。
カリッ ポリポリポリ
「…………思った程甘くない」
「食えましたね」
「1本でいいな」
「残りはいっくんにあげるわね」
「っス」
口が開いている方を渡された。
今日中に食いきらないといけないやつでは? いいけど。
「これ、初めて見ました」
「これ〜? おつまみに良さそうと思って」
他の箱より一回り小さいチョコなしのスナック。
薫製ベーコンと薫製チーズの2種類。
パッケージも大人向けで、いかにも酒に合いそう。
「これ誰?」
パッケージの側面に男の写真がついている。アイドルか俳優だろうか。
バーにいそうな装いだ。
「それは、某魔法使いの日本語吹き替えの声優さんよ」
「声優さんなんですか」
「キャンペーンがあったのよ。動画配信もしているわ」(※キャンペーンは終了しています)
「詳しいですね」
「イケメン俳優のチェックは欠かさないの」
ビールもあるし、薫製チーズを開けてみる。
ふんわり漂うチーズの香り。
短くて細い。あと少し固めだ。
パキッ ポリポリポリ
「しょっぱめで、すごいチーズ! スモークしたチーズって感じ」
これは酒に合う。間違いない。
しょっぱさがやめられない止まらない。
「どれどれ」
金子先輩も1本つまむ。
パキッ ポリポリポリ
「これ好きな味だ」
2本3本と食べ進める。
弁当そっちのけでスティック菓子を消費していった。
「ただいま」
「たでーまー」
高田・生丸両名が帰宅した。
高田先輩は仕事だろうけど、生丸さんはどこ行ってたんだろう。
深く詮索するつもりはないから訊かないけど。
「今日、ディスカウントストアのパートのおばさんから差し入れもらった。あの日だからって」
高田先輩が取り出したのは、やはり赤いあの箱。
「俺もあるぞ。パチンコの景品だけど」
生丸さんが出したのは、やはり緑のあの箱。
ジャケットのポケットから出したので凹んでいる。全部折れてるな。
というか、パチンコ行ってたのか。
「で、そっちは?」
テーブルに広がっているスナック菓子の数々。
興味の赴くまま食べ比べしていた。
9つすべて封が切られている。
口がしょっぱくなったらチョコを食べ、甘くなったら薫製を食べ、を繰り返していた。
「節制、って言葉を覚えような?」
寒々とした高田先輩の声に背筋が凍った。
ヤバイ、青筋がたってないだろうか。
にっこり笑っているはずなのに、目が笑っていない。
高田先輩のアルカイックスマイルは、晩秋の夜風より冷たかった。
著者が尊敬し、志の指針(?)とし、全力で応援しているあの方に関する著述があります。
当日夕方に思い立った割にちゃんとしたものができました。