#6-2.銀騎士現る
「それはそうと、二人とも暇ならどっか――」
話の切り替わる瞬間。
ドクさんが何か提案しようと、岩場の定位置から立ち上がるのと同じタイミングだった。
「――たのもう!!」
ビリ、と、空気がしびれるような怒声が、私の背後から響き渡る。
「ひぁっ!?」
思わずびくりと立ち上がってしまい、恐る恐る後ろに振り向く――ああ、なんか居る。バケツ兜の全身鎧の人が。
私の10m位先。なんかすごく半端な場所に立っていた。
「あ、あの……ラムで会った……」
そう、ラムで会ったあの人だ。なんでいるのか解らないけど、居るのだ。
せっかくこれから面白い展開に~って思ってたのにこれとか酷すぎる。
「おう! 我が名は『銀騎士』トーマス!! 姫様に仕える忠実なる筆頭騎士なり!!」
ズビシィ! と私に向けて指をさし、トーマスさんはズカズカと鉄靴を鳴らしながら私に近寄ってくる。
やめて、こないで。近づかないでくださいこわいこわいこわいこわい。
「――待て。なんだいきなり現れて」
軽くパニックに陥りそうなところで、ドクさんが割って入る。
私のすぐ近くまで迫っていたトーマスさんも、ドクさんの目の前で足を止め、上から威圧感たっぷりに睨みつけている――ように見えた。
バケツ兜なのでよく解らないけど。
「邪魔しないでもらおう。私はそこにいるマジシャンの娘と、昨日の女ハンター、それから剣士の娘に用があるのだ」
ドクさんも結構背は高い方だと思うけど、トーマスさんは更に大きい。
身長差だけじゃなく、鎧の分余計に大きく見えて、なんだかすごく怖いのだ。
「だから要件を先に話せって。それと、いきなり人のギルドのたまり場に現れてでかい声で威圧的に話すような奴をこれ以上メンバーに近づかせたくねぇな」
ドクさんも負けてない。こっちもサングラスで解らないけど、下から睨みつけているように見える。
ちょっとかっこいいかもしれない。サングラスはともかく、大きな人相手に物怖じしないのってすごい。
「……要件は一つだけだ。我らが主がお茶会を催す。先ほど言った三人は、姫様の客人として来ていただきたいのだ」
しばし睨みあいは続いたのだけれど……やがて根負けしたのか、それとも話を進めることを優先したのか、トーマスさんはそれ以上何かをするわけでもなく、強引に突き進むでもなく、ため息混じりに説明を始める。
「――お茶会?」
トーマスさん達の主――つまり、バケツ姫からのお茶のお誘い、という事らしいけれど。
「然様。私は招待するため来たに過ぎんのだ。ピリピリしないでくれ」
「だったらあんたは上から目線をやめろ。サクヤが怖がってるだろうが」
話の内容を聞いてちょっとは薄れたけど、それでもトーマスさんは怖い。
バケツ兜の所為で表情が全く分からないのもあるけど、声が大きいし、物理的にも精神的にも上から見下してくるのが、私にはちょっときつい。
「大体、他人のギルドに来るのにその兜はなんなんだ。外せよ」
幸い、この場においてはドクさんの方が強気でいてくれるので、安心感はあった。
マルタさんは逆に手が出そうで怖かったけど、ドクさんなら安心というか。加減を知ってるような気がしたのだ。
「この兜は、主と意匠を合わせた、言わば『ソウルコスチューム』というモノだ。礼儀を欠いているのは解っているつもりだが、許し――」
「いいから外せ」
トーマスさんにはトーマスさんなりの理由があったらしいけれど、ドクさんは構わずその兜に手を伸ばす。
「――触れるなっ」
よほど触れてほしくないのか、バッ、と、その場でドクさんの手を振り払おうとするトーマスさん。
だけれど――ちょっと遅かった。ドクさんはいつの間にかトーマスさんの背後に回っていて、兜を奪っていたのだ。
「あん……? お前――」
バケツ兜から出てきたのは、ちょび髭の、ちょっと冴えない顔をしたおじさん。
あんな威圧感たっぷりな声を出していたのに、なんというか、すごく意外な顔だちだった。
ドクさんも、再び正面に回って顔を見て、何やら驚いてる感じ。
「お前、確か『ミリタリー・バランス』のブラッド山崎じゃねぇか?」
「くっ、返せ! 私の兜を返せっ!!」
兜を取り返そうと迫りくる手をひょいひょいとかわしながら、ドクさんが衝撃の名前を口走る。
「ブラッド山崎……?」
「トーマスじゃなかったんだね……」
レナさんと二人、顔を見合わせてしまう。
確かに顔を見ると『トーマス』っていうよりは『山崎』っていう方が似合いそうな感じだけど……
「と、トーマスは主より与えられしソウルネーム!! 騎士としての名だ!!」
――痛すぎる!
ていうかトーマスさんもとい山崎さん顔赤くしてるし、照れてる? 山崎だと恥ずかしいの?
「あれ? でも確か山崎さん達のところって『ナイツ』っていうギルドなんじゃ……」
「山崎言うなっ! その名はもう捨てた。ミリタリー・バランスは――解散したのだ」
何やら事情がありそうな感じ。怖い人かなあと思ってたけど、初対面のそんな印象はもうどこかに消え去っていた。
だって、普通のおじさんの顔だし。山崎さんだし。
「そもそもお前らサバゲー同好会だろ? いつから騎士の真似事するようになったんだよ」
「それは……我らにもいろいろあったのだ。いろいろ、な――」
いろいろあった、のいろいろの部分は気にならないでもないけど、まず解らない単語が出てくる。
「サバゲー? ってなんです?」
とりあえずドクさんを見る。
「サバイバルゲームの略な。銃とか使って疑似的に戦闘をするゲームだな。チームに分かれて撃ちあったり、ボスモンスターみたいに特定の目標をチームで狩ったりするらしい」
「物騒なゲームなんですね……銃?」
ドクさんの説明でなんとなくわかった気がするけど、逆に解らないことも増えた気がした。
だって、こんなファンタジーチックな世界観で銃を使ったゲームって、なんか違和感がすごい。
「私もそこは疑問に思った。このゲームでサバイバルゲームってどうやるんだい? 銃なんてないし、弓か何かで?」
レナさんのおかげで銃らしいものはないのがはっきりした。よかった、世界観壊れない。
人の名前とか食べ物とか服装その他いろいろ変な要素もあるけど、一応ここは剣と魔法のファンタジー世界なのだから、その辺りファンタジーファンタジーしてくれてないと困る。
夢が壊れちゃう。
「……こう、上手い具合にそれっぽい形の棒切れを拾ってだな……『バキューン』と、口で言って――」
みんなの視線が集まり、トーマスさんがちょっと居心地悪そうにそっぽを向きながら、ぽそり、説明を始める。
「口で言うのかよ。棒切れを銃にって子供の遊びか」
「う、うるさいっ! これが意外と面白いんだ!! お前もやってみればよかろう!!」
ドクさんにからかわれてムキになるトーマスさん。
結構普通の人っぽく感じてしまうのは、やっぱり兜がなくなった所為?
「まあ、サバゲーには興味ないが……それで、どうしてお前ら騎士ごっこなんてしてるんだ?」
ドクさんもなんか口元が笑ってる。
警戒する気がなくなったのか、それとも面白い人を見つけたような気分なのかもしれない。
「――我々は、出会ってしまったのだ。仕えるべき主に。このゲーム世界に命を受けた、その意味に気付いてしまった――」
どこか遠いところを見るような眼をしながら、トーマスさんはぽつり、ぽつり、語り始めた。
-Tips-
ガーディアン(職業)
ガード系上位職の一つ。特に呼び名はない。
防御寄りの職ではあるが、ガードナイトと比べ攻撃性能の高いスキルもいくつか用意されており、ある程度行動に自由度が高い。
どちらかというと軽装でも防御効率を上昇させる技能を身に着けた『軽装盾職』という認識が一般的である。
ガード系の特徴として重装をつけたまま自在に走り回ったりすることが可能であるが、ガーディアンは軽装でも重装並の防御力が発揮できるよう訓練を積んだ者が就くことができる職であり、単純な個人での足回りの良さはガード系屈指である。
軽装化によって空いたウェイトの分多くの武器やアイテムを持てるほか、急時には他者を背負ったまま戦闘を続行することも可能であり、PT中での役割は単純な盾職の域を超え多彩である。
もちろん重装化させることによって得られる防御効果も高い為、プレイスタイルの自由度はガードナイトよりこちらの方が高い。
主なスキルとして槍を用いた薙ぎ払い、振り落とし、叩き付けなどの一連の動作を高速で行う『ブランディッシュ』、
大剣を用いた鎧破壊攻撃『カーリーストラッシュ』、
負傷者救護に役立つ運搬負担軽減が可能なパッシブスキル『アーマーヘルパー』などがある。




