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ネトゲの中のリアル  作者: 海蛇
5章.正体不明のお姫様(主人公視点:サクヤ)

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#8-3.城主バケツ姫

「あ……皆さん、お戻りだったんですね。こんにちは~」

そしてひょっこり運営さんが現れる。いや、ひょっこりというか、ちょっとのそのそというか。

なんかいつもと違ってけだるげに歩いてきた。

「どうしたんだよ運営さん。なんか死にそうな顔してるぞ?」

「お疲れなんですか……?」

皆で運営さんの方を向くけれど、運営さんはぽりぽりと頬を掻きながら、私の隣へと座って、「はう」と、一息。

少し間をおいて、ゆったりと私たちを見渡す。

「なんというか……調べものが沢山ありましてね? 運営サイドに問い合わせたいことが多かったので、ちょっと疲労感が……」

そこまで語って、くったりと俯いてしまう。

よほどお疲れなんだろうか。でも『調べもの』っていうのがちょっと気になった。

「あの、もしかして、調べものって……バケツ姫関連ですか?」

「ええ、まあ……」

質問してみるも、運営さん、くったりしたまま顔を挙げようともしない。

そんなだから、あんまり話しかけるのは悪いかなあ、なんて思ってそれ以上聞くのを躊躇してしまったのだけれど。

「なんか解ったのか? あのバケツ兜とか、記憶喪失関係とかよ」

「ドクさん達もバケツ姫と会ったんですか……解ったといえば解ったんですが。解らないことが増えてしまったというか。はあ……頭痛い」

ふるふると小さく頭を振りながら、ドクさんの質問に答える運営さん。

ようやく頭をあげて、虚ろな瞳で口元をにや、と引きつらせる。

「あの兜ですけど、『パンドラの黒兜』っていう防具です。非常に高い性能を持ってるんですが、装備すると呪われて装備が解除できなくなったり、被る前までの記憶やスキルの部分欠如が起きるようになってしまうらしいんですが」

「やっぱり記憶喪失はあの兜の所為だったんですね……」

この辺りは大体推測が出来ていたことだけれど、運営さんの顔は晴れない。

「まだ何かあるのか?」

「んん……これ言っていいのかなあ。まあ、実際に目にした以上いつかは解っちゃうかもしれないから教えますが、あの兜……まだ実装されてないんですよ。サーバのデータ上にのみ存在してる装備で――」

少し迷った風に指を噛みながら考え、ぽそりと呟くソレは、私たちの想像を斜め上を行っていた。


「未実装アイテム……?」

「見たことない兜だと思ってたが……データ上にしかない装備だったのか。どうりで」

レナさんもドクさんも驚いているみたい。というか、私だって驚く。

装備品に疎い私だって、未実装アイテムと聞けばそれがどれくらいすごい装備なのかくらいは解る。

レアとかそういう問題じゃない。『ないはずの装備』なのだから。

「バケツ姫は『空から落ちてきた』と教えられたらしいですが……」

「私もそう説明されましたけど……どういう経緯でそれがゲーム内に存在して、それが彼女の頭に被さったのかははっきりと解りませんね……こっちは運営サイドに問い合わせても『ノーコメント』だそうで」

これに関してはお手上げらしい。実際に運営さんは両手を上げて困ったような顔をしていた。


「それから、もう一つ――これはあのお姫様の正体に関わる事だと思うのですが……色々とデータ上、不思議なことが起きてるらしいんです」

「不思議な事? どういう事だ?」

兜についての謎が広がった後に、今度はお姫様自体の問題へと続いていく。

思わぬミステリーな状況。皆して一度顔を見合わせて、また運営さんへと視線を向ける。

「まず、あの方たちが主張する『古城とラムの街の主権』なんですが……実は、ゲームデータ上、確かにあのお城と街の持ち主が、あのお姫様で登録されてる……らしいんです」

「……えっ」

「なんだと?」

思わずドクさんと顔を見合わせてしまう。

えっ、何それ、みたいな。

「ノーマナー行為になるんじゃないかなあって、マップの占拠に関して一応確認しようとして問い合わせたんですけどね……? プログラムされている古城と街のデータログに、いつの間にか『所有者』の欄が追加されていて。そこに名前が書かれていたらしいんです」

「名前って、その、バケツ姫の名前がか? なんて名前なんだ?」

「すみませんそれは……私も教えてもらえなくて。『プライバシーに関わる事』として、直接は教えてもらえませんでした」

とってつけたようなプライバシー宣言。

だけれどこれは……なんか、想像した以上にすごいことになっている気がする。

だって、ただのロールプレイだと思ってたら本当にお姫様でした、とか、そんな感じになってしまうのでは?

「……どういう理由でそんな事が起きてるのかは解らんが、運営サイドはそれについてバグだのチートだのを疑ってはいないのか?」

「疑っていないみたいですよ? だって、もしチートならあのお姫様や騎士の人たちは即座に『データの不正使用』扱いでデリートされてしまっているでしょうし――運営サイドなら、プレイヤー個人の初ログインから現在までの詳細な行動ログがすべて筒抜けになるはずですから」

「つ、筒抜けになっちゃうんですか……?」

今運営さんがすごく怖い事をさらっと言ってた!

いや、これゲームだし、運営相手だとプライバシーなんてないのは解ってるけど。解ってるけど怖すぎる!!

「基本的に私たちの存在や行動ってデータですからね。何かすればそれは記録として残りますし、検索も容易なはずです」

私たちにはできませんが、と、手をわたわた振りながらにっこり微笑む。

どうやら調子が戻ってきたらしい。

話の流れ的に、もうちょっと大人しくしていてくれた方がありがたいのだけれど。


「まあ、いろいろ思うところはあるが、データとして実証されたのなら疑いようはない訳か。バケツ姫は古城とラムの街の所有者、と」

「ええ。運営サイドがそれでOKな以上、私たちは文句を言う権利はありませんので――ただ、なんであんな所があの人たちの拠点なのかが解らないんですよね。お城っていうだけならリーシアにだってある訳ですし」

「ああ、なんかよく解らん王様が居座ってるアレだろ? 確かにあっちの方が便利だもんな」

「あのお城って王様がいたんだ……」

リーシアの奥の方、ちょっと離れたところにある王城。

街からも見えるので目立つのだけれど、用事もないしわざわざ行くのも微妙に面倒くさそうだしで私は放置していた。

でも、そんなところにも王様がいるのはちょっとした驚き。

「あの王様はプレイヤーらしいですけどね。『物語の王様のロールプレイしたいから』で王様を名乗ってる間に自然と皆に受け入れられたらしいです」

バケツ姫と同じことしてる人が意外と近くにいたとは思わなかった!!

まんま同じじゃない、なんて。

「だが、王城なんて全然行かないから今の今まですっかり存在を忘れてたぜ」

「プレイヤーでも王城に用事のある人なんてほとんどいないもんね。たまに初心者が紛れ込むくらいかな?」

そしてドクさん達にとってもやっぱり影が薄い儚い存在だったらしい。

まあ、だって、用事無いといかないもんね。そんなところ。


「ルール上問題がない以上、あの人たちが古城や街を自分たちのものとして扱うのは問題ないのですが……問題はこれからあそこを訪れるプレイヤーとの軋轢(あつれき)なんですよねぇ」

はぁ、と、またぐったりした表情になって大きなため息をつく。

折角かわいいのになんていうか、仕草一つでちょっと残念な人に見えてしまう不思議。

「一応告知はしますけど、そんなの納得してくれる人ばかりとはいかないだろうし……これ、運営サイドが一斉告知して『そういうことなんですよ』って言ってくれれば一発なんですけどねー」

「知らずに入り込んで喧嘩してギルド間戦争に、みたいなのが一番洒落にならんな」

「構成員全員最上位職とか上位のボス狩りギルドでも攻め落とせないだろうけどね……でも、悪評になっちゃうよねそれは」

誤解から喧嘩に、なんてのは確かに笑えないし……それに何より、哀しすぎる。

でもトーマスさんとかは打ち解けないと結構威圧感あるし、血の気の多い人たちだと喧嘩にまで発展してしまいそうで怖い。

「はぁ……問題山積みですよぉぉ……なのですみませんが、何かあったらまたお願いしますね……はぁ~~~帰ります」

のったりくったりと立ち上がりながら、運営さんはそんな呪いの言葉を吐きながら、またクテクテと歩き出す。

「お、お疲れ様です……」

「頑張れよ」

「強く生きるんだ」

大変そうだなあ、と思いながらも、三人が三人、苦笑いのまま運営さんを見送る。

とぼとぼと歩いていた運営さんは、やがてたまり場から少し離れたところで姿が見えなくなった。



「……なんか、いろいろ起きそうだな」

運営さんがいなくなってから少しの間沈黙が流れていたのだけれど。

やがてドクさんが口を開くや、また空気が流れ始める。

「まあ、なんにもなさ過ぎても退屈してしまうよ。たまにはこういうのも、いい」

「そ、そうですか……? なんだか私、驚きすぎて疲れてしまいました」

昨日から色々な事が起き過ぎて、いい加減落ち着いてくれるとありがたいなあとか思ったりするのだけれど。

「でも、君は当事者の一人だよ。少なくとも我々の中では一番、あのお姫様に近い。接点も強い。だから、お姫様関連で何かあったらほぼ間違いなく、君は巻き込まれると思う」

「う……や、やっぱりそうなりますよね……大丈夫かなあ。ちょっと不安です」

私一人の力は、まだとっても弱い。

ドクさんやセシリアさんみたいに強くなりたいとは思うけれど……どうやったらそこまで到達できるのかすら解らない段階で。

そんな私が問題に巻き込まれたら、やっぱり誰かに助けを求める位しかできないように感じてしまうのだ。

「なぁに、案外なんとかなるさ。ならないようなら助けを求めればいい」

「そうだよ。サクヤには私たちがついてる。それにエミリオやメイジギルド――色んなところに伝手(ツテ)があるじゃないか。もっと胸を張っていいと思うよ。それはとても大切な力だ」

この人たちに言われると、なんとなくそんな気がしてしまう。

単純なのかもしれない。前もそんな事があったような。

「そ、そうでしょうか……? じゃあ、やってみます! 頑張ってみます!!」

だけど、思い込みでもいい。

そう言ってもらえた以上『頑張りたいな』と思った。


-Tips-

所有権 (ルール)

『えむえむおー』ゲーム内での家屋・店舗・土地など物件の所有権の多くは、原則初期の状態では特定NPCの所有、および所有者不在で固定されている。

プレイヤーが正式な手段でこれらの物件を求める場合、以下のいずれかの手段を用いる必要がある。


1.所有者に対し直接交渉によって購入および譲渡してもらう。

2.クエストなどによって特定の条件を満たし、物件管理を行っている街や村などの特定NPC・PC(村長や物件管理官、国王など)から譲渡してもらう。

3.運営サイド主催のイベントでの活躍や日常的な善行が評価されることによって、運営サイドよりプレゼントしてもらう(プレゼント内容はハイレベルレアアイテム・物件・有益情報の中から一つ選べる)。


基本的に店舗や家屋などの一般的な物件に関しては1の手段で十分手に入るが、大型の邸宅や砦、城塞、塔などの特殊物件は2や3でなくては獲得することが難しい事が多い。

いずれも一度獲得してしまえば権利を手放すか死亡するまでは権利獲得者の所有物件となる為、拠点として当初の目的として物件を求めるプレイヤーは多い。


尚、合法的な上記の獲得手段とは別に、数を頼みに廃墟マップや村の一角などを不法占拠するプレイヤーも存在しているが、こちらは度を越した場合処罰対象になりうる為注意が必要である。


ただし、単にたまり場として使っているだけのプレイヤーややむをえず廃墟に住まわざるを得ないプレイヤーなどとの線引きが難しく、これら不法占拠はマナー違反とルール違反の境界の、グレーな問題として、運営サイドでも難しい扱いをされている。

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