#7-1.ロイヤルガード
結局、私たちはトーマスさんと一緒にラムにきていた。目指すは古城。
悪いことをするつもりもないみたいだし、お茶をするくらい、別に嫌なわけではないし。
ただ、「お茶会催すならもうちょっと事前に言ってほしかったなあ」と、急すぎるそれに戸惑いはあったけれど。
幸い、ドクさんもレナさんも面白半分で一緒に来てくれるという事で、怖い目に遭うことはなさそうなのが救いというか。
因みにマルタさんとエミリオさんは姿が見えないので今回は私たちだけの参加になる。
「しかしなんだな……街だけでも大概だが、古城なんて結構強いモンスターも湧くだろうに、よくこんなところ拠点にしようと思ったな。事情は解らんでもないが、不便すぎるだろう」
拠点として考えるにしても、最寄りの街であるセントアルバーナから転移で来ることはできても、転移でセントアルバーナに戻ることができないし、自力で転送する手段がなければ、倉庫利用すら一苦労。
更に街だけじゃなくお城の中にもモンスターが普通に湧くし、ボスモンスターまで出るのだから、ドクさんが呆れたように言うのも無理はないと思う。
正直、冗談にしか聞こえない。
「実はな……古城に生息するモンスターのリスポーン設定。これにはどうもマップボスに関連して固有のパターンが存在するらしいのだ。これは姫様が長期間、バルバス・バウを狩り続けたからこそ気付けたことなのだが――」
バケツ兜を取り戻したトーマスさんは、神妙な口調で隣を歩くドクさんへ顔を向ける。
「リスポーンにパターンが……? それが本当ならすごい発見だが……本当なのか?」
私にはわからないけど、ドクさん的にはすごい驚きだったらしく、目つきが鋭くなるのが、後ろからでも見えた。
同時に、口調が真面目になっていくのも。雰囲気ががらりと変わっていくのだ。
「ああ。サクヤ、と言ったか? 君たちが戻った後、運営さんがきてな……これについてはすでに報告済みだ。彼女も驚いていたよ」
「サクヤの居場所を君が知っていたのも、運営さんから漏れたから……?」
「まあ、そうなるな。姫様が情報として欲したので、情報交換という形で教えてもらったのだ」
運営さん……
所属ギルドとかたまり場の場所って、個人情報として結構重要な事だと思うんですけど……?
バケツ姫達が悪い人じゃなさそうだから問題にはならないんだろうけど、運営さんは結構綱渡りな事をやらかしてる気がする。
「それで、肝心のリスポーンパターンってのはなんなんだ? それとお前らが古城を拠点にできているのと、何か関連性があるのか?」
話がズレそうだったからだろうか。ドクさんが間に入るような形で話を修正していく。
そう、大切なのはモンスターのリスポーン情報。
他にも応用できるような情報なら、廃墟マップでの狩りが楽になる可能性だってあるのだから。
「うむ。まず確認だが、バルバス・バウが健在時、古城のモンスターはかなり積極的に攻撃してくるのだが……逆に、バルバス・バウが消えた後は、奴らの動きはかなり緩慢になる。これは知っているか?」
「いいや、入るの面倒くさいし、狩場として選択することがまずないからな……そういう習性があったことすら知らなかったぞ」
「古城のモンスターは、バルバス・バウに少なからぬ影響を受けているのがこの事から解る」
ボスモンスターの影響を受け、性質変異を起こすモンスター。
私は今までそういうのを聞いたことがないのだけれど、古城のモンスターが上級ぞろいなのも影響しているのかな、なんて考えてしまう。
見れば、私の隣を歩くレナさんも神妙な面持ちで、静かに二人のやりとりに耳を傾けているようだった。
「そして不在の間倒されたモンスターは、バルバス・バウが復活するまでの間、リスポーンされることはない。つまり、バルバス・バウを倒した状態で殲滅してしまえば、一時的に古城内は平和な状態になるのだ」
「ボスモンスターが不在だとリスポーンしなくなるのか……いや、そんな話は聞いたことがなかったが、ほかの廃墟でも似たような状況になるのか? そもそも、マップ全体のモンスターを狩りつくすなんて、そうやすやすとできるとは――」
考え込むドクさん。ぶつぶつと何か呟くけれど、その間、誰かが口をはさむことはしない。
私も黙って、ドクさんなりの結論が出るまで待つ。
少しの間、静かな風が流れた。
「――まあ、なんとなく飲み込めた気がするな。それが固有のパターンなのか他所でも適用できるモノなのかは解らんが、お前らがここを拠点にできてる理由はなんとなくわかった気がする」
そうして、ドクさんの考えがまとまったあたりで、ぴたり、ドクさんとトーマスさんの足が止まった。
見上げれば古城。
そう、いつの間にか到着していたのだ。
「うむ。ボス狩りギルドはリーシア周辺にもいくらかはあるだろうが――現状、我ら『ナイツ』ほど、古城内のボス狩り・モンスター狩りに精通している集団は存在すまい。効率に関しても、な。何せ我ら全員――」
誰が手に触れたでもなく、勝手に扉が開かれてゆく。
そうして、トーマスさんが大仰に手を挙げ――その先にずらりと並ぶバケツ兜の騎士たちが、それに合わせ手に持った剣を、一斉に兜の前に掲げた。
「――ガード系最上位職・ロイヤルガードなのだからな!!」
ギラリ、陽の光に反射し、白銀の重装鎧がきらめく。
その威容。古城とのマッチングの所為か、騎士団と言われればつい頷いてしまいそうな、そんな集団の美しさを感じてしまった。
バケツ兜なのに。バケツ兜の集団なのに、妙に格好いいのだ。
「ロイヤルガード、だと……?」
「ガード系最上位職……? 解放されてたんだね。知らなかった」
ドクさんとレナさん、驚きながらもその中を歩いていく。
全員が最上位職と聞くと、なんだかすごいもののように感じてしまうけれど……正直、私には最上位職が何なのかとかがまだわからない。
だって、自分の系統の最上位職だってアークメイジがいる位しか知らないし。
プリエステスなら最上位にハイプリエステスがいる、位しかわからないし。
前衛職なんて上位職の名前をようやく憶えられたくらいの段階で、さらに上の最上位職なんて言われても、正直困る。
「しかし、お前ら全員が最上位職って……何かの冗談みたいだな。どんな条件満たしたらそんな一斉に到達できるんだよ……」
しみじみ言いながらも、ドクさんはお城の先へ進んでいく。
『ナイツ』は結構に大所帯らしく、入り口ほどではないにしろ、城内のいたるところにバケツ騎士が控えていて、私たちが近づくと剣を上に、儀礼的に敬礼してくれる。
最初はそのたびに会釈したりしたけど、トーマスさんから「そんな無理に返さなくてもいい」と言われたので、今では皆スルーしている。
「私にも解らん。そもそも最上位職というのは、クラスアップするための条件がどこにあるか解らないからなれないものだしな――これに関しても、運営さんが驚いていた」
「それはまあ、そうだろうね……今まで最上位職の存在がはっきりしていたのは、剣士系『ソードヴァルキリエ』・聖職者系『ハイプリエステス』・魔法使い系『アークメイジ』の三つまでだったし。そしてそれらに到達した者たちはクラスアップの条件を一切公開していないから、後続は存在は知っていても、なろうと思ってなれるものではなかった」
レナさんの説明で、なんとなく『どれだけ頑張っても到達が難しい領域』みたいなのは理解できた。
どうやら今までも明らかにされていないものが、さらに増えて謎が増した、みたいな状態になってるみたいだけれど。
「『ナイツ』の人たちだけが急にクラスアップしたというなら、やっぱり、バケツ姫に関係することなんでしょうか……? その、バケツ姫に仕えるようになってからそうなったんですよね?」
「うむ……姫様にお仕えすることによって、今の我らが確立できたと言っても過言ではない。という事は、物理的か精神的か……いずれかの要因として『仕えるべき主』が存在することが、ガーディアンからロイヤルガードへクラスアップする要因になるのかもしれんな」
理由はともかくとして、本心から仕えたいと思った相手がいるからこそ……と考えると、トーマスさん達の純粋さとか、条件的な部分も含めて結構ロマンチックに感じられるから不思議。
ドクさんもレナさんも、「ふんふん」と、小さく頷き、何かに納得しているようだった。
-Tips-
職業クラス(概念)
冒険職には、大まかに分けて下位職と上位職、
そして限られた者のみが到達することができると言われている最上位職が存在している。
下位職とは、一般人が最初につくことのできる職業群の事で、
その系統の職業に関して基本的な技術や知識を習得することができる、基礎とも言えるものである。
多くの場合特別な鍛錬などを必要とせず、各職業ギルドに所属の意思表示をした時点でなる事ができる。
初心者から中級者まで様々な者がいるが、そのままでは上位装備を効率的に扱えず、効率のいい狩場で狩りをするには次第に力不足となっていく為、基本的には下位職の冒険者は解りやすい目標として上位職を目指すことが多い。
上位職とは、下位職において十分な経験を積んだ状態で特定の条件を満たした者が到達できる職業群の事を指す。
いずれも下位職より高性能なスキル・装備品を扱えるようになったり、より効率よく狩りをこなすための知識の獲得・訓練ができるようになる為、基本的に同系統の下位職より強くなる。
職ごとにクラスアップするための条件は異なってくるが、上位職までは一般に情報としてクラスアップのための条件が公表されている為、本人の努力次第では短期間で到達することも可能である。
最上位職に関しては謎が多く、ほとんどのクラスにおいて到達するための条件が不明なままとなっている為、意図的なクラスアップそのものが不可能に等しい状況となっている。
現状存在している最上位職到達者はゲーム全体で百人ほどしかいないが、いずれもその到達条件は公表されておらず、到達した本人たちも具体的な条件は謎(いつの間にかなっていたというケースが多い)であったり、意図的に隠しているケースばかりである。
いわば隠し要素・やりこみ要素的な存在ではあるが、絶大なスキル性能や周囲からの関心欲しさにその条件を探し続けるプレイヤーも少なくない。




