#8-2.恥じらい照れ笑いマジシャン
「そういえば、運営さんがこちらに来たって聞きましたけど……?」
このままどんよりとした会話をするのもなんなので、と、話題逸らしを狙ってみる。
「そういやそんな事も言ってたな。実際何か言われたのか?」
「私も気になってたところだよ。誰も話題に出さないから聞きにくかったけど」
うまい具合に逃げ道を探していたのか、ドクさん達も話題に乗っかってくれる。心強い。
「運営さんですか? 私たちの所属や活動内容、目的を聞きに来たようですが……何やら、顔を引きつらせてらっしゃいましたね」
「まあ、解らんでもない」
「あははは……」
古城を占拠したバケツ兜の騎士団とお姫様なんて集団見てしまったら、そうなっても仕方ないと思う。
流石に本人の前でそれを肯定するのははばかられたので笑ってごまかすけれど。
運営さんも苦労してるんだなあとしみじみ思わされる瞬間。
「一応、この兜や記憶喪失の件も運営さんに説明して、それについて調べてもらえる事にはなったのですが。ただ、『あまり期待しないでください』と言われてしまいました」
「まあ、あいつらもできる事ってのは限られてるみたいだからな。運営サイドと近しくはあっても権限がある訳じゃないからなんでも自在に、とはいかんよなあ」
運営さんは運営さんでバケツ姫の事を調べてるらしいけれど、果たしてどうなるやら。
いろいろ気になるけれど、それでも苦しんでるなら早く解決したらいいなあ、と願わずにはいられない。
「でも、サクヤさんというお友達もできましたし。この状態も、あながち悪い事ばかりではありませんわ」
そしてまさかの不意打ち。ずるい。バケツ姫ずるい。
私が身構える前にいきなり話振るのとかひどい。バケツ姫ひどい。
「えっ? あ、う、うん、そう……ですよね?」
おかげで変な返ししかできなかった。すごく恥ずかしい。死にたい。
「バケツ姫よ」
そうしてドクさん、何やらうんうんと頷きながら腕を組む。
「はい、なんでしょうか?」
バケツ姫も呼ばれるままにドクさんの方を向いた。
私たちの視線もドクさんへ。
「サクヤは予想外の事が起きるとパニックに陥るから、あまり不意打ち気味に話しかけるのは……」
「――っ!?」
私からすれば、ドクさんのソレも十分な不意打ちだった。
顔が熱くなっていくのが解る。恥ずかしい。なんで私はこんな役ばかりなの!?
「まあ、そうなんですか? ごめんなさい、私ったら。これからは控え――」
「いや、これからもどんどん不意打ちしてやってくれ。可愛いから」
ドクさんはひどい人だった。
「私もそう思う」
そしてドクさんだけじゃなくレナさんまでけしかけてきた。
ひどい。このギルドひどい。恥ずかしい。
「――よろしいのですか?」
「よろしくないですっ」
もう涙目になってるのが解る。
バケツ姫もバケツ姫で素直にそれを受け入れようとしないでほしい。
だって、そんな、解るでしょうに。
照れてるんですよ恥ずかしいんですよ穴があったら入りたいくらいなんですよ!?
「サクヤはもう少し打たれ強くなるべきなのだ。普段は何てことないが予想外の事とか想定外のタイミングとかで何かが起きると途端に大混乱に陥るからな。少し慣れといた方がいい」
「意外と冒険にも響くしね。まあ、だからとドクさんみたいになられても困るが」
大先輩二人による洗礼だった。確かにメンタルは強くしないといけないなあとは思うけど。思うけど。
何もこんな時に言わなくてもいいのに。ああもう恥ずかしい。
「くすくす……お二人は、それだけサクヤさんの事を大切に思ってらっしゃるのですね?」
バケツ姫は笑っていた。表情は解らないけど、声色を聞けばすごく楽しんでそう。
こんな私たちだけれど、バケツ姫にとっては面白い何かを感じていたのかもしれない。
「ま、ギルメンだからな」
「何よりの宝だもんね。だからこそ、変な事を言うこともあれば成長を促すことだってする」
ドクさんとレナさんの言う事、すごく身に染みて……恥ずかしいというか、なんだろう。むずがゆい。
「……はっきり言われると恥ずかしいですけど。ギルドの人たちにはいつも大切にされてる、気がします」
そう、大切にされているのだ。
エミリオさんと狩りをするようになっても、なんだかんだギルドの人たちと狩りに行くことは多かったし。
たまり場に行けば、いつだって笑顔で迎えてくれる誰かがいる。
お喋りしてるところに行けば、嫌な顔一つせず混ぜてくれる。
すごくおバカなことをやってるけど、そうやって笑わせてくれる。
そうして、私が聞けばなんでも教えてくれて、聞かなくても色々教えてくれて。
だから、私はこのギルドが大好き。この人たちが大好き。
「私もトーマス達に大切にされていますが、サクヤさんとは親近感が湧いてしまいますね」
カラコロと兜を揺らしながら立ち上がり、楽しげに私の方へ手を出してくるバケツ姫。
「……えっと」
なんとなしに、私もその手に両手を預けてしまう。
そうして、ぎゅっと握られるのだ。
「ふふっ――私たち、きっといいお友達になれますわ。エミリオさん達も一緒に――これからが、楽しみです」
兜越しに聞こえてくるバケツ姫の声は、やっぱりどこか聞き覚えがあるような声で。
だけれど、その声は私が聞いたこともないような、慈愛溢れる優しげなもののように感じていた。
「なんだかんだ夕方までお邪魔してしまったな」
「そうですね……」
時間が経ち、たまり場にて。
お茶会から戻った私たちは、いつもの位置に座りながら、お茶会の感想なんかを口にしていた。
「中々楽しいひと時だったね。あのお姫様、かなりいい人だと思うよ?」
「ああ、俺もそう思う。疑問に思ったことは多いが、あのお姫様やトーマス達が悪党だとは思えんな」
これに関してはお二人も同じ感想らしくて、ちょっと安心する。
「お喋り、楽しかったです」
最後の方はもう、あんまり関係のない雑談とかばかりしていた気がするけれど。
なんだか普通の友達と普通におしゃべりしてるだけみたいな感じで、それはそれで楽しかったのだ。
ギルドの人たちとしているのとはちょっと違う、リアルなお茶会のような、そんな感じ。
喫茶店のテラスとかでお姉さんたちが楽しそうにお茶をしてるような、そんなのとちょっと背伸びしたような雰囲気を味わえた気がする。割と満喫。
-Tips-
忘れられた古城(場所)
廃都ラムの中心部にそびえる古びた城。
古くからあるのか、その正門は固く閉ざされ、窓や街からの秘密通路などを経由しないと入る事さえできない。
非常に強力なボスモンスターである『黒騎士バルバス・バウ』が闊歩し、上位モンスターも数多くうろついているが、ところどころ上等な装飾がなされており、廃墟マニアにはたまらない穴場となっている他、バルバス・バウを始め上位モンスターの落とすレアドロップ欲しさに狩りに訪れるパーティーも少数存在している。
主なモンスター:少尉、中尉、大尉、ウォーフリークス、バッキンガム、ブラックワイズマン、ダークエレメンタル、レッドドラゴン
ボスモンスター:黒騎士バルバス・バウ




