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米が食いたい!  作者: 月湖畔
2 エピソード
11/28

家庭の味はカレー 後編

カレー後編

※実際に事故ったわけではありません

「ただいま〜」

「おかえりなさい」

使った器具を洗っていたら真澄先輩が帰ってきた。

後回しにするとまた高田が怒るしな。ここにあるものはほとんど高田のものだし。

「いい匂いねぇ。カレー?」

「はい。俺たちが作りました」

「私も食べていい?」

「もちろん。先輩の為に作ったようなものですから」

きっかけは先輩だから間違いではない。

先輩が着替えている間に洗い物を済ませ、3人分のカレーを皿に盛る。

炊きたてほかほかの白米の山にとろりとできたてカレーを流す。

白米山を富士山と見立てるなら、カレーは富士山の裾野に広がる湖。

……ダムのがよかっただろうか。

あったよなダムカレー。テレビでやっていた。

「せんぱーい。食べ物で遊ばないで下さーい」

「すまん」

ダムはないな。具が大きすぎて流れない。


盛ってから気づいた。福神漬けとらっきょうの存在を。

カレーのことばかり考えていて、付け合わせを買っていなかった。

仕方がないのでたくあんを添える。

同じ漬け物なのでこれもありだろう。

よし、いい感じだ。

せっかくの初カレーだから写真に収めようか。

これを機にSNSを取って投稿してみるのもありか。

「いいね」?がもらえるのがステータスだったか。俺にはわからんシステムだが。

「あら、ありがとー……ねえちょっと」

部屋着に着替えた真澄先輩が席に着くなり不機嫌な声を出した。

なにか嫌いなものでもあったのだろうか。

「なんでたくあんが乗ってるの?」

「福神漬けのかわりに」

「ご飯多くない?」

「カレーがメインですから」

「……副菜なし、ってことね」

カレーは具沢山で汁気もある万能食。問題あっただろうか。

「……いいわ。いただきまーす」

「いただきます」


まずはスープ(?)だ。白米と絡めスプーンで口に運ぶ。

ルーは中辛と書かれたものを選んだ。

甘くもなく、食べれない程辛くもない。

スパイスが舌を刺激する飯が進む辛さだ。

そして具。タマネギ、ジャガイモ、ニンジンは、

噛む度ショリショリ音を立てる。

熱を感じるので火は通っているはずだが、カレーの具とはこんなものだっただろうか。

しかも1つ1つが大きいので顎が疲れてきた。

肉は自信がある。なんといってもステーキ肉だからな。

炒めている時分で美味しそうな匂いがしていた。

「…………」

食感を音にするなら『ぐにゅ』だろうか。

ステーキとして食べるなら間違いなく美味いんだと思う。

ただし、カレーの具としてここにいる肉は、不味くはないが、違和感がすごい。

ステーキなら美味い肉汁は、カレーに混ざると血肉の生臭さで旨味が死んでいる。


「ねえ、ジュンくん」

「はい」

目が据わった真澄先輩に呼ばれただけで、何が言いたいか伝わった。

先輩はすでにスプーンを置いているし、コップの水もなくなっている。

小石川は、具をよけて完食していた。

おそらく感想は全員一致している。

「味見、した?」

「いいえ」

「レシピ、見ながら作った?」

「もちろん」

「ホント?イチローくん」

「はい。ちゃんと見て作りました」

真澄先輩は、台所立ち入り禁止にされるほど料理の腕は壊滅的。

小石川は、去年まで実家暮らしで料理初心者。

俺は、まともなカレーすら作れない。

「……………………」

沈黙するしかなかった。

「とりあえず……高田先輩になんとかしてもらいましょう」




2時間後、高田が生丸を伴って帰ってきた。

パチンコに行っていた生丸と途中で一緒になったらしい。

「おっ、カレーか?食う食う」

食事をとっていなかったようで、匂いで空腹を感じたらしい。

カレーは食欲を刺激する匂いだしな。

「イシ、カレーくれ」

「自分でやってくださいよ」

「早くしろよ」

どかっと椅子に座り、小石川を顎で使おうとする。

「健吾。俺がやってやるから手ぇ洗ってこい」

「……おー」

見かねたのか自分も食べるついでか高田が台所に立った。

いや、ちゃんと洗えてるかチェックしてるんだな。

冷蔵庫の中身まで見なくていいだろう。買ったものしか使ってないんだから。

「金子」

「な、なんだ?」

「包丁は水気を取ってから片付けろ」

「すまん……」


再加熱したカレーライスが生丸の前に出された。

1人前?高田は食べないのだろうか。

「うまそーじゃん」

スプーン大盛りで頬張る生丸を高田はじっと見ていた。小鍋でお湯を沸かしているようだが、カレーは食べないんだろうか。

真澄先輩と小石川はすでに自分の部屋にこもっている。

真澄先輩は早朝会議があるから寝ると、小石川はとばっちりくうのは嫌だと言っていた。

小石川はいつも絡まれて迷惑しているようだから逃げても罰は当たらないぞ。

「っっっっかっら!!」

手が水を求めていたのでグラスを渡してやる。

やっぱり辛いか。溶けてないルーの固まりが結構あったもんな。

「ンだこれ!?具ぅかたっ!肉も生じゃん!?」

スプーン1杯ごとに文句が出るわ出るわ。

俺も同じ感想だったが。

「はぁ……」

高田が大きなため息をついた。

冷蔵庫の冷凍室からいくつか取り出して小鍋にぶっ込んだ。

3分くらいでザルにあけ、同じ鍋にカレーを5杯移し、冷蔵庫から出してきた何かを2つ入れて火にかけた。

「何作ってんの?」

「カレーうどん」

「ズッル!俺も食う」

「だと思ってお前の分もある。どんぶり取ってこい」

「へーい」

高田の手元を覗き込んでいた生丸が嬉々として高田の言うことを聞く。

生丸がこの家に居着いたきっかけは高田が誘ったからだと聞いていたんだが、なんというか……


仲が良いな。うん。


ともあれ、食い辛いカレーをどうリメイクするか興味がある。

「何したんだ?」

鍋の横には、麺つゆと豆乳パック、ザルの中には冷凍うどんと冷凍庫に眠っていたきざみネギときざみ油揚げが湯気をたてていた。

ネギはつまみにちょい足しするためよく買ってくるんだが、いつも余る。そして気づくとジッパー付きの袋に入って冷凍されている。

薄々気づいていたが高田の仕業だったのか。

「辛いっつーから豆乳で伸ばして麺つゆで整えただけ」

「ほう。俺も分けて……」

「2人分しかない」

「……そうか」

辛さは豆乳で緩和するのか。

「豆乳なんてあったんだな」

「先輩の。ちょっとくらいいいだろ」

なんて勇気があるヤツなんだ。高田しかできんな。

豆乳でいいなら牛乳でも代用できるな。『乳』とついてるし。なら他の乳製品でも……

「…………こっちもあとで手ぇ加えてやっから何もすンな」

「了解だ」

高田がやってくれるなら俺の出る幕はない。


煮立ったリメイクカレーにザルの中身をあけ、絡ませるように数度箸を動かす。

用意されたどんぶりに盛る。

めんつゆが加わり匂いがあきらかにまろやかになった。

どんぶりが白い所為か、リメイク前より黄色く見える。

平たく言えば、何倍も美味そう、いや美味いに違いない。

少し加えただけで全く違う印象だ。

やはりチョコレートを加えておけば良かったんじゃないか?




翌朝、まともなカレーが食えたのは言うまでもない。

次回もほんのり続きます。

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