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米が食いたい!  作者: 月湖畔
2 エピソード
14/28

とろ〜りチーズは夕方に

日曜の昼下がり。

特に予定もなく、居間のテレビでプロ野球の中継を見ていた。

居間には俺の他に金子先輩と生丸さんがいる。

応援球団が違えど、野球観戦は高田先輩も含めてみんな好きだ。

俺はパ・リーグの地元球団を応援している。

テレビでやっているのはセの方だけれど。


テレビでも楽しめるけれどやっぱり実際に球場で見る方が断然盛り上がる。

まわりの熱気に圧されるのもあるけれど、気持ちの高揚感が違う。

行きたいけれど時間がとれないし、なによりチケットが取れない。

ファンクラブ的なものに入会すれば取れやすいらしいけれど、そこまでは、ということで足踏みしている。

社会人になってからまだ行っていないので、そろそろ行きたいとは思っている。


先攻が3アウトで後攻と入れ替わる間、テレビ中継の特徴である今のプレイバックと解説・実況が流れる。

球場では応援団の曲も切り替わるんだよな。

先攻が1点先取して4回裏。後攻はまだ無点。

ちなみに先攻は生丸さんが応援している球団で、ランナーが帰ってきた時の生丸さんはうるさかった。

昼間からビール振り回さないでほしい。


実況アナウンサーからのフリでCMに切り替わる。


『のびーるチーズ!ジューシーチキン!』


デリバリーピザのCMだ。キャッチコピーの合間にコーラスが店名を叫ぶ。

6ピースに切られた円形ピザ、一切れ持ち上げられ引っ張られるチーズの線。

演出で上から降ってくるテリテリのチキンが跳ね上がる。

おすすめのエビたっぷりのシーフードがチーズの海を泳ぐ。

焼きたて熱々を主張するように表面が踊っている。

黄色と赤のコントラストが目に焼き付く。


『焼きたてお届け!』


微妙に韻を踏んだキャッチコピーが空腹を刺激する。

さらにここの特色である大サービスのアナウンスで心は決まった。

次の保険のCMに切り替わったが、頭は『ピザ食べたい』以外浮かばなかった。


「先輩、ピザ食べたくないスか」

「小石川、ピザ食べたくないか」




夕食はピザに決定した。

現在、仕事でいない2人にも連絡した。

一応この家の住人のグループチャットがあるので一括呼びかけになる。

いつもなら夕食は各自の自由となっているけれど、せっかくだしLサイズ2枚注文しようとなり、トッピングのリクエストを聞こうとした。

仕事中は無理でも休憩中に覗いてくれるだろう。



『夕食にピザ頼みます。トッピングなにがいいですか』


一文送るとすぐに既読がついた。


『シーフード。エビが入ったやつがいい』


「…………金子先輩。直で良くないですか?」

「そうか。いや、2人も俺の意見を知っていた方がいいだろう」

「ソーッスネ」


さらに既読が増える。


『ピザとかマジで言ってんの!?カロリーなめンな!』


蝦名さんだ。

かわいく怒っているスタンプが添えられている。

さらにメッセージとかわいくお願いするスタンプが。


『ニンニク多めの。あとチョレギサラダあると♡』


蝦名さんは辛党だ。

滅多に酒を飲まないが晩酌に付き合う時はつまみを用意してくれる。もちろん買ってくるやつ。

チョイスがだいたい辛い。

キムチとか唐辛子とか、とにかく頭に「ピリ辛~」とつくメニューばかり。

甘いものも嫌いではないらしいけれど、食事の席は辛党を主張する。

ニンニクオーダーということは、明日休みなんだな。


既読が増えない。

接客業の高田先輩は仕事中だから仕方がない。

先輩が好きそうなのを適当に選んでおこう。


俺の気分はトマトソースにチーズガッツリの気分だから、どれでも該当する。

あとチキンがいい。CMで見てからすっかりチキンの口になっている。

とりあえずスマートフォンでメニューを見る。

…………金子先輩も覗き込むから画面が小さくて読みにくい。


金子先輩からノートパソコンを借りて、一緒に居間で選ぶ。

1枚で4種類のトッピングが選べるメニューがある。

これなら好みが被らなくても好きなピザが食べられる。

ピザ生地にチーズが仕込んであるやつもいいが、チーズ増し増しピザもいい。

シーフードとチキンが両方食べられるメニューはないようだ。

どちらか妥協すべきか。


「金子先輩。シーフード1枚といろんな種類の中のエビマヨ、どっちがいいですか?」

「うん………………エビマヨ、だな」

「じゃあこれで」


エビマヨとチキンがある4種のピザを選択した。

サイズと生地が選べるページに飛んだ。

ピザの写真から湯気が出ている。凝っているな。

サイズはM・R・Lの3種類。

2枚頼むつもりだし、高田先輩は食べないかもしれないしRサイズにした。

生地も選ぶ。

フワフワのパン生地とカリカリのクリスピー生地があり、生地にチーズトッピングが選べる。

チーズインさせるしかない。

オプション料金が必要だけれども悔い、いや、チーズ分はぜひ上乗せして欲しい。

さらにトッピング2倍盛りもできるみたいだけれど、チーズイン生地ではなくなるのでとりあえずなしにしておく。

さらに下にスクロールをすると個別でトッピング追加ができるようだ。


「先輩、何か追加トッピングします?」

「うん……ハラピニオ、とはなんだ?」

「え?さぁ……」


俺も気になったのでスマートフォンで調べてみる。


「激辛の唐辛子っすね」

「却下だ」


同感だ。

せっかく美味いピザが激辛一色になるのは勘弁願いたい。

蝦名さんは喜ぶかもしれないけれど。


「カマンベール追加していいですか?」

「いいぞ。俺は、オニオン追加してくれ」

「了解」


マウスで追加操作をしていく。

1枚目はこんなものだろうか。

ところで4種のトッピングはなにがあるのだろう。

元があるはずなのでそちらをチェックしておこう。

1枚目をカートに入れ、ピザメニュートップページを開く。

エビマヨは、エビとコーンにマヨネーズだった。

まんまといえばまんまだが。

ふと、トッピング追加の横に先ほどにはなかったボタンが存在している。

まさか、と思い先輩が最初にリクエストしたシーフードのページを呼び出す。

これにもそのボタンがあった。


「せ、先輩!」

「どうした?」


自分のリクエストが注文できたので野球中継に戻った金子先輩を手招きで呼び寄せる。

気になるボタンを押して金子先輩に画面を押し付けた。


「これ、4種じゃなくてハーフの2種、いけます!」

「なんだって!?」


ハーフ指定ボタンを押すと、ピザの写真は半分になり、隣に空欄ができる。

そして、もう半分になるピザメニューの選択ができるようになった。


「小石川。さっきのキャンセルできないか?」

「マジっすか!?」

「ああ。4種に惹かれエビマヨを選んでしまったが、やはり!シーフードが食べたい!」

「…………わかりました。半分は俺が選んでもいいですか?」

「もちろんだ」


1枚目はシーフードとチキンの2種ハーフ(チーズイン生地)に決定した。




さて、宅配でなく店舗まで受け取りに行けばおまけでもう1枚もらえるというサービスがある。

もちろん使わない手はない。

なにがいいだろうか。

デリバリーメニューを選ぶときはワクワクするものだ。

UberEatsとかフードデリバリーを頼んでみたい気持ちもわかる。

都心はともかく、この辺りでもやっているのか?

調べてみよう。


先ほどチョイスした4種のピザは候補から外す。

シーフードとの葛藤の上だったので、エビマヨをわざわざ選ぶ必要はない。


そういえば、生丸さんが静かだ。

ビール片手に野球を見ている。

いつもなら騒いで自分を優先させようとするのに。


「生丸さんはいいんですか?」

「あぁー?あー……じゃあ、サイドメニューの揚げ物」

「じゃなくてピザですよ、ピザ」

「………………おまえの好きに頼めば?」


何でもいいは一番困るんだって。

実家の母親がよく言ってたな。

今、母さんの気持ちがわかった。

ごめん。今度はちゃんとリクエストするよ。


「じゃあ適当に選んじゃいますよ」

「おー」

「金子先輩もいいですか?」

「ああ、頼む」


ちょうどいいところだったらしく、視線はテレビに釘付けだ。

生丸さんが食べるようなもの、肉多めなピザをチョイスし、蝦名さんリクエストのガーリックを増し増しトッピングをつける。


あとはサイドメニューだ。

蝦名さんはチョレギサラダ、生丸さんは揚げ物。

サイドメニューは揚げ物が基本。あとパスタ。スイーツもある。

一口に揚げ物といってもフライドチキンに唐揚げ、ポテト。

ピザがチキンなのでポテトにしよう。

ソースが選べる仕様なので、誰もが好きなバターをチョイスする。

飲み物は、途中のコンビニでビールを買おう。

コーラもいいけれど今はビール一択だ。


受け取り時間を指定して、注文確定ボタンをクリックする。

これで完了だ。

蝦名さんの帰宅予定に合わせて、受け取りは2時間後にした。


初めてではないのにわくわくする。

いつ以来だろう。大学の同期と集まった時くらいぶりだ。

この家で食べたことなかった。

食パンにケチャップ塗って、ベーコンとチーズを散らしたピザトーストなら朝の定番で食べるのだけれど。

1人前だし、みんなで囲んでというシチュエーションになったことがない。

なぜだろうかと考えてみる。


普段の食事は各個人でバラバラ。

一番時間が合うのは俺と金子先輩、時期によって蝦名さん。

生丸さんが家にいることが珍しい。外で済ましているのか食べない日もある。

高田先輩はシフトによって早番だったり遅番だったりするので、一緒になるのは週に1日2日。ほとんど遅番シフトなので帰りが日をまたぐギリギリが多い。

接客業とサラリーマンのスケジュールはかなり違うのだ。

同じゼミを取っていたはずなのに。




家から徒歩15分。

駅に向かう途中、商店街の裏を回って大通りの横道にある持ち帰り歓迎のピザ屋。

車で来たかったけれど、残念ながらアルコール接種者しかいなかったので一人徒歩で向かった。

それ以前に車持ちは蝦名さんだけなので無理な話ではある。

1台分の駐車スペースは蝦名さん専用だ。

今まで乱雑に自転車やガラクタが置いてあったので、蝦名さんの引っ越しを機に庭掃除をした。

できたてのピザを受け取り、店を出た。


「イチローくん!」

「蝦名さん」


入口に一番近い駐車場に停まっている車から蝦名さんが顔を出した。

「乗れ」というので助手席側の後部座席に座らせてもらう。

帰宅ついでに迎えにきたらしい。


「スゴいニンニク臭い」

「ニンニク増し増しですから」

「素敵すぎ♡」


バックミラー越しにウインクされたが、男とわかっている相手だけに少し複雑になる。

美人、なんだけどな。

ちょっと残念だ。


助手席に大きな買い物袋が鎮座している。

すでにコンビニに寄ってビールやらつまみやら購入済みだと言う。

文句が多い割に楽しみにしていたらしい。

ツンデレってやつなんだろう。

15分も歩いていれば冷めてしまうのでありがたい。


あっという間に家に到着する。

車いいな。金が貯まったら買おう。


玄関開けたら2分でご飯。

いや、もうご飯はできている。

なぜならピザだから!


テンションが高くなる。

仕方ないじゃないか。

ピザが嫌いなヤツなんていないだろう。

和食派の俺でも無性に食べたくなるんだから。

カリッとした生地の上にトロ~としたチーズ、じゅわっと湧き出る脂、スパイスの利いたソースとのマリアージュは最高!

端に潜んでいるチーズで最後まで飽きさせない嗜好の食べ物ではないだろうか。

早く食べたい。


テーブルの上に並べる。

ピザ2枚とサラダとポテト。

蝦名さんが買ってきた飲み物とつまみ。

平たい紙パックの蓋を開けるとこもっていた湯気が上がった。


シーフードとチキンのピザ。ソースはトマト。オニオン多め。モッツァレラチーズ増し。

もう1枚は、4種の肉スペシャル、ニンニク多め。ビーフに釣られた。

両方とも生地の端にチーズが挟まっているオプション付き。

冷めてしまうと固くなってしまうのでさっそく食べる。


まずはチキンピザ。

あつあつの生地の端を持ち引っ張る。

チーズが中央で絡み合って離れないところは、スプーンですくって生地の上に乗せる。

丸めた方が食べやすいだろうが、そのまま三角錐の端からがぶりと一口頬張る。

熱い!でも美味い!

謳い文句は嘘じゃない。肉はジューシー、チーズはとろ~り。

照り焼きチキン最強じゃなかろうか。

トマトソースにマヨネーズが混ざり合い、コクが出て食欲が進む。

くどいけれどビールで流せばいくらでも食べられそうだ。

黙々と食べ進み、チーズイン生地にたどり着く。モチモチして美味い。


「シーフードもらっていいスか?」

「食べるがいい」


ビーフのピザを頬張っている金子先輩が力一杯頷く。

シーフードリクエストしたのあんたなんだけど、食わねぇのかよ。

散らばっているのはエビ・タコ・ホタテなど具沢山。

具が多いピースを選ぶ。

プリプリのエビに歯応えの良いタコ、噛むとジュワッと旨味が広がるホタテ。

多めのタマネギが旨味を吸って柔らかく弾ける。これは贅沢だ。

金子先輩、グッドチョイス!



「真澄ちゃん、サラダちょうだい」

「お皿とってきなさいよ」


チョレギサラダを独り占めしていた蝦名さんに生丸さんが声をかける。

肉党の生丸さんが野菜をほしがるなんて珍しい。

それに、生丸さんが注文したポテトが減っていない。


「生丸さん、ポテトもらっていいですか?」

「おらよ」


箱ごと寄越された。

食べないのだろうか。

それに、ピザ、食べてない?

皿には取り分けてもらったサラダの他に、蝦名さんが買ってきたつまみしか乗っていない。

あとはひらすらビールをあおっている。


「ごちそーさん」


生丸さんは結局1ピースも食べないまま2階へ上がっていった。

嫌いなものでもあったのだろうか。

人がせっかく買ってきたのに失礼な人だ。






日付が変わる手前に高田先輩が帰ってきた。

帰ってくるなりテーブルを見て顔をしかめる。


「……健吾は?」

「さあ?食べてる途中で2階に行っちゃいました」

「……なんか食ってた?」

「ずっとビール飲んでましたよ。サラダとコンビニで買ったあたりめとか食べてたかな」

「そうか」


ひょい、と少しだけ残っていたポテトを口に入れる。


「これって、バターかかってんの?」

「?はい」

「これ食ってた?」

「生丸さんですか?多分食べてないと思いますよ?」

「ふーん」


念のため、ピザもポテトも残している。

高田先輩の夜食と生丸さんの分を。


「小石川」

「はい?」

「あいつが、アレルギー持ちって知らなかったのか?」

「………………え?」


アレルギー?なんのだ?初耳だ。


「牛乳、バター、チーズ。乳製品食えないぞ」


そんなこと……


「しら、なかった……です」

「あいつも言わないだろうから、お前が悪いわけじゃないけど」


様子がおかしいとか思っていたけど、まさかそんな理由だなんて思うはずないだろう。

嫌なら嫌って、いつもみたいに騒げばいいだろう。

俺たちが騒いでたから?

変なところで気を遣ってんじゃねえよ。


「ピザは明日食うからアルミに包んで冷蔵庫入れといて」

「……はい」




2階に上がっていく高田先輩の背中を見送る。

ポテトの最後の一切れを口に入れた。

冷めて硬くなったポテトはくどくて、変に甘かった。

次回更新にちょっと続きます。

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